ウォッチジャーナリスト高木教雄が、最新作からマニアックなトリビアまで、腕時計にまつわるトピックを深く熱く語る。第16回は、高級時計市場に進出を果たした、グッチの新コレクションを取り上げる

BY NORIO TAKAGI

 バイオテクノロジーによって古代の恐竜が現代に蘇る―― 映画「ジュラシック・パーク」のジュラシックとは、恐竜が生息していた約1億9,960万~1億4,550万年前のジュラ紀を意味する。その由来となったのは、当時の特徴的な地質が良好に保存されるスイスの北西に横たわるジュラ山脈である。その山間の町では、18世紀初頭から深い雪に閉ざされる冬の農閑期に、農家たちが時計の部品製造に従事していた。家内制手工業はやがてメーカー設立へと至り、個々に異なる部品製造に特化して1つの技術を研鑽する分業制とすることでスイス時計産業は発展を遂げてきた。時計ブランドは各メーカーに部品を発注し、それらを組み立て、自社製品として発売していたのだ。

画像: GUCCI 25H © GUCCI vimeo.com

GUCCI 25H
© GUCCI

vimeo.com

 そうした歴史を象徴する都市が、ジュラ山脈の南麓に位置するラ・ショー・ド・フォンである。19世紀、町の南斜面に時計産業を集約した碁盤目状の街区を整備。それぞれの建物の高さは厳密に制限され、また南側に庭を設けることが定められ、すべての建物に日差しが入るよう計画されて、時計製造に適した環境が整えられている。1つの産業に特化した都市計画は他にあまり例がなく、かのカール・ハインリヒ・マルクスは、「唯一の時計工業都市」と称賛し、2009年には「時計製造業の都市計画」の名でユネスコ世界遺産にも登録された。

画像: 横から見ると、三層のレイヤード構造がよく分かる。ダイヤルには、トゥールビヨンが浮き立つ

横から見ると、三層のレイヤード構造がよく分かる。ダイヤルには、トゥールビヨンが浮き立つ

 今も多くの時計ブランドと関連メーカーが集まるスイス時計産業の聖都に、グッチやボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなどを傘下に置くケリングは、時計製造の拠点を持つ。そして今年、創設100周年を迎えたグッチのために、初のオリジナルムーブメントを2つ開発。それを搭載する新コレクション「GUCCI 25H」で、グッチは高級時計市場へ本格的に進出を果たした。

 2つのムーブメントは、いずれもマイクロローターを採用した自動巻き。内1つには、複雑機構のトゥールビヨンが備わる。シンプルな2針タイプは、厚さ3.7mmという薄型設計。また機構の構造上、高さを抑えるのが難しいトゥールビヨン搭載ムーブメントでさえも、4.85mm厚の薄さをかなえている。メカに興味を持つ時計ファンは、薄型ムーブメントを製造する難しさを知る。厚さを抑えるには、機械を構成する歯車も薄く設えなければならない。そして薄い歯車同士は、ほんのわずか傾きや高さが合わないだけで、噛み合いがずれて正確に動かなくなる。

 近年、ムーブメントの組み立てのオートメーション化が進むが、薄型に関しては各歯車の高さと水平を正確に合わせられる手作業による職人技術が求められる。ゆえに薄型ムーブメントは、高級機にカテゴライズされる。ケリングの傘下には、ラ・ショー・ド・フォンの老舗時計メゾンであるジュラ―ル・ペルゴとユリス・ナルダンも名を連ねる。いずれも複雑機構と高級ムーブメントの製造経験が長く、そのノウハウがグッチのオリジナルムーブメントにも注がれたのだろうか? 優れた設計と完成度の高さは、時計関係者らを驚かせ、称賛を持って迎えられた。

画像: GUCCI 25H <ケース40mm/SS、自動巻き、SSブレスレット>予価¥1,243,000(今秋発売予定) コレクションのベーシックモデル。シルバーのワントーンに、ダイヤル6時位置の赤いキャリバーナンバーが絶妙なアクセントになっている

GUCCI 25H
<ケース40mm/SS、自動巻き、SSブレスレット>予価¥1,243,000(今秋発売予定)
コレクションのベーシックモデル。シルバーのワントーンに、ダイヤル6時位置の赤いキャリバーナンバーが絶妙なアクセントになっている

