BY SATORU YANAGISAWA, PHOTOGRAPHS BY SEIJI FUJIMORI, STYLED BY MIHO OKABE, HAIR & MAKEUP BY KUBOKI AT AOSORA
田中圭 スペシャルインタビュー
「四十にして惑わず」とは、儒学の始祖である孔子の言葉として、論語に記されている一節だ。人間は40歳にもなれば道理というものが明らかになり、惑うことがなくなる、ということを意味する。この夏、40歳を迎えた田中圭には、そのような意識は芽生えているのだろうか。
「それが、まったくないです(笑)。20代は何もわからないまま過ぎていって、30代は自分なりに走ることができた。そして40代はこれまでたどってきた道を振り返りながら、また前に進んでいくのだろうと思うと確かにワクワクしますが、気持ちとして何か変わったかというと、全然変わっていない。『不惑の40歳』と言われますが、僕はきっとそんなことはなく、頭をグルグルさせながら、今までと同じように生きていくのだろうなと思います」
30代半ばで主演したドラマ『おっさんずラブ』でブレイクを果たし、その後は息つく暇もないほどに駆け抜けてきた。
「以前と比べたら体力は確実に落ちていますが、逆に役者としての"感覚" みたいなものは年齢を重ねるにつれてしっかり育っている。自分が演じる役はもちろん、ほかの俳優さんの役柄に対しても、今までは感じられなかったこと、見えなかったところに気づけるようになりました。そういうアンテナみたいなものはまだまだ成長しているというか、ちゃんと蓄積されているということを実感します」
決して自分を取り繕うことなく、感じていること、思っていることを正直に口にするさまは、ごく自然体だ。そんな彼が、何事においてもまず意識するのは"楽しむ" ことだという。
「たとえて言えば、これはペットボトルの水なんだけど、もしかしたら水に見えていない人がいるかもしれない。同じ世界を生きて、同じものを見ているはずなのに、違うとらえ方をする人もいる場合に、どうすれば強い自分でいられるのかと考えて、僕が出した答えが"ポジティブであること" だったんです。自分が楽しければ、そして周りの人も楽しんでくれればいいな、という気持ちが根底にあって、自分の周りにもそういう人が多い。やっぱり、楽しんでいる人は強いなと感じるので、少しでもそうなれたらと思っています」
だが、そのような考えに至るまでには、観る者にはうかがい知れない葛藤もあった。
「僕自身、『周りからこう思われたい』という欲求がないんです。自分を説明したところで、全員に同じように受け取ってもらうことは不可能なので、自分が楽しければいいというのも、もしかしたら諦めなのかもしれません。昔は変な頑固さや、とがっているところがあって、バラエティに出ても『役者だから、ここで評価されなくてもいい』と思っていたし、ある先輩から『お前は最後の昭和の俳優だ』なんて言ってもらったこともありました。でも、こうやって年を重ねていくと、バラエティも楽しいし、何か新しいことに挑戦したり、誰かと何かをつくったりするのも楽しい。それによって喜んでくれる人がいたら素直にうれしいと思えるようになりました」
40歳を迎えた瞬間、劇的に何かが変わることはないとしても、40代の田中圭がこれからの人生をどう仕立てていくのかが楽しみであるのと同時に、変わることなく、今のままの彼でいてほしいという気持ちも湧き上がってくる。
「僕もたぶん変わってきていると思うんです。雑誌の振り返り企画で過去のインタビュー記事を読むと、今と言っていることがあまり変わらないので、根本は変わっていないのかもしれないですが、それでも僕は、自分は変化していると信じたい。そう信じたいですが、現状はよくわからないです」
そんな答えも実に彼らしい、嘘偽りのない正直な気持ちなのだろう。
この9 月には、出演する映画『あの人が消えた』が公開。高橋文哉が演じる主人公の職場の先輩役として、二人の名コンビぶりに注目が集まっている。
「エンドロールまでが作品になっているので、最後まで楽しめると思います。ただ、みなさんはかっこいいのに、僕だけ少しイジられています……。オイシイところを持っていってしまいました(笑)」
40歳にして、どこまでも愛される男なのだ。
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