コンテンポラリーダンスが導く未知との遭遇─。それは言葉を介さず、世界とつながること。世界をまったく新しい視点で見るきっかけである。2026年秋、ソウルで開催されたフェスティバルを軸に、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が推進するダンスの潮流の軌跡と、その現在進行形を読む。

BY SAE OKAMI

画像: ネモ・フルーレによる『900 Something Days Spent in the XXth Century』は、都市に残る工場跡を上演会場として、20世紀型の工業化社会の進歩と衰退、その後に到来する社会の姿を考察する。フルーレは気鋭のダンサー・振付家。コンテンポラリーダンスの名門校P.A.R.T.S.を修了し、2019年から、現代ダンス界を代表する振付家であり同校のディレクターでもあるアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルとの協働と自作の発表を行う。 ©PHILIPPE LUCCHESE

ネモ・フルーレによる『900 Something Days Spent in the XXth Century』は、都市に残る工場跡を上演会場として、20世紀型の工業化社会の進歩と衰退、その後に到来する社会の姿を考察する。フルーレは気鋭のダンサー・振付家。コンテンポラリーダンスの名門校P.A.R.T.S.を修了し、2019年から、現代ダンス界を代表する振付家であり同校のディレクターでもあるアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルとの協働と自作の発表を行う。

©PHILIPPE LUCCHESE

2025年秋、ソウルで開催されたフェスティバルに見るコンテンポラリーダンスの最前線

 ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバルがソウルで開催された。初回の2022年ロンドン以来、フェスティバルはメゾンの「創造・継承・教育」の精神を共有し、開催都市のダンスコミュニティと連携して公演、振付家のワークショップ、トークを展開している。パリのカルティエ現代美術財団のキュレーター、ポンピドゥー・センターの舞台芸術企画部門の責任者を経てヴァン クリーフ&アーペル ダンス&カルチャー プログラム ディレクターに就任したセルジュ・ローランの提案は常に明快で示唆に富み、コンテンポラリーダンスを通して観客に新たな世界の見方を提示し、創造的な思索へと導く。

画像: マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラによる『カルカサ』。フェレイラは、ストリートやフォークロアのムーヴメントを用いてダンスを刷新。作品の根底には、ポルトガルの15世紀以降の植民地主義、20世紀の保守的な長期独裁政権のトラウマがある。しかしフェレイラは分断を招く歴史批判を避け、多様なコミュニティの連帯による社会的不公正に対峙する意思の表示、そしてエネルギッシュなダンスによって、今最も人気のある振付家となった。『カルカサ』は2024年に京都と高知、25年秋に横浜でも上演された。 ©BERNHARD MUELLER

マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラによる『カルカサ』。フェレイラは、ストリートやフォークロアのムーヴメントを用いてダンスを刷新。作品の根底には、ポルトガルの15世紀以降の植民地主義、20世紀の保守的な長期独裁政権のトラウマがある。しかしフェレイラは分断を招く歴史批判を避け、多様なコミュニティの連帯による社会的不公正に対峙する意思の表示、そしてエネルギッシュなダンスによって、今最も人気のある振付家となった。『カルカサ』は2024年に京都と高知、25年秋に横浜でも上演された。

©BERNHARD MUELLER

 ソウルで上演された10作品は、地理的・世代的多様性が際立った。コンテンポラリーダンスは1980年代から振付家固有の美学と地理的コンテキストが結びつき発展してきたが、1995年フランス生まれのネモ・フルーレから1955年南アフリカ生まれのロビン・オーリンまでをカバーする刺激的な選択は、コンテンポラリーダンスを大きな歴史の文脈に置き直す。フルーレは2019年のデビューから一貫して近代産業の遺構で上演し、消費社会とともに発達した20世紀的な劇場公演文化に一石を投じる振付家であり、オーリンは1990年代からダンスに歌や映像、奇抜な衣装や美術を混合したきわめて饒舌な様式で祖国の複雑な現実を舞台にのせてきた。ソウルでの上演作品も、アパルトヘイトが存在した1970年代、ズールー族の人力車と引き手の思い出にオマージュを捧げたダンスだ。あるいはポルトガルの過去の植民地主義、保守的な独裁政権のトラウマに多様性を尊重するコミュニティの連帯によって対峙するマルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラの『カルカサ』、イタリアで約100年前に流行した大衆ダンス「ポルカ・キナータ」を現代的な文脈で復活させたアレッサンドロ・シャッローニの『ラストダンスは私に』。異なる地点、異なる時代の人々が生きたいくつもの真実が、ダンスのプリズムを通して現実の新たな像を結ぶ。バレエに代表される伝統舞踊の技術や美学を更新し、"今" を表現するための身体を追求し続けてきたコンテンポラリー(=同時代)ダンスだからこそ可能な境地であり、言葉に依らないからこそ、振り付けの芸術は観客の心に深く入り込む。

