インテリアから建築、都市計画まで、人が主役の空間を生み出すことに邁進するデザイナー・山下泰樹。彼の思考を通して「デザインにできることは何か」を探る

TEXT BY TAKAHIRO TSUCHIDA, PHOTOGRAPH BY KOHEI OMACHI

「人を中心に考えると……」。デザイン会社「DRAFT」を率いるデザイナーの山下泰樹にとって、それは口癖のようなものだ。オフィスのデザインを軸に起業した頃から、彼のあらゆる活動には、人間を中心に据える考え方が息づいていた。

「デザイナーとしての活動を始めた2000年代、オフィスをデザインするという発想はまだ日本に定着していませんでした。一方、海外ではGoogleやピクサーといった有力企業がオフィス環境の向上に力を入れていた。日本だけが働く場所を大切にしないのはもったいないと感じました。多くの人は仕事場で長い時間を過ごすのだから、快適で素敵な空間を僕らがつくっていこうと思ったのです」

画像: 山下泰樹(TAIJU YAMASHITA) 1981年、東京都生まれ。DRAFT Inc.代表。インテリアから建築設計、プロダクトデザイン、ブランディングまで幅広い領域を手がけるデザイナー。Best of Year(米)、SBID(英)など海外のデザイン賞を多数受賞し、国際的評価も高い。桑沢デザイン研究所 非常勤講師

山下泰樹(TAIJU YAMASHITA)
1981年、東京都生まれ。DRAFT Inc.代表。インテリアから建築設計、プロダクトデザイン、ブランディングまで幅広い領域を手がけるデザイナー。Best of Year(米)、SBID(英)など海外のデザイン賞を多数受賞し、国際的評価も高い。桑沢デザイン研究所 非常勤講師

 やがて彼が手がけたオフィスは、2016年の「Liveable Office Award」をはじめ数々の国際的なアワードに輝き、海外でも次第に注目を集めるようになる。多くの実績を上げるとともにプロジェクトは大型化し、ジャンルも拡大していった。「デザインする対象が、働くための場から、人が集まる場へと自然に変わっていきました」と山下は話す。

 たとえば千葉県柏市の「KOIL TERRACE(コイル テラス)」は、大学キャンパス、オフィス、商業施設、集合住宅などが集中するエリアに完成したクリエイティブプレイスだ。周辺に暮らす人々が日常的に過ごす場所をつくるのが、このプロジェクトにおける山下の役目だった。

「通常のオフィスはセキュリティのため外部から閉ざされていますが、発想を逆転していかに開かれた場所にできるかが課題に対するソリューションでした。吹き抜けの大空間は壁を本棚にしてあり、誰もが本を手に取ってくつろぐことができます」

 また「+SHIFT NOGIZAKA(プラスシフト乃木坂)」では、建築、インテリア、家具、アメニティといった一連の要素を彼がトータルでデザインしている。植物の根から着想を得たという大胆な外装がまず目を引くが、無垢材のフローリングや手が触れる部分のファブリックなど、素材の使い方にも有機的なフィーリングが貫かれた。

「近代建築の代表的な建築家ル・コルビュジエをはじめ、経済が成長し続けた20世紀は合理的なコンクリートの建物をどんどん建てていこうという人が多かった。しかしその対抗馬として、もっと人を中心に空間を考えようという建築家もいたのです。北欧にはヒュッゲ、英語にはコージーという『心地よさ』を表す言葉がありますが、それがないがしろになっていないか。今なお合理性を追求する世の中に対し、僕はデザイナーとしてそこに取り組んでいきたい」

画像: 「+ SHIFT NOGIZAKA」は12階建てのオフィスビルで2021年4月に開業。「植物の根」をモチーフにした外観がアイコニックだ。建築からインテリアやそのディテールまで、一貫したコンセプトに基づいてデザインされた PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

「+ SHIFT NOGIZAKA」は12階建てのオフィスビルで2021年4月に開業。「植物の根」をモチーフにした外観がアイコニックだ。建築からインテリアやそのディテールまで、一貫したコンセプトに基づいてデザインされた
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

 考えてみれば、オフィスこそが効率を重視するあまり合理主義的になってしまいがちな場所である。そんな状況への問題意識と、秘められたポテンシャルへの気づきから、山下がオフィスを皮切りにキャリアをスタートさせたのは必然だったのだろう。

 こうしたアプローチに加え、近年の彼が力を注ぐのは環境問題に配慮したデザインだ。都市部を中心にスクラップ&ビルドが繰り返される日本において、このテーマに対して建築家やデザイナーが果たすべき役割は大きいに違いない。山下もまた、「どんなに空間が素敵でも、地球を大事にしないとそもそもみんなハッピーにはなれない」と話す。ただしSDGsや循環経済を声高に主張するトレンドには違和感を覚えてもいるようだ。

「日本には、木を使った建築を通じて素材を循環させ、自然とうまくつき合いながら社会を発展させてきた長い歴史があるわけです。それが欧米化や近代化によって失われてしまった。現代の建築の中で、それを取り戻す方法について考えています」

