BY ASAKO KANNO, PHOTOGRAPHS BY MISUZU OTSUKA, STYLED BY TAMAO IIDA HAIR BY JUN GOTO AT OTA OFFICE, MAKEUP BY KANAKO YOSHIDA MODEL BY MAE AT BRAVO MODELS, SELECTION OF BOOKS & REVIEW BY CHIKO ISHII, SPECIAL THANKS TO FUJIMI PANORAMA RESORT
「おばさま、あたしこのごろ、気を静めるコツみたいなこと、おぼえたの」
──『季節のかたみ』「雫」より

雨の日も風の日も心を平らかに保つ。そんな女性像が浮かび上がる優しい色のバイカー風ジャケットとジップアップスカート。強さとしなやかさが共存するカーフスキンにメゾンのクラフツマンシップが宿る。
ジャケット¥1,441,000・トップス¥287,100・イヤーカフ¥52,800(ともに参考色