BY LINDSAY TALBOT, STILL LIFE BY ANTHONY COTSIFAS, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
ここに一枚の有名な写真がある。ジョン・F・ケネディ亡き後のジャクリーン・ケネディ・オナシスを捉えたものだ。スカーフを風になびかせ、大きなべっ甲のサングラスをかけた彼女の片腕には、クラシックなバッグが揺れている。もともとは「G1244」という名称だったこのグッチの柔らかいレザーバッグを、大統領夫人だった彼女はパパラッチから身を守るために使っていたとも伝えられている。70年代から80年代にかけて、このバッグを持ち歩く彼女の姿がしばしば撮影された――マンハッタンの自宅マンションに帰ってきたところを、ヒースロー空港を足早に行くところを――なので、グッチの社内では、ある時期からこのバッグを「ジャッキー」と呼ぶようになった。

グッチのジャッキーバッグを手にしたジャクリーン・ケネディ・オナシス。1970年、ニューヨークにて
FAIRCHILD ARCHIVE/PENSKE MEDIA / SHUTTERSTOCK
カーブを描く底面にバックルのついた短いストラップ、ピストン型のクロージャーを有するこのバッグが誕生したのは1961年。グッチオ・グッチがフィレンツェにレザーグッズ専門のショップをオープンしてから、40年後のことだった。柔らかいクロワッサン型で、最初はキャンバスと茶色のイノシシ革が使われていたこのバッグは、誕生以来リニューアルを繰り返してきた。セーム革、朱色と赤のグログラン・ストライプ生地、白いカーフレザーといった素材で登場し、ジャクリーンもさまざまなバージョンを所有していた――カプリで、裸足で歩く姿を撮影されたときに持っていた、キャンバス地のバッグもその中のひとつだ。

最新シリーズより、ソフトピンクレザーの「ジャッキー 1961」。
スモール<H19×W27.5×D4cm>¥210,000/グッチ
STYLED BY MARCI LEISETH, COURTESY OF GUCCI
このG1244も含め、グッチのホーボースタイルのバッグは、昔から男性にも人気があった。70年代には喜劇俳優のピーター・セラーズが持ち歩いていたほか、作家のサミュエル・ベケットも、1971年に伊・リグーリアの海岸で休暇を過ごした際に持っていた。そして今年、ブランドはこのG1244を「ジャッキー 1961」と正式に名付け、2020-’21年秋冬メンズ コレクションにて新作を発表。クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレは、自らの所有するヴィンテージの「ジャッキー」をインスピレーション源に、シルエットをスリムダウンしてピストンクロージャーをゴールドにした。また、ミニサイズにして、ピンク、イエロー、ラベンダー、ブルーといったパステルカラーのレザーを用いて再解釈。ランウェイでこのミニサイズのバッグを持ったモデルたちは、バッグと同じトーンのキャンディカラーのロンググローブを身につけていた。これは間違いなくジャクリーンのもうひとつのシグネチャーだったグローブを意識しての演出であり、ファッションは移り変わっても、スタイルは永遠に古びないというメッセージでもあったに違いない。
問い合わせ先
グッチ ジャパン クライアントサービス
フリーダイヤル:0120-99-2177
公式サイト