BY REIKO KUBO
カトリーヌ・ドヌーヴがシラク大統領夫人を熱演!『ベルナデット 最強のファーストレディ』
現エマニュエル・マクロンから数えて3代前のフランス大統領ジャック・シラクは、大の相撲愛好家、親日派、さらに恋多き艶福家として知られている。カトリーヌ・ドヌーヴが演じる妻のベルナデットは、パリのエリート政治学院の同級生ジャックと結婚し、厳格なキリスト教育を受けたブルジョワ娘らしく家庭に入り、夫の政治活動を支えてきた。その内助の功が実り、ジャックは1995年の大統領選に勝利。官邸の窓から集まった支持者に手を振るジャックの傍らに静々と進み出て、ベルナデットも手を振ろうとしたその瞬間、「邪魔だ!」と恐ろしい形相で夫に睨まれてしまう。その後も、ピンクのスーツ、頭に小さなお帽子を乗せたベルナデットは時代遅れと批判され、夫とその取り巻き、父の秘書を務める娘たちから「表に出るな!」と邪魔者扱いを受ける。
ところがダイアナ元妃の悲劇の事故が怒った夜、大統領が恋人のイタリア人女優と過ごしていたことがすっぱ抜かれる。堪忍袋の尾が切れたベルナデットはイメージ戦略アドバイザーやカール・ラガーフェルドを味方につけ、持ち前の政治感覚で政局を読み、ジャックを凌ぐ人気を獲得してゆき……。
映画の冒頭、「この映画はフィクションである」と記されてはいるが、本作で監督デビューを飾ったレア・ドムナックはベルナデットの人生に魅了され、多くの資料を検証しながら映画化に漕ぎつけたという。シラクはもとより、二コラ・サルコジをはじめ多くの政治家を実名で登場させ、家父長制社会をコミカルに風刺した本作は、フランスで大ウケしてヒットを記録。カトリーヌ・ドヌーヴは、フランソワ・オゾン監督の『しあわせの雨傘』で好演したクローゼットに押し込められたマダムの快進撃を再び痛快に演じ、今年81歳を迎えるという年齢を感じせない魅力とユーモアを放っている。
『ベルナデット 最強のファーストレディ』
11月8日(金)より新宿ピカデリー他全国ロードショー
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巨匠リドリー・スコットと実力派俳優陣のタッグ&驚異の映像で期待が高まる!『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
巨匠リドリー・スコットが古代ローマを舞台に、復讐に燃える剣闘士(グラディエーター)マキシマスの壮絶な闘いを描いた『グラディエーター』(2000年)は、第73回アカデミー賞の作品賞、主演男優賞など5部門を受賞し、世界的大ヒットを記録した。その24年ぶりとなる続編は、近年も『最後の決闘裁判』『ハウス・オブ・グッチ』『ナポレオン』と圧巻の映像技術とスリリングなドラマを放ち続ける巨匠スコット自らメガホンを取るとあって期待を集めてきた。本作の主人公は、平穏な暮らしをローマ軍の侵攻によって破壊され、愛する妻を殺されたルシアス。絶望の中で捕虜となった彼は、奴隷商人マクリヌスの元で剣闘士となり、狂える双子の皇帝カラカラとゲタが圧政を敷くローマのコロセウムで死闘を繰り広げることになる。
前作ではマキシマスを演じたラッセル・クロウと、宿敵コモドゥス役ホアキン・フェニックスの対決が見どころとなったが、本作でルシアスに扮するのは『異人たち』『aftersun/アフターサン』などで人気急上昇のポール・メスカル。そして奴隷の身分からのし上がり、自由と権力を得たマクリヌスをデンゼル・ワシントンが怪しく演じる。ルシアスたちが守る城塞をローマ艦隊が襲う大迫力のシーンや、サメを放って巨大水槽と化したコロセウムでのグラディエーターたちの死闘など、ほぼ8割は実写という驚異の映像スペクタクルの中、ルシアスの復讐と宿命の火蓋が切って落とされる。
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
11月15日(金) 全国公開
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献身的な母親像と現実逃避の恋、その間で揺れ動く女性の心情を丹念に描く『山逢いのホテルで』
スイスの山間を上るケーブルカーに乗って、巨大なダムのほとりに建つホテルに向かう白いコート姿のクローディーヌ。馴染みのフロント係にチップを渡し、彼が指し示した単身で短期滞在の外国人男性客に近づき、話が弾めば男の部屋で体を重ねる。そして事が済めば山を降り、口紅を落として日常の暮らしに戻ってゆく。ダイアナ妃のファンで、障害を抱えた一人息子を慈しみながら、クローディーヌはスモック姿で仕立て屋を営んでいる。献身的な母としての親子二人暮らしと、母から女に戻る山でのひととき。そんな二重生活がこの先もずっと続くと思っていたクローディーヌに予期せぬ事が起きる。
スイスの新鋭監督マキシム・ラッパズが、スイスの絶景にヒロインの孤独を漂わせながら、彼女の慟哭と決断によって観る者の心を震わせる。監督のラブコールに応えて母と女、そして恋人と表情を変える主人公を優美に演じたのは、『そして僕は恋をする』で注目を浴び、『バルバラ セーヌの黒いバラ』でセザール主演女優賞に輝いた名女優ジャンヌ・バリバール。クローディーヌのラストの身を切るような決断を、バリバールは「『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』に対するアンサーなの。ただし、映画が回答にたどり着くまで50年もの歳月がかかったわ」と語った。シャンタル・アケルマンが1975年に監督したフェミニスト映画の白眉『ジャンヌ〜』を知れば、50年の歳月が生み出した2本の映画の共鳴を聴くことができる一方で、『山逢いのホテルで』は『ジャンヌ〜』抜きでも大人の恋と胸に迫る旅立ちの物語を楽しめる仕上がりになっている。
『山逢いのホテルで』
11/29(金)よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
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