CG技術の進化は目覚ましく、アニメーション作品やフルCG作品の映像表現と美しさに舌を巻くとともに、一体どれほどの時間と労力がかかるのだろうと感服してしまう。大人たちが涙したアニメとして『THE FIRST SLAM DUNK』が記憶に新しいが、多くのアニメ映画に影響を与えた作品として2018年公開の『スパイダーマン:スパイダーバース』がある。コミックブックがそのまま動き出したかのような新しい映像体験は、観客をコミックの世界に没入させ、ストーリーを深く心に響かせることに成功した。大人にこそ観てほしいCGを用いたアニメーションとSF作品をピックアップした

BY KANA ENDO

未体験の世界へ連れて行ってくれる革新的なアニメ作品『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

 前任のスパイダーマン、ピーター・パーカー亡き後、スパイダーマンを継承し、悪と戦い街を守っている高校生のマイルス・モラレス。人々を救うためとはいえ、授業を何度も欠席していることが両親にバレてしまうが、自らの正体を明かせず、自分の将来に悶々としていた。そんなとき、唯一心を許せる友人でスパイダーウーマンのグウェンが別の次元からやってくる。久々の再開を喜ぶ二人だったが、ヴィランであるスポットを追っていたグウェンは、早々に別の次元に行ってしまい、マイルスも後を追いポータルに飛び込む。そこでマイルスは様々なユニバースからやってきたスパイダーマン達による最強チームに出会う。自分もチームに入りたいと懇願するが、それには衝撃の運命が待っていることを知る。それは愛する人と世界を同時には救えないという、かつてのスパイダーマンたちが受け入れてきた哀しい運命だった。マイルスは、スパイダーマンとしての運命に抗い、自ら歴史を変えるべく戦い始めるが、その決意が宇宙最大の危機をもたらすことになる。

画像: 脚本・製作は前作から引き続き、フィル・ロード&クリストファー・ミラーが務めた ©2023 CTMG. © & TM 2023 MARVEL. ALL RIGHTS RESERVED.

脚本・製作は前作から引き続き、フィル・ロード&クリストファー・ミラーが務めた
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 前作『スパイダーマン:スパイダーバース』は、CGアニメーションの歴史を変えた革命的な一作と評され、アカデミー賞® 長編アニメーション賞を受賞した傑作となった。最先端のCGと手書きのアニメーションの融合による、コミックがそのまま動き出したような美しくダイナミックな表現を実現するとともに、誰もがヒーローになれるという強いメッセージやストーリーを彩るサウンドトラックも相まって、単なるスパイダーマン映画、アニメーション映画という枠に収まらないアート作品のような映画だと言える。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」。スパイダーマンシリーズで度々登場する言葉だが、本作では、これまでスパイダーマンたちが受け継いできた“哀しきお決まり”を打ち破り、自らの運命に立ち向かうスパイダーマン、マイルスの姿が描かれる。これまで多くの秀作を生み出してきたシリーズのなかにあって、本作はストーリーをぐっと深化させ、暗黙の了解とされてきたダブーに切り込んでいく姿が、まさに今描かれるべきスパイダーマンとして相応しいストーリーとなっている。

 もちろんCGアニメーションも前作以上に存分に愉しめる。まるでジェットコースターに乗っているかのようにダイナミックにアングルが切り替わり、わくわくが加速し映像に没入していく。さらに主人公たちの心境が色彩や絵のタッチで表されるという、実写映画ではなしえないアニメーションならではの表現方法により、画面全体で見る者に訴えかけてくる。まるで音楽と映像を用いたインスタレーションを見ているかのような、新しい映像体験ができる作品ゆえ、劇場での鑑賞が断然おすすめだ。

画像: 製作陣がインスピレーションを受けた映画、『ブレードランナー』や『トロン』、『AKIRA』や『ヒート』などの古典作品へのオマージュが劇中に隠れていたり、思わぬキャラクターのカメオ出演など、多くの仕掛けも観客を愉しませる ©2023 CTMG. © & TM 2023 MARVEL. ALL RIGHTS RESERVED.

製作陣がインスピレーションを受けた映画、『ブレードランナー』や『トロン』、『AKIRA』や『ヒート』などの古典作品へのオマージュが劇中に隠れていたり、思わぬキャラクターのカメオ出演など、多くの仕掛けも観客を愉しませる

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画像: 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』 全国の映画館で公開中 ©2023 CTMG. © & TM 2023 MARVEL. ALL RIGHTS RESERVED. 公式サイトはこちら

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
全国の映画館で公開中
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地下都市で暮らすのはなぜなのか、謎解きSFサスペンス『サイロ』

 舞台は近未来。人々はサイロと呼ばれる筒状の地下都市で自給自足をして暮らしている。下層階に住む人は、ボイラーのメインテナンスや機械修理などの重労働を担い、高層階に住む人は、役人や医者といったエリートたち。144階あるサイロにはエレベーターはなく、上下移動は螺旋階段のみ。サイロでは「外に出たい」という言葉は禁句で、それを言った者は有無を言わさずに地上に出されてしまい死んでしまう。地上には有害物質が蔓延しているとされているが、果たしてそれは事実なのか。疑問を持った人々は、自ら外に出て死んでしまったり、謎の事故死を遂げていったりする。サイロの謎を解明しようとしていた恋人ジョージを亡くしたジュリエットは、機械部から高層階で働く保安官へと異例の昇進を果たし、ジョージの死の真相やサイロの闇を調査し始める。

