家具メーカーとして知られるイタリアのKartellは、生成AIを活用した革新的な家具デザインを推進。AIが素材選定や製造プロセスを効率化し、地球環境に配慮した製品を生み出している。テクノロジーとデザインの新境地を切り拓く企業理念とはーー

BY KANAE HASEGAWA

 ビタミンカラーのプラスチックでチェアや収納家具を作るイタリアのKartell。しかし、Kartellは家具のブランドではない。何度も取材する中で首肯することになったのはアップルのようなテクノロジー企業だということ。その歴史が眠るミラノ郊外の博物館「Kartell Museo」を訪れると、1950年代におけるガラスに代わる軽量な医療用衛生器具の開発から、家事を楽しく、効率的にこなすためのバケツやプラスチック製キッチンおよびバスツールの開発、そしてインテリアに彩りを与えるカラフルなプラスチック製家具への展開へと、技術革新を繰り返し、ライフスタイルの変化に合わせた革新的なプロダクトを送り出してきた同社の業績の幅広さを知ることになる。

画像: チェアA.I.2019年 デザイナーのフィリップ・スタルクと協働で開発した

チェアA.I.2019年
デザイナーのフィリップ・スタルクと協働で開発した

 そんなテクノロジー企業のKartellが2017年、人口知能(生成AI)を取り入れた家具づくりに取り組み始めたことは自然の流れなのかもしれない。そして、2019年には世界で初めて生成AIとともに制作した家具「A.I.」を発表している。具体的にAIがどのようにして家具のデザインに関わるのか。AIは物理的に存在するわけではなく、コンピュータ上に存在する。そこで、デザイナーのこれまでの活動や指向性を膨大なデータとしてコンピュータにインプットし、学習させる。それとともに、Kartellの持つ樹脂素材や製造技術についても膨大なデータを学ばせる。AIはそこからアルゴリズムによってデザインの提案をするという流れだ。

画像: チェアA.I.が置かれたインテリア

チェアA.I.が置かれたインテリア

 人工知能との家具づくりを率いたフランスのデザイナーであるフィリップ・スタルクは、AIに「使用する素材をできるだけ少なく、そして製造時に出すエネルギーを少なくしつつ、人間の身体を支える椅子を作ってください」というプロンプトを出した。

「人口知能を家具づくりに取り入れるうえで、AIがその力を最も発揮するプロセスはどこなのかを考えました。そして、素材、重さ、強度、デザイン、これらの選定のプロセスをAIに任せることにしました」とKartellのCEO クラウディオ・ルティは話す。

 実際に生成AIを創作に取り入れているある美術家によれば、AIは数秒間に数万回の思考処理が可能だという。どの素材を使い、どのような形状にすれば、どの程度の強度をもつ家具ができるか――AIは人間が検討するより圧倒的に速いスピードで考え、最適解をはじき出すことが可能というわけだ。

画像: A.I.スツールライト 座面高さは45cm、65cm、75cmで展開。生成AIは、一つの金型で3つの異なる椅子に展開できる汎用性あるデザインも導き出した

A.I.スツールライト
座面高さは45cm、65cm、75cmで展開。生成AIは、一つの金型で3つの異なる椅子に展開できる汎用性あるデザインも導き出した

「これまでの家具づくりは、まずデザイナーがデザインをし、そこから試作品を作り、試作品の耐久性のテストをし、その試作品が商品として耐えうるものであることが分かった後、デザインのデータをコンピュータに入力し、製造プロセスを考え、射出成型用の型を考えるというものでした。それが生成AIによって、商品化レベルの試作品まで制作のプロセスを短縮できることになったのです」とルティは加える。

 Kartellがこうした生成AIを取り入れた家具づくりに取り組むうえで協力を仰いだのが、アメリカのソフトウェア企業「Autodesk」だ。Autodesk社では素材、製造方法とコストについて検索ができるように膨大なデータをすでに入手し、デザイナーからのプロンプトに対して最適解を導き出せる生成AIを持ち合わせていた。

画像: A.I. CONSOLEテーブル2024 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF KARTELL

A.I. CONSOLEテーブル2024

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF KARTELL

 2024年には生成AIとともに制作したコンソールテーブル「A.I. CONSOLE」が新たに発表され、日本でもまもなく販売される。その特徴はKartellの持つ射出成型の技術を十分に理解したことで導き出された曲線の多い形にあると言える。チェアにしてもコンソールテーブルにしても、素材がウッドの場合、強度のために素材を組み合わせる上で直線が多くなるが、樹脂を型の中に流し込む一体成型特有のつなぎ目のない曲線が可能になっている。幹から広がる枝葉のような1本脚のコンソールテーブルは、人間ではこれまで考えつかなかった斬新なデザインと言える。そして素材の選定についても、AIによってilly(イタリアの大手食品関連企業)の工場で廃棄されたコーヒーカプセルを使用することが提案され、社会性を加味したソリューションとなっている。

 AIとのものづくりは、試作のための材料の減量や省エネルギー化といった地球環境の改善に寄与することが期待されるだろう。また、ものづくりをする企業にとっても、多大な投資となる金型の数を減らすことにもつながる。加えて言うなら、リサイクル素材を使うことは、現時点ではコストのかかるものであり、実はラグジュアリーブランドにこそ期待したい取り組みである。

お問合せ先/カルテル
公式サイトはこちら

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