BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

──『ハリー・ポッター』シリーズは、世界中で子どもから大人まで愛されている、モンスターのような作品といえますね。
稲垣吾郎(以下、稲垣) モンスター……! 確かにそうですね(笑)。
──稲垣さんご自身は、この作品の魅力をどのようにお考えでしょうか。
稲垣 ワクワクドキドキするような魔法の世界のファンタジー、そういう印象が強かったんですが、舞台への出演が決まってから映画を改めて観たりすると、子どもたちの成長と共に、しっかりとした奥深い人間のドラマが描かれているところが魅力的だと思いました。親の話でもあったりしますしね。愛、と言ったら少し大げさかもしれませんが、人を愛することなど、大切なことを教えてくれる物語でもありますよね。その愛の形もそれぞれなんだと……母が子を想う気持ちも、それぞれですし。
──悪役たちにも、それぞれに。
稲垣 そう、悪役たち! それぞれに魅力があるんですよね。それを壮大なファンタジーとして描いている、素晴らしい作品だと思います。
──ハリーの子ども時代からしっかりと人物を描いているからこそ、“呪いの子”までシリーズが続いている気がします。
稲垣 そう、僕もそう思います。自分だったら、と置き換えて考えるのも楽しく、学びになる物語ですよね。自分だったらどの寮がいいかなとか(笑)。

──イギリスを舞台にした魔法のおとぎ話であることをはじめ、衣裳や建物など文化的にも興味を惹かれる要素も多いですよね。
稲垣 舞台上でも、それを再現する力がすごいですよね。しかも専用劇場でそれを実現するって、本当にすごいことだと思います。赤坂の駅を降りてから始まる、徹底した演出での世界観への誘い方。スタジオツアー東京も、僕はまだ行っていないんですが、そちらも間違いなく徹底して作られているんでしょうね。
──世界中で、『ハリー・ポッター』という作品を守っているような。
稲垣 ああ、いい言葉ですね。世界のみんなで守っている……おっしゃる通り、その情熱は僕も感じました。衣裳合わせもね、普通ならイヤになってしまいそうなほどのミリ単位の細かさなんです(笑)。でもそれが、だんだん面白くなってきて。ミリ単位で調整していくことで、本当に良くなっていくんですよ。嫌気がさすどころか、笑みさえこぼれてきました。
──おそらく、そのミリ単位のこだわりに気づく作品のファンもいらっしゃるでしょう。
稲垣 しかもハリーを始め、ひとつの役に何人も演者さんがいらっしゃるので。その人によってまた、細かな調整があるはずなんです。そういう裏側を知れば知るほど、その徹底ぶりに感動すら覚えます。子どもの頃にこういう作品、僕も観たかったなぁ。ヨーロッパ的な世界観に、イリュージョン! 本当にうらやましい。僕が小中学生だった頃もいろいろな舞台作品がありましたが、ここまでのものって、やはり技術的にも、その頃はまだありませんでしたから。

──『ハリー・ポッター』だから初めて生の舞台を観る人や、初めて稲垣吾郎さんの生の芝居を観るきっかけになる人もいることに、ワクワクします。
稲垣 僕のほうこそ、ワクワクしています。お客様全員が、吾郎ちゃんファンだとは思っていませんから(笑)。逆に吾郎ちゃんうちわを持ってこられたら困っちゃいますけど(笑)。
──小学生や小さな子どもの観客にはおそらく、“ハリーである稲垣吾郎さん”という印象になりますね。
稲垣 それもまた嬉しいですよね。どのキャストも等しく、作中の登場人物として観ていただけるのも、やりがいに繋がります。この舞台を初めて観た小学生が他の場所で僕を見かけたときに、“ハリー”って呼んでくれたら嬉しいですよ(笑)。先程、”モンスター”と例えていらっしゃいましたが、それくらい力のある、影響力のある作品だと思います。これまで自分が出演してきた舞台から見える景色とはまた違うものが、見えそうな気がするんです。
──稲垣さんは、エンタメの絶大な光を浴び、その最たるものを肌で感じてこられた方だと思うので、そういう方が、世界的な巨編の真ん中に立つことに、期待せずにはいられません。
稲垣 ありがたいです。今まで演じてきた……例えばベートーヴェンですとか、周囲を振り回して突き進んでいくような印象でしたが、今回は新しい取り組みになりそうな予感がしています。もともとは子どもたちの冒険が軸になっている話ですから、すごく繊細な表現が必要になってくる。大人になり、父になったハリーを演じるのに、今の年齢の僕だから演じられる表現があるだろうということを、僕自身が楽しみにしています。