 横浜の臨港地区で進行している、木を用いた建築プロジェクト「臨港パーク」はその好例だろう。木と鉄骨のハイブリッドによる3層構造の公共建築は、海とその周辺の多様な施設に対して明るく開かれ、新しいランドスケープを生み出すことになる。

「木は光合成によって酸素を発生させるだけでなく、二酸化炭素を貯蔵する素材でもあるので活用するメリットは大きいんです。この建物が、自然との本来の向き合い方を取り戻す象徴になればいい。都市の建築に木を使うには耐火性などの厳しい基準をクリアしなければなりませんが、チャレンジングな試みだから意味があります」

画像: 横浜市みなとみらい地区の公園「臨港パーク」に建設予定の複合施設。内外装に木を多用して環境負荷の低減を図る。2023 年完成予定 COURTESY OF DRAFT INC.

横浜市みなとみらい地区の公園「臨港パーク」に建設予定の複合施設。内外装に木を多用して環境負荷の低減を図る。2023 年完成予定
COURTESY OF DRAFT INC.

 さらに最近、山下が新たにトライしているのが「DAFT about DRAFT」というインテリアブランドの立ち上げである。椅子やテーブルなどの家具から、ラグ、オブジェ、テーブルウェアまでライフスタイルにまつわるさまざまなプロダクトを展開するという。

「2年前にプライベートクラブ『OCA TOKYO』をデザインしたとき、世の中にはたくさんの家具があるけれど、その空間で使いたい家具がなかなか見つかりませんでした。家具は衣服と同じように人を包み込むものなのに、どこか人を置き去りにしていると感じたのです。そこで自分で数十種類の家具をデザインしたことが、インテリアブランドを始めようと考えるひとつのきっかけになりました」

「OCA TOKYO」は、従来の排他的で権威的なクラブではなく、ニューヨークなどの都市で以前から見られるような、クリエイティブなコミュニティを生み出すスペースだ。インテリアのコンセプトは「人を彩る器」。料理に応じて器が選ばれ、器が料理を引き立てるように、訪れる人を主役として各スペースが構成された。エレベーターの扉が開くと、目の前には自分の部屋のように設えられた空間がある。「これが新しい時代の格好よさだということをデザインによって表現したかった」と山下。そこで家具は、人のいちばん近くにあって、その場所だけの体験をもたらすカギになる。

「僕は空間をストーリーから発想していくのですが、映画監督もそうですよね。ストーリーを設定しながら、登場人物が過ごす建物、空間、身につけるものなどを決めていく。人を中心に考えるなら、これは自然なやり方です。インテリアのスケッチではいつも家具を一緒に描くので、家具のデザインは難しくありませんでした」

画像: 「OCA TOKYO」は新しいタイプのプライベートクラブとして、2021年に開業。ここに集う多様な人々のコミュニケーションを生み出すために、「人を彩る器」をコンセプトとして、居心地のいい複数の空間により全体を構成した。会員制でありながら、開かれた場をつくり出している PHOTOGRAPH BYJUNPEI KATO

「OCA TOKYO」は新しいタイプのプライベートクラブとして、2021年に開業。ここに集う多様な人々のコミュニケーションを生み出すために、「人を彩る器」をコンセプトとして、居心地のいい複数の空間により全体を構成した。会員制でありながら、開かれた場をつくり出している
PHOTOGRAPH BYJUNPEI KATO

画像: 山下がデザインする新しいインテリアブランド「DAFT about DRAFT」の家具コレクションの一部。左の椅子はフレームがウォルナットの無垢材で、背もたれの裏側から座面にかけてレザーを使用し、クラフツマンシップを感じさせる。右のベンチソファは、ステンレスのベースの上にマットとクッションを載せたもの。繊細な色使いもこのブランドの特徴だ COURTESY OF DRAFT INC.

山下がデザインする新しいインテリアブランド「DAFT about DRAFT」の家具コレクションの一部。左の椅子はフレームがウォルナットの無垢材で、背もたれの裏側から座面にかけてレザーを使用し、クラフツマンシップを感じさせる。右のベンチソファは、ステンレスのベースの上にマットとクッションを載せたもの。繊細な色使いもこのブランドの特徴だ
COURTESY OF DRAFT INC.

「DAFT about DRAFT」の家具は、使う人の生涯にわたり財産になるもの。あえて大量生産を志向せず、長く愛されるブランドにしていきたいそうだ。さらに和の要素もさりげなく匂わせる。

「いかにも日本的、ではないけれど、ラタンなどの自然素材を使ったり、群青色のように繊細な色合いを選ぶなど、どこか日本を感じる家具にしたい。世界がつながり、ものづくりがグローバルになっているからこそ、わずかな差異が大きな個性になるはずです」

 一脚の椅子から建築、そして都市計画まで、山下は自らの仕事をあくまでデザインであって「作品ではない」と言いきる。そのクリエイティビティは、常に誰かのために発揮されるからだ。人の気持ちをもっとポジティブに、楽しく、豊かにするために。デザインを通じてできることを、彼は先見的に考え続けている。

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