画像: トゥールビヨンの裏蓋側。ムーブメントは三分割したブリッジで覆い、薄くても高い耐久性を得ている。マイクロローターには、お馴染みのインターロッキングGロゴを刻む

トゥールビヨンの裏蓋側。ムーブメントは三分割したブリッジで覆い、薄くても高い耐久性を得ている。マイクロローターには、お馴染みのインターロッキングGロゴを刻む

 そのムーブメントを収める外装デザインを手掛けたのは、グッチの、さらにはファッションの流れを変えた奇才、クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ。’70年~’80年代のファッショントレンドを巧みにアレンジしてきた彼は、「GUCCI 25H」にも’70年代テイストを与えた。当時確立された、ケースとブレスレットを統合したラグジュアリー・スポーツウォッチ・スタイルである。ムーブメント同様にケースも、二針は7.2mm、トゥールビヨンは8mmと薄い。

腕時計は一般的に、ケースが薄いほどドレッシィな印象になる。ブレスレット一体型のスポーツウォッチを、薄く仕立てることでエレガントさを併せ持たせる。この手法もまた、’70年代に確立された。初のオリジナルムーブメントを薄型設計とした理由も、グッチらしいエレガントさを表現したかったからだろう。そしてアレッサンドロは、ファッションと同じく’70年代スタイルを再解釈し、巧みにアレンジしてみせた。

画像: (左)GUCCI 25H ※価格、発売時期未定 <ケース径40mm/プラチナ、自動巻き、プラチナブレスレット> プラチナモデルは、レトロモダンな印象。ダイヤルの凸部には、さらに細かな横ストライプが彩る  (右)GUCCI 25H ※価格、発売時期未定 <ケース径40mm/18KYG、自動巻き、18KYGブレスレット> YGのワントーンは、一段とレトロな雰囲気。ダイヤル12時位置のロゴの下には、キャリバーナンバーを刻印する

(左)GUCCI 25H ※価格、発売時期未定
<ケース径40mm/プラチナ、自動巻き、プラチナブレスレット>
プラチナモデルは、レトロモダンな印象。ダイヤルの凸部には、さらに細かな横ストライプが彩る

(右)GUCCI 25H ※価格、発売時期未定
<ケース径40mm/18KYG、自動巻き、18KYGブレスレット>
YGのワントーンは、一段とレトロな雰囲気。ダイヤル12時位置のロゴの下には、キャリバーナンバーを刻印する

 フラットなケースに形状が異なる二層のベゼルを重ね、最上面はサンバーストでマットに仕上げ、下層部はポリッシュで煌めかせて、薄さの中に立体感と豊かなニュアンスが創出されている。リューズはケースサイドに埋め込むように設置して正面からは姿を見せず、ケースのフォルムを純化。ダイアルには太く立体的な横ストライプを造作し、力強い印象を併せ持たせた。そこに置くインデックスは、ミニマルなバー型に。針もシンプルなバトン型だが、スリットを入れてスケルトナイズドすることで軽快な針の動きが演出されている。円に並行する4本の直線を重ねたトゥールビヨン・キャリッジのデザインも、実にモダンだ。

画像: GUCCI 25H <ケース径40mm/SS、ダイヤモンド、自動巻き、SSブレスレット>※価格、発売時期未定 ベゼルに82石のダイヤモンドをセット。それらが織り成す円との対比で、クッション型が際立つ PHOTOGRAPHS:COURTESY OF GUCCI

GUCCI 25H
<ケース径40mm/SS、ダイヤモンド、自動巻き、SSブレスレット>※価格、発売時期未定
ベゼルに82石のダイヤモンドをセット。それらが織り成す円との対比で、クッション型が際立つ
PHOTOGRAPHS:COURTESY OF GUCCI

 ラグジュアリー・スポーツウォッチ市場には、ライバルが数多い。そこに敢えて打って出たグッチは、巧妙な設計のオリジナルムーブメントとアレッサンドロらしいネオ’70年代スタイルのデザインを武器に戦う。

問い合わせ先
グッチ ジャパン クライアントサービス
フリーダイヤル:0120-99-2177
公式サイト

高木教雄(NORIO TAKAGI)
ウォッチジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象に、各誌で執筆。スイスの新作時計発表会の取材は、1999年から続ける。著書に『「世界一」美しい、キッチンツール』(世界文化社刊)があり、時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ』(幻冬舎刊)も監修

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.