35歳のいまも快進撃を続けるテニス界のキング、ロジャー・フェデラー。人々を魅了するその強さの秘密とは

BY MIHO NAGANO

画像: サインを求めて殺到するファン。「彼は紳士で、いい父親でもあるから好きだ」と語るファンが多い。4人の子どもの父であるフェデラーが20代の若手に勝ち続け、連勝記録を伸ばし続ける PHOTOGRAPHBY MIHO NAGANO

サインを求めて殺到するファン。「彼は紳士で、いい父親でもあるから好きだ」と語るファンが多い。4人の子どもの父であるフェデラーが20代の若手に勝ち続け、連勝記録を伸ばし続ける
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 フェデラーは獲得賞金額をはるかに超える金額をスポンサー契約で稼ぐ。企業との契約を多数獲得するには「英語でいかに流暢に話せるかがカギだ」とテニスジャーナリストのクリス・スケルトンは言う。スイス人であるフェデラーの英語力は非の打ちどころがない。語彙の豊富さ、自己を分析し説明できる能力。記者が欲しがるジューシーな発言は避けて、模範解答に洗練されたジョークをまぶす機転。メルセデス・ベンツやロレックスなどの企業が安心して広告塔に起用できる。

 だが『GQ』誌の表紙や、広告写真で貴公子のように微笑(ほほえ)むイメージと、コートでのフェデラーはまた違う。「攻撃的にいくのが自分のDNAだ」と語るフェデラーは、コート上で相手にとどめを刺す際、躊躇はいっさいしない。今大会中も、ネット際で米国人選手のジャック・ソックの首に球を命中させた。敗戦したソックに感想を聞くと「超ムカついた。しかも首だよ!」と笑う。「でも、ロジャーは選手の中でもとびきりナイスな性格だから、あの場合はもう、笑うしかないでしょ」。決勝でフェデラーと対戦し負けた同胞スイス人のスタン・バブリンカも、表彰式で涙ぐんでこう言った。

「ロジャーはこんな僕を見て笑っている。ひどいやつだ。でもいい。僕はいつもロジャーのNo.1ファンだ。テニスを愛する誰もが、ロジャー、あなたのプレーを見たいんだ」。まるで公開ラブレターだ。フェデラーは、ファンからだけでなく、対戦相手の選手たちの敬愛や憧れをも一身に受け、ほとんど「ひとりハーレム状態」を形成している。そして驕(おご)るでもなく、ごく自然体でそれを受け止め、飄々(ひょうひょう)と自由に生きているように見える。

画像: 今大会でフェデラーはマスターズ1000史上、最高齢で優勝。ある観客は言う。「彼がピート・サンプラスを初めて敗った日を忘れない。あのポニーテールの若者は誰だと驚き、それ以来、16年間ファンなんだ」 MATTHEWSTOCKMAN / GETTY IMAGES SPORT

今大会でフェデラーはマスターズ1000史上、最高齢で優勝。ある観客は言う。「彼がピート・サンプラスを初めて敗った日を忘れない。あのポニーテールの若者は誰だと驚き、それ以来、16年間ファンなんだ」
MATTHEWSTOCKMAN / GETTY IMAGES SPORT

 バカラ製のガラスのトロフィーとともに記者会見にやってきたフェデラーは、バブリンカに「ひどいやつ」と言われたことをどう思うかと聞かれると「賛辞だと思った。すごくいい気分」と笑った。「知らない? カメラがない場所では、僕は何度もひどいやつと呼ばれてきてるよ」と続けた。この洒脱さとリラックス。そして重いトロフィーを自分の顔近くにぐっと引き寄せた。写真映りを気にして位置を変えたのかと思いきや、「いや(トロフィーがじゃまで)質問した君の顔が見えなかったからどけたんだ」と、ある記者の目をまっすぐ見て言った。こんな発言には、日頃シニカルな記者たちの顔もつい緩んでしまう。

「ロッカールームに親友はいない」。かつてそう語ったのはマリア・シャラポワだ。相手を倒さないと自分が勝てない世界で友人などつくれるかという彼女の理論には一理ある。だが、ドーピング違反謹慎が解け、復帰する彼女を歓迎すると語る選手は少ない。勝つという目的達成のためにも、世界のどの大会においても、周囲と心地よい関係をさらっとつくり出せてしまうフェデラーのほうが、競技者として一枚上だといえる。

 大会中のある夕暮れ、数千人のファンが練習コートにフェデラーが姿を現すのを2時間以上待っていた。32歳のスティーブン・チャンは、毎日フェデラーの名を検索してすべての記事を読むほどのファンだと言う。「彼はどこかイエス・キリストみたいな感じがしない? 食うか食われるかの勝負の世界で、神みたいに冷静で、テニスを心から愛してるのが伝わるよ」。そう語ると、彼は興奮で言葉に詰まった。成人した男性がフェデラーに感極まって泣く。そんな場面を見るのは初めてではない。筋骨隆々な男性アスリートの人気が高いマッチョ礼賛の米国で、コート上での「静寂」と「冷静さ」で知られるフェデラーがここまで慕われているという事実。チャンはフェデラーが引退してしまったら「自分の中の一部も死んでしまう気がする」と言う。「結婚していて子どももいる僕が、スポーツ選手にこんな感情を抱くなんてヘンだと、十分わかってるんだけど」

 米国のどこの会場でも、多数のスイス国旗がフェデラーのために舞う。「アメリカファースト」の大統領が見たら卒倒しそうな光景だ。自国選手よりも圧倒的に愛され、大声援を受けるフェデラー。フェデラーという存在は、今のアメリカ、つまりトランプ的なものの対極にあるという気がしてならない。

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