画像: ジュリエット役のレベッカ・ファーガソンは主演とともに製作総指揮にも名を連ねる ©APPLE TV+

ジュリエット役のレベッカ・ファーガソンは主演とともに製作総指揮にも名を連ねる

©APPLE TV+

 ニューヨーク・タイムズのベストセラーに掲載されたヒュー・ハウイーの小説『ウール』、『シフト』、『ダスト』からなる『サイロ』三部作をもとに作られたドラマ。ディストピア世界を描いたSF作品は数多くあるが、『サイロ』の白眉な点は、序盤で語り手が変わるという巧妙な演出や、現代における縦社会を模したサイロの空間デザインに加え、レベッカ・ファーガソンやその他の主演陣の演技力だ。ファーガソンが演じるジュリエットは保安官に任命されるが、サイロでの保安官というのは、警察庁長官のように警察官のトップの役職で、裁判官や刺客と対等にやり合う。その姿は危なっかしさもあるが実に清々しく、彼女の力強い眼差しとスラッとした体躯により見事にハマり役となっている。点と点だった事象が線となり面となっていき、回を追うごとにぐんぐんストーリーに惹きつけられていく。

 近未来とはいうものの、テクノロジーは発展しておらず人々はアナログな暮らしをしている。技術力がないわけではなく、協定と呼ばれる法律によって高精度なツールを作ることが禁止されており、これには何かしらの思惑があることが暗示される。また子供をつくる権利は抽選制かつ、1年間に限るという謎の規則を筆頭に、数多くの厳しい規制があるが、多くの人々は疑問を感じず、自分たちを守るためのものだと信じている。一体なんのために、いつサイロは作られたのか、そしてサイロ以前の記憶はなぜないのか。様々な伏線を回収しながら刑事ドラマのように物語は進んでいく。シーズン2の製作も決定したということなので、原作同様ロングシリーズになることを期待したい。

画像: ジュリエットと対立することになるサイロ司法部の警備隊長、ロバート・シムズは、ラッパーのコモンが演じる ©APPLE TV+

ジュリエットと対立することになるサイロ司法部の警備隊長、ロバート・シムズは、ラッパーのコモンが演じる

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画像: Apple TV+『サイロ』シーズン1配信中 ©APPLE TV+ 公式サイトはこちら

Apple TV+『サイロ』シーズン1配信中
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まるで観る精神安定剤のような哲学的アニメーション『ソウルフル・ワールド』

 中学校の非常勤講師として生徒たちに音楽を教えているジョーだが、ジャズミュージシャンになる夢を捨てきれず悶々と日々を過ごしていた。ある日、憧れのミュージシャンのバンドメンバーとして演奏することになり、有頂天になったジョーは、マンホールの穴に落ちてしまう。目覚めるとそこは死後の世界へ向かう通路。なんとしてもライブに出演したいジョーは必死で抵抗し、別の世界へたどり着いてしまう。そこは生まれる前の魂である“ソウル”たちが、“どんな自分になるか”を決める世界だった。ソウルたちはさまざまな体験を通して“人生のきらめき”を見つけることで地上へ向かうことができる。22番という名のソウルのメンターになったジョーは、地上に戻るために協力を求めるが、22番は何にも興味を示さず、地上行きのチケットはなかなか手に入らない。

画像: 監督は『トイ・ストーリー』シリーズに原案や製作総指揮で関わり、『モンスターズ・インク』、『カールじいさんの空飛ぶ家』の監督を務めたピート・ドクター © 2023 DISNEY/PIXAR

監督は『トイ・ストーリー』シリーズに原案や製作総指揮で関わり、『モンスターズ・インク』、『カールじいさんの空飛ぶ家』の監督を務めたピート・ドクター

© 2023 DISNEY/PIXAR

 本作は、一見ファミリー向けの作品に見えるが、大人にこそ見て欲しい哲学的な作品だ。もちろん子供が見ても愉しめる作りにはなっているが、ずしんと心の奥に響く深いストーリーは、人生の楽しいことも辛いことも経験してきた大人だからこそ共感できることが多い。例えば、スポーツや仕事に熱中し、普段は出せないようなパワーを発揮した際“ゾーンに入る”という表現を用いるが、作品内ではソウルたちがゾーンに入る様子が巧妙に描かれる。ゾーンに入り込みすぎたソウルは迷える魂となり、暗晦な世界へ堕ちていく。このように、“気持ち”という目に見えない曖昧なものを視覚として捉えられることで、自分はなぜ落ち込みやすいのか、なぜ怒りっぽいのか、何のために生きているのだろうといった日々生きていく中で生じる疑問に、ひとつの解答例を示してくれる。

 そして鑑賞後には、何か大きなことを成し遂げたり、夢を叶えたりしなくても、自分の人生に誇りを持っていいのだと思うことができるはずだ。まるで温かいお風呂に浸かるように、じんわりと心がほぐれていくのを感じるだろう。夢を追い続けるジョーと、何のために生きるのかわからない22番。彼らの冒険を通して、「生きる」とは何か、人生の目的とは何かを問いかける。ジョーと22番が見つけた答えに心が震える。

画像: 地上の世界と生前の世界は色のトーンや、質感、サウンドなどを巧みに使い分け明確に描き分けられている © 2023 DISNEY/PIXAR

地上の世界と生前の世界は色のトーンや、質感、サウンドなどを巧みに使い分け明確に描き分けられている

© 2023 DISNEY/PIXAR

画像: 『ソウルフル・ワールド』 ディズニープラスで配信中 © 2023 Disney/Pixar 公式サイトはこちら

『ソウルフル・ワールド』
ディズニープラスで配信中
© 2023 Disney/Pixar

公式サイトはこちら

*各作品の公開および配信状況は2023年6月25日現在のものです。

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