陶芸家ダン・マッカーシーは、ニューヨーク州北部の20世紀初頭に建てられた小学校の元校舎に移り住んだ。彼は、アーティストとしてのキャリアと自己を築いてきた都会は今の自分にはもういらないことに気づく

BY NICK HARAMIS, PHOTOGRAPHS BY JASON SCHMIDT, STYLED BY VICTORIA BARTLETT, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

 2006年にクレッチマーがバイク事故で亡くなると、この建物は娘のクロ―ディアが相続したが、その後、売りに出された。マッカーシーが校舎の前の売り物件の看板を見たのは、その先の友人宅に滞在していたときだった。その校舎に「妙な予感と不思議」を感じたのだという。ある意味、ニューヨークではもう得ることのできないあらゆるもの─静寂、再出発のチャンス、冒険の高揚感─をマッカーシーに与えてくれたのだ。ハックルベリー・フィンを例に挙げ、「最初のうち、何週間も意識的にシャワーを浴びないようにしました。完全に野生に戻りたかったのです」とその頃を語った。あるとき、“スピリチュアルな能力”のある女性を招いた。彼女はマッカーシーに言った。「あなたに家を売った人は、すべてをあなたのためにしてくれたのです。今度はあなたの番です。あなたはこの家を所有しているわけではないのです。しばらくここに住むというだけなのです」

 ここで暮らす以上、自分らしい家にしようとマッカーシーは決心した。彼が移り住むよりずっと前に、校舎の修復作業はほとんど終わっていた。それにもかかわらず、ほのかに漂うパーソナルな気配に、彼らしさが感じられる。出窓に置かれた、元アートディレクターで陶芸家のガールフレンド、ポーラ・グライフ作の旧石器時代のお菓子を思わせる粗削りの素朴な燭台。片開きのドアを利用して彼が作った脚台に、ラバー天板を載せたダイニングテーブル。その上には、彼のヒーロー、米国の陶芸家ロバート・ターナーのろくろで作った器が並ぶ。

画像: ダイニングルームのブリーチしたデニムのカーテン。黒いラバー天板を載せた自作のダイニングテーブル。その上に置かれているのはポーラ・グライフとロバート・ターナーの作品。黒板の棚に飾られたビリー・アル・ベンストンの水彩画

ダイニングルームのブリーチしたデニムのカーテン。黒いラバー天板を載せた自作のダイニングテーブル。その上に置かれているのはポーラ・グライフとロバート・ターナーの作品。黒板の棚に飾られたビリー・アル・ベンストンの水彩画

 マッカーシーの自宅にあるほぼすべてのものが、かつてはほかの誰かの所有物であったり、あるいはまったく別のものだったりした。そこは重要なポイントだ。すべてが再生の可能性を象徴しているのである。自作のダイニングテーブルの周りに置かれているのは、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、ジョーン・バンケンパーによる、壊れたティーカップを寄せ集めた装飾的な壺、ハドソンの路上セールやアンティークショップで購入した不揃いの椅子などである。

 マッカーシーのアトリエは1階にある。ベッドルームは2階にあるが、創作が深夜にまで及んだときのために、アトリエの隣にこぢんまりとした質素なベッドルームを用意してある。ある意味で、このアトリエは彼の人生における第一幕、太陽がさんさんと降りそそぐのどかな日々を思い起こさせる場所でもあり、大切にしまっておいた思い出の品々が置かれた場でもある。

画像: 3階のベッドルームに置かれたマッカーシーのベッド&サイドテーブル、ロイ・マクマキンのチェア

3階のベッドルームに置かれたマッカーシーのベッド&サイドテーブル、ロイ・マクマキンのチェア

 ネットで見つけた魚の剝製は、漁船で働いていた70年代後半の10代の頃を彷彿させるものだ。東向きのアトリエに差し込む朝日が、マッカーシーの作品をバラ色に輝かせる。半月型のキャンバスいっぱいに描かれたアクリル画はサイケデリックな虹を思わせる。その多くに書かれたシンプルなフレーズ、「the Damned」(ダムド:パンク・ロック・バンド)や「the Starwood」(スターウッド:ロックコンサート会場)、「Infinity Surfboards」(インフィニティ・サーフボード:サーフボードショップ)などは、青春時代の思い出の人々や場所を呼び起こす。こうしたアクリル画は、ここに越してきたばかりの頃に描いたものだという。「心地よくて安心していた時代に戻る方法だったのかもしれない」とマッカーシーは言う。反対側の壁に立てかけてある18枚の最新作は、ここ2年で仕上げたもので、頭の中に直接流れ込む虹に気づきもせずに、腕を伸ばして恍惚と踊っている裸の人が描かれている。

画像: 元は教室だったマッカーシーのアトリエ

元は教室だったマッカーシーのアトリエ

画像: マッカーシーの作品《ストロベリーアイス》(2018年)

マッカーシーの作品《ストロベリーアイス》(2018年)

 マッカーシーは白い漆喰塗りの地下に続く階段の下まで降りてくると、代表作である生き生きとしたフェイスポットのディスプレイの前で立ち止まった。整然と並べられた高さ約46~56㎝のフェイスポットたちは代わるがわる、あるいは、なぜかいっせいに、多彩な表情を見せる。眠そうだったり、びっくりしていたり、意地悪そうな顔や皮肉っぽい表情、陽気な顔、うれしそうな顔、完全に錯乱しているかのような表情もある。フェイスポットたちは、私たちが感じてほしいように感じているか、もしかしたら、私たちの気分を感じ取っているのかもしれないと、マッカーシーは言う。ボイラーの音が響くなか、「フェイスポットによって気分が違うのです」とマッカーシーは話す。「フェイスポットは世の中に出て、さまざまな形で人々の心を揺さぶります。でも、彼らに自分を投影して意味を与えるのは、私たち自身なのです。結局、フェイスポットは器にすぎません」。当然ながら、私たちを包み込む家にも、同じことが言えるだろう。

※ギャラリーKOSAKU KANECHIKAでは、ダン・マッカーシーと桑田卓郎の2人展が開催中。

Dan McCarthy & 桑田卓郎『Dear Friend』
会期:~4月9日(土)
会場:KOSAKU KANECHIKA
住所:東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 5F
開廊時間:11:00〜18:00
休廊日:日・月曜、祝日
電話:03(6712)3346
公式サイトはこちら

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