ニューヨークの「グッゲンハイム美術館」や滝の上に建つ「カウフマン邸(落水荘)」などの設計で知られる20世紀を代表するアメリカ人建築家、フランク・ロイド・ライト。『開館20周年記念展 帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築』と題する回顧展が、東京・汐留のパナソニック汐留美術館で開催中だ

BY NAOKO ANDO

画像: フランク・ロイド・ライト《帝国ホテル二代目本館(東京、日比谷)第2案 1915年 横断面図》コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館フランク・ロイド・ライト財団アーカイヴズ蔵 The Frank Lloyd Wright Foundation Archives (The Museum of Modern Art | Avery Architectural & Fine Arts Library, Columbia University, New York)

フランク・ロイド・ライト《帝国ホテル二代目本館(東京、日比谷)第2案 1915年 横断面図》コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館フランク・ロイド・ライト財団アーカイヴズ蔵
The Frank Lloyd Wright Foundation Archives (The Museum of Modern Art | Avery Architectural & Fine Arts Library, Columbia University, New York)

 タイトルにあるように、ライトは「帝国ホテル二代目本館」(ライト館/※現在は博物館明治村に一部移築保存)を設計した建築家として日本と大きな関わりをもつ。のちに「東洋の真珠」と称されたこの建物は1923年9月1日、開業当日に関東大震災が起こったものの大きな被害が生じなかったことでも有名だ。本展では、2023年に100周年を迎えたこの「帝国ホテル二代目本館」の設計図面に加えてホテルの全貌が見て取れる模型、家具、装飾がほどこされたレンガや大谷石の部材、食器やメニューなども展示されている。

画像: 展示風景 模型(3Dスキャン&3Dプリンタによる)帝国ホテル二代目本館 建築:フランク・ロイド・ライト 制作:京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 2023年 PHOTOGRAPH:NAOKO ANDO

展示風景
模型(3Dスキャン&3Dプリンタによる)帝国ホテル二代目本館
建築:フランク・ロイド・ライト 制作:京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 2023年

PHOTOGRAPH:NAOKO ANDO

 本展は、1959年に92歳で亡くなるまでの約70年間にわたるライトの仕事を、ドローイング、写真、模型、家具やステンドグラスなどの実物、資料などで振り返る回顧展だ。なかでも、日本初公開となるコロンビア大学エイヴリー建築美術図書館フランク・ロイド・ライト財団アーカイヴズが所蔵するドローイングを多数見ることができるのは、大変貴重な機会。トレーシング・ペーパーやドラフティング・クロスに細い鉛筆などで描かれた精緻なドローイングは、建築を推進するための手段のみならず、見る人を惹き込むアートとしての魅力を湛えている。

画像: フランク・ロイド・ライト 《ドヘニー・ランチ宅地開発計画案(カリフォルニア州ロサンゼルス)1923年頃 透視図》 コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館フランク・ロイド・ライト財団アーカイヴズ蔵 The Frank Lloyd Wright Foundation Archives (The Museum of Modern Art | Avery Architectural & Fine Arts Library, Columbia University, New York)

フランク・ロイド・ライト
《ドヘニー・ランチ宅地開発計画案(カリフォルニア州ロサンゼルス)1923年頃 透視図》
コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館フランク・ロイド・ライト財団アーカイヴズ蔵
The Frank Lloyd Wright Foundation Archives (The Museum of Modern Art | Avery Architectural & Fine Arts Library, Columbia University, New York)

 とくに初期のドローイングには、日本の浮世絵の影響が窺えるという。シカゴの建築事務所で建築家として歩み始めたライトは1893年のシカゴ万博で日本のパヴィリオン「鳳凰殿」を知り日本文化に興味をもち、1905年に初来日。浮世絵に魅せられ、自らコレクター/ディーラーとして多くの作品を蒐集した。

「ドローイングの手前に植物を描き込むという手法は、ライトが独自に発明したもの。これは、ライトが浮世絵に造詣が深かったことに関係すると思われます」と、担当主任学芸員の大村理恵子氏。併せて展示されるライトがとくに好んだ浮世絵師、歌川広重の浮世絵版画からその影響が見て取れる。

画像: フランク・ロイド・ライト 《第1葉 ウインズロー邸 透視図》 「フランク・ロイド・ライトの建築と設計」1910年、豊田市美術館

フランク・ロイド・ライト
《第1葉 ウインズロー邸 透視図》
「フランク・ロイド・ライトの建築と設計」1910年、豊田市美術館

画像: 歌川広重 《名所江戸百景 真間の紅葉手古那の社継はし》 安政4(1857年) 神奈川県立歴史博物館蔵(展示期間1月11日~2月13日)

歌川広重
《名所江戸百景 真間の紅葉手古那の社継はし》
安政4(1857年)
神奈川県立歴史博物館蔵(展示期間1月11日~2月13日)

 ライトが活躍した19世紀末から20世紀後半は、建築技術の目覚ましい発達とともに人々の生活様式が激変した時期でもある。そうした時代に即しながら、ライトの仕事は「カウフマン邸(落水荘)」に代表される個人住宅、一般市民向けの安価なユニット・システム住宅の開発、ホテル、オフィスビル、学校、美術館、住宅地計画、高層ビルから都市計画まで、広範囲に及んでいく。本展ではこれらが時系列ではなくライトを再評価する7つの切り口によって整理され、全貌が明らかにされる。

画像: 展示風景。ユニット・システム実践例であるユーソニアン住宅の原寸モデル展示風景。椅子やベンチに座って空間を体感することができる PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

展示風景。ユニット・システム実践例であるユーソニアン住宅の原寸モデル展示風景。椅子やベンチに座って空間を体感することができる

PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

 ことに特筆すべきは、展示の第3章「進歩主義教育の環境をつくる」だ。ライトの母方の一族には教育者が多く、ライト自身も「教育こそ民主主義の基本である」と考えていたという。座業だけではなく、体験や実験を重視する進歩的な教育と男女平等を志す女性教育者が、プレイルームやアートスタジオ、演劇用のステージ、畑や動物飼育舎などを備えた新たな教育の場の設計をこぞってライトに依頼した。日本において同様の教育方針をもち、女学校「自由学園」を運営していた羽仁もと子・吉一夫妻にも共鳴し、ライトは1921年、校舎を設計している。

画像: フランク・ロイド・ライト 《クーンリー・プレイハウス幼稚園の窓ガラス》1912年頃、豊田市美術館蔵

フランク・ロイド・ライト
《クーンリー・プレイハウス幼稚園の窓ガラス》1912年頃、豊田市美術館蔵

 日本に現存するライト設計による建物は全部で4軒あり、既出の「帝国ホテル二代目本館」(中央玄関部を愛知県犬山市の博物館明治村に移築)、「自由学園明日館」に加えて、兵庫県芦屋市の「山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)」が一般公開されている(残りの1軒は、帝国ホテル初の日本人支配人でライトにホテルの設計を依頼した林愛作の旧邸で基本的に非公開)。

 近代建築の三大巨匠のうち(あと2人はル・コルビュジエとミース・ファン・デル・ローエ)、もっとも日本との関わりが深かったライト。本展で深い知識を得たあと、実際の建築に足を運んでみるのもいいだろう。

画像: 展覧会入り口 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

展覧会入り口

PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

『開館20周年記念展 帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築』
会期:3月10日(日)まで
会場:パナソニック汐留美術館
住所:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
公式サイトはこちら

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