──作品外のこともお伺いしたいのですが、ご自身のことで今、何か惹かれていることはありますか?
稲垣 そうですね……香取慎吾くん、草彅剛くんと僕との新しい地図で、ファンミーティング的なイベントをやったりしているんですけれど、それぞれにソロのコーナーがありまして。僕はですね、高橋幸宏さんが1970年代に出されたアルバムの中の曲をカヴァーしているんですよ。「SARAVAH!」(サラヴァ!)という曲です。高橋さんは残念ながらお亡くなりになってしまいましたが……(YMO結成前の)細野晴臣さん、坂本龍一さん、そしてスタジオミュージシャンとして山下達郎さんがギターを弾いていらっしゃる、本当に名盤です。
──なんという、偉人の集い!
稲垣 ですよね。さらには吉田美奈子さんがコーラスをやっていらっしゃったり。最先端の音楽も興味深いですけど、僕にとってはやっぱり、この時代の音楽っていいなぁって改めて思ったんです。自分の中で今、ブレイクしています(笑)。
──今、古き良き日本の楽曲が世界で愛されていますが、『ハリー・ポッター』然り、本当に良いものは国も時も越えるものですね。
稲垣 そういう求められ方って、いいですよね。昔の曲も配信の力を借りて、世界中で聴くことができる。音楽の不変の力は素晴らしいですよね。改めて、自分がやってきた音楽も、そういう今だからこそ地続きに繋がってきたんだな、そうやってSMAPの曲も広がってきたんだなぁと思い知らされました。僕、TOKYO FMで週2回、ラジオの生放送をやっているんです。ラジオの時間は音楽のことを知ることができる、いい時間です。この番組のおかげで、音楽との向き合い方もより変わってきた気がしています。今がいちばん、いろいろな音が聴こえてくるようになったかな。
──稲垣さんの世代は、アナログからデジタルへ、レコードもCDもMDも、そしてデジタルまで、あらゆるものに触れることができたいい世代ですよね。
稲垣 そう! いろいろなものが移り変わる、それを目の当たりにしてきた世代です。映像でもテレビ、ビデオ、ネットや動画配信と、アナログとデジタル両方を楽しんできました。だからこそ、それを伝えていくのも僕らの役割なんじゃないかと。
──新しい地図のみなさんには、最新も最古もやってほしいなと思います。
稲垣 香取くんなんかは、すごく新しい音楽をやりながら、同時にジャズやファンクもやっていたり。草彅くんは弾き語りも。3人とも音楽が好きなので、これからも広くいろいろとやっていきたいと思います。

稲垣吾郎(いながき・ごろう)
1973年、東京都出身。主演・ベートーヴェン役を務めた舞台『No.9 ―不滅の旋律―』が大盛況のうちに幕を下ろしたばかり。『十三人の刺客』(2010年)や『半世界』(2019年)では複数の映画賞を受賞し、近年は映画『あんのこと』(2024年)、『風よ あらしよ 劇場版』(2024年)やドラマ『燕は戻ってこない』(2024年)などに出演のほか、ラジオパーソナリティも務める。
ヘアメイク/金田順子(June) スタイリスト/黒澤彰乃
コート¥594,000・シャツ¥113,300・パンツ¥176,000・靴¥163,900/ランバン (コロネット)
TEL. 03-5216-6518

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』
日程:上演中~10月31日(金)
会場:TBS赤坂ACTシアター
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