BY SHION YAMASHITA PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA STYLED BY ATSUSHI KIMURA
伝統と革新の両輪によって400年以上受け継がれてきた歌舞伎に、新しい息吹を注いだ歌舞伎NEXT『阿弖流為〈アテルイ〉』。劇団☆新感線の中島かずきが脚本、いのうえひでのりが演出を手がけて2015年に上演され、当時、市川染五郎を名乗っていた松本幸四郎と中村勘九郎、中村七之助が熱狂と興奮に満ちた劇空間を創り上げた。この"歌舞伎NEXT" とは何か? 発案者の一人である幸四郎にその思いを聞いた。
「ひと言で言えば"混ぜる"ということです。新作歌舞伎は、何かを原作に歌舞伎化するとか、作家の方に歌舞伎の脚本を書いていただくというコラボレーションですが、"歌舞伎NEXT"は、歌舞伎の伝統と新しい手法を混ぜ合わせることで、今までにないものが生まれることを目指したものです。『阿弖流為』は、いのうえさんと中島さんと3 人で何か新しいものを創ろうと話していたことが実現し、さらに勘九郎くんと七之助くんが出演してくれて、理想どおりの配役で始められたのがうれしかったです。実は、そのときすでに次の歌舞伎NEXTは『朧(おぼろ)の森に棲む鬼』にしようというご提案をいのうえさんからいただいていました」
その言葉どおり、第二弾となる歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』では松本幸四郎と尾上松也がダブルキャストで、主人公のライと、対峙する武将のサダミツの二役をそれぞれが演じる。『朧の森に棲む鬼』は2007年に劇団☆新感線が幸四郎(当時は市川染五郎)を主演に迎えて初上演し、のちに演劇を映像化して映画館の大スクリーンと大音響で楽しむ「ゲキ×シネ」でも上映されている傑作だ。尾上松也には本作に出演する心境について聞いた。
「うれしさと同時に、幸四郎さんがなさっていたオリジナル作品の素晴らしい印象があります。幸四郎さんのライは僕の憧れですので、ダブルキャストで演じるということは、冷静に考えるとハードルの高い挑戦だと思います。わかりやすく言えば、古畑任三郎役を田村正和さんとダブルで演じてほしいといわれたようなものです(笑)」
ユーモアたっぷりに答えつつも、そのプレッシャーは伝わってくる。ふたりは、歌舞伎で共演したことはもちろんあるが、劇団☆新感線で主演を務めたという共通点もある。劇団☆新感線の作品にはどのような魅力があるのだろうか。
「いのうえさんの演出は"それができたら格好いいし、お客さまが驚くだろう" と想像はできますが、とてつもなく大変なことが求められます。でも理屈にはかなっているから、それを演るしかない、というところに魅力があります(笑)」と幸四郎。
一方で松也は「僕は『メタルマクベス』に出演しましたので脚本は宮藤官九郎さんでしたが、いのうえさんが体現したいと考えている楽しさや面白さは刺激的で共感できるものばかりです。いのうえさんご自身の中に歌舞伎の要素をどこかしらに備えていらっしゃるので、歌舞伎に携わっている僕自身もワクワクしますし、純粋にうれしいです」と語った。
ひと回り年が離れているふたりは、これまでの共演でどんなことが印象として残っているのだろうか。
「1992年に僕が初めて香川県の金丸座に行ったときに、共演はしていませんが、松也くんと一緒に(中村)時蔵(現・萬壽)さんのファミコンで遊んだことを覚えています。時蔵さんが所有者だから、強かった(笑)。僕たちは負けてしまって、彼が大泣きしたのを覚えています」と幸四郎。
松也は「僕も金丸座に行くのはそのときが初めてでしたが、まだ10歳にもなっていなくて、確かに悔しがって号泣していましたね(笑)。金丸座のこんぴら歌舞伎には2014年のときも幸四郎さんとご一緒させていただいて、僕は『車引』の桜丸や『寺子屋』の源蔵を勤めさせていただきました。若手だけで金丸座の幕を開けることや通し狂言に出させていただく機会は珍しいことでしたので、僕にとって忘れられない公演の一つです。そのときに幸四郎さんから"歌舞伎NEXT" をなさると伺って、僕もいつか出させていただきたいと思いました」と続けた。
まったくタイプの違うふたりはどんな世界観を描くのだろうか。
「僕が演じるライは、これまで見てきたものとは、また違うライになると思っています。それよりもライバルである幸四郎さんのライを同じ舞台上で、生で見させていただけるのは、とても楽しみです。僕の脳裡に残っている初演時の名台詞や名場面が舞台で再現されるのを、ファン的な目線で見られることにも期待しています」。
そう語る松也の言葉を聞きつつ、幸四郎自身も第二弾への思いを語った。
「歌舞伎NEXTが『阿弖流為』で第一歩を踏み出し、それがあるからこそ、次がある。僕からすると、今はまだ、何かが"生まれた" というよりも"始まった" という感じです。混ぜ合わせることで、この世にないものを生み出す。それを目指して、挑みます」。
その成果を見るのが待ち遠しい。
松本幸四郎(まつもと・こうしろう)
1973年、東京都生まれ。父は二代目松本白鸚、息子は八代目市川染五郎。屋号は高麗屋。2018年1 月、歌舞伎座 高麗屋三代襲名披露公演『壽 初春大歌舞伎』で十代目松本幸四郎を襲名。古典から復活狂言、新作歌舞伎まで幅広い演目に取り組む一方で、劇団☆新感線の舞台や映像作品にも出演し人気を博す。
尾上松也(おのえ・まつや)
1985年、東京都生まれ。父は六代目尾上松助。屋号は音羽屋。近年は『魚屋宗五郎』の魚屋宗五郎、『東海道四谷怪談』の民谷伊右衛門など、古典作品の大役に挑んだ。ミュージカル『エリザベート』のルキーニ役など歌舞伎以外の演劇や映像作品でも活躍している。『メタルマクベス disk2』で劇団☆新感線の舞台にも出演。
HAIR & MAKEUP BY TOMOYO TSURUSAKI(FOR KOUSHIRO), YASUNORI OKADA(FOR MATSUYA)
歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』
公式サイトはこちら
2024年11月30日〜12月26日 新橋演舞場
チケットホン松竹 TEL. 0570-000-489
2025年2 月4 日〜25日 博多座
博多座電話予約センター TEL. 092(263)5555
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