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<Women In Motion Series>
挑戦する、女性写真家たち
Vol.4 市田 小百合

Women In Motion Series ― SAYURI ICHIDA
芸術分野で活躍する女性たちに光を当てるべく、グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングが創設したプラットフォーム『Women In Motion』。本インタビューシリーズでは、新たな境地に挑み続ける日本の女性写真家にスポットを当てる。第四回は、市田小百合をフィーチャー

BY AKIKO TOMITA, EDITED BY JUN ISHIDA

 ロンドン在住の写真家、市田小百合の名が知られるきっかけとなった作品《Mayu》シリーズは、当時住んでいたNYでダンサーの小栗麻由とのコラボレーションとして制作された。ミニマムな背景に鮮やかなコスチュームを纏った肉体美が際立つ造形的なシリーズだ。当初はアーティスト写真を依頼されたが、「アーウィン・ワームの現代彫刻のような、ちょっと不思議なラインで身体をとらえる写真にしてはどうか? と提案したところ、麻由さんはすぐに理解してくれた」という。

《Mayu》シリーズは市田がアート作品として公にした2作目にあたる。イメージを「なんとなしにインスタグラムにあげていった」ところ、影響力を持つアート系のアカウントから注目され、これがカナダやスペインでのグループ展への参加、さらに国内で評価されるきっかけとなった『LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS』展(2018)への出品にもつながっていった。

画像: ダンサーと協働した代表作《Mayu》シリーズより MAYU 2018 © SAYURI ICHIDA, COURTESY OF IMA GALLERY

ダンサーと協働した代表作《Mayu》シリーズより
MAYU 2018 © SAYURI ICHIDA, COURTESY OF IMA GALLERY

 いかにも現代らしい成功例の一つに思えるが、もちろん一足飛びにその表現にたどり着いたわけではない。市田が写真を撮り始めたのは中学生のときだ。やがてファッション写真家を目指すようになった彼女は、スタジオ・アシスタント時代に、第一線で仕事をするためには語学力が必要だと感じて渡英、そして持ち前の行動力でNYへと移住した。しかし、海外で直面した厳しい現実は、憧れた表現と商業写真界で求められる資質とのギャップのほかにもたくさんあったという。その一つがアジア人女性として欧米で仕事をすることの難しさだった。

「麻由さんとミーティングを重ねていくうちに、二人には共通の体験があることがわかりました。ダンサーの世界では、もうアジア人の枠はないからと選考の入り口にも立たせてもらえないことが当たり前のようにあるといいます。また写真の世界でも、アジア人かつ女性、という二重のバイアスがかかって、マイナスからのスタートになることを覚悟しないといけませんでした」。市田がアーティスト写真を依頼されながらも身体の造形を強調する作品を制作した背景には、こうした葛藤があった。

 そして、いま取り組んでいる二つの新作シリーズで、市田は新たな境地に進みつつある。彼女が正面から向き合っていること。それは、心の奥底に封印してきた母親との死別である。「一番身近な存在だった母が高校卒業後に他界したのですが、その傷はまったく過去のものにならなくて。だから心に蓋をして見ないようにしていたんです」と語る市田。だが、昨年から全世界を襲ったパンデミックが図らずも内的な変化を促すことになる。「NYの中でも特に死者数が激増しているエリアに住んでいた」こともあり、死への恐怖や母の記憶と強制的に向き合わざるをえない状況になったのだ。新作の一つ《Absentee》(不在者)シリーズの制作は、そんな環境下でスタートした。

画像: 新作《Absentee》シリーズより。自身の身体を被写体に、心の変化を重ね合わせたセルフポートレート作品。「不在者」を意味するタイトルは、パンデミック下での制作期間が、混乱した精神状態を別角度から観察する時間であったことを示唆する ABSENTEE 2021 © SAYURI ICHIDA, COURTESY OF IMA GALLERY

新作《Absentee》シリーズより。自身の身体を被写体に、心の変化を重ね合わせたセルフポートレート作品。「不在者」を意味するタイトルは、パンデミック下での制作期間が、混乱した精神状態を別角度から観察する時間であったことを示唆する
ABSENTEE 2021 © SAYURI ICHIDA, COURTESY OF IMA GALLERY

 他人との接触を避けなければならないため、必然的に被写体は自身の身体や静物となり、撮影場所は人けのない工場地帯を選んだ。時に激しい不安に襲われ、やがて心が静まっていく…… 撮り進めていくうちに、写真は精神状態の記録となり、同時に「人の命はなんて簡単に壊れてしまうんだろう」という昔から抱いていた思いを消化する過程ともなっていく。《Absentee》は、いわば自身の心が重ねられたセルフポートレートなのだ。

 そしてもう一つの新作、母の名をとった《Fumiko》は、生前に撮影された家族写真も使いながら、娘である自身と母親の記憶が交差するように構成した手製本となる予定。「心の傷が癒えないとしても、それでよいのだと思えるようになりました。“死”に対して抱いてきた思いを、作品制作へと向けられる段階に自分自身が進めたこと。それを新作で確認できたように感じています」

 世界にどのような態度で臨むのか? その姿勢や洞察力が写真家にもっとも問われる資質だとすれば、自身と向き合う過程を経ずに、信頼に足る表現者とはなりえない。その意味で市田が今、未来へと続く新たなステージに立っていることは確かだ。

市田 小百合(SAYURI ICHIDA)
1985年福岡県生まれ。東京ビジュアルアーツ卒業後、スタジオ勤務を経て渡英。2012年よりNYに拠点を移し、作品制作を開始。現在はロンドン在住、2021年12月University of Westminsterにて修士課程を修了予定(Photography Arts専攻)。新進の写真家として国内外で注目される
www.sayuriichida.com

ウーマン・イン・モーション(Women In Motion)
グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングにより、映画や写真、その他の芸術分野における女性の貢献に光を当てることを目的として2015年5月に発足。以来、活躍する女性たちの才能を称え、キャリアを支援するプラットフォームとして、人々の意識・行動変容を促す手助けをしている。この女性写真家のインタビュー・シリーズはその一環である。

問い合わせ先
ケリングジャパン
公式サイト

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