画像: ベルギーの奇才、ヤン・マルテンスによる『THE DOG DAYS ARE OVER 2.0』では、フィットネスウェアのダンサー8 人が約70分間、正面を向いて同じタイミングでひたすら小さなジャンプを続け、徐々にフォーメーションを変化させ、掛け声をきっかけにいくつかのポーズを挿入する。冷静な計算と限界へ突き進む狂気が、振り付けとは何か、ダンサーとは何かをメタフィジカルに問い直す。ダンスの歴史でベルギーは最も重要な国のひとつであり、1960年以降モダンバレエの巨匠モーリス・ベジャールに拠点を提供し、その後もタブーを恐れず舞踊表現の極北を行く振付家を多数生んだ。緻密でクールなアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル(実はベジャールの舞踊学校の出身)、過剰で過激なヤン・ファーブルというベルギー・ダンスの両巨匠を10代から見て育ったマルテンスは、いわば両者のハイブリッドだ。 ©STUDIO RIOS ZERTUCHE

ベルギーの奇才、ヤン・マルテンスによる『THE DOG DAYS ARE OVER 2.0』では、フィットネスウェアのダンサー8 人が約70分間、正面を向いて同じタイミングでひたすら小さなジャンプを続け、徐々にフォーメーションを変化させ、掛け声をきっかけにいくつかのポーズを挿入する。冷静な計算と限界へ突き進む狂気が、振り付けとは何か、ダンサーとは何かをメタフィジカルに問い直す。ダンスの歴史でベルギーは最も重要な国のひとつであり、1960年以降モダンバレエの巨匠モーリス・ベジャールに拠点を提供し、その後もタブーを恐れず舞踊表現の極北を行く振付家を多数生んだ。緻密でクールなアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル(実はベジャールの舞踊学校の出身)、過剰で過激なヤン・ファーブルというベルギー・ダンスの両巨匠を10代から見て育ったマルテンスは、いわば両者のハイブリッドだ。

©STUDIO RIOS ZERTUCHE

追い風を受け、日本国内のシーンもさらに活性化

 2020年の始動以来、ダンス リフレクションズはフェスティバルに加えてアーティストの創造支援、劇場の上演環境支援を行っている。日本では昨秋に京都と埼玉でフェスティバルが開催され、その後サポート劇場が首都圏に広がり、今秋には東京芸術劇場でロバート・ウィルソン演出『Mary Said What She Said』と岡田利規の『ダンスの審査員のダンス』、世田谷パブリックシアターでピーピング・トムの『トリプティック』、KAAT神奈川芸術劇場で『カルカサ』が上演された。身体と想像力のあらゆる可能性と未知の美を観客と共有する、ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル。永遠の輝きを放つハイジュエリーと、瞬間の芸術であるダンス、対照的な二つのアートは、飽くなき美と創造の探求において響きあう。

画像: 日本での上演サポートも、ダンス リフレクションズの審美眼と適時性を実感させる。東京芸術劇場のパフォーミングアーツフェスティバル『秋の隕石 2025東京』のサポート公演のひとつ『Mary Said What She Said』は、アメリカの実験演劇の巨匠ロバート・ウィルソンとフランスの名優イザベル・ユペールがタッグを組み、奇跡のような時空を現出させた。 ©LUCIE JANSCH

日本での上演サポートも、ダンス リフレクションズの審美眼と適時性を実感させる。東京芸術劇場のパフォーミングアーツフェスティバル『秋の隕石 2025東京』のサポート公演のひとつ『Mary Said What She Said』は、アメリカの実験演劇の巨匠ロバート・ウィルソンとフランスの名優イザベル・ユペールがタッグを組み、奇跡のような時空を現出させた。

©LUCIE JANSCH

画像: 関西ではロームシアター京都との協働が続いている。『Planet[wanderer]』は振付家ダミアン・ジャレと、彫刻家・名和晃平の長年の協働に依る作品。2020年ローレンス・オリヴィエ賞最優秀新作ダンスにノミネートされた『VESSEL』(初演2016年・京都)の続編であり、古事記の「葦原中国(あしはらのなかつくに)」のイメージを展開し、弱さと強さ、調和と生存、破壊と進化の間に揺れる人間の存在を問う。 © RAHI REZVANI

関西ではロームシアター京都との協働が続いている。『Planet[wanderer]』は振付家ダミアン・ジャレと、彫刻家・名和晃平の長年の協働に依る作品。2020年ローレンス・オリヴィエ賞最優秀新作ダンスにノミネートされた『VESSEL』(初演2016年・京都)の続編であり、古事記の「葦原中国(あしはらのなかつくに)」のイメージを展開し、弱さと強さ、調和と生存、破壊と進化の間に揺れる人間の存在を問う。

© RAHI REZVANI

お問い合わせ先:ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
TEL.0120-10-1906

公式サイトはこちら(ALT)

▼あわせて読みたいおすすめ記事

【公式サイトはこちら(ALT)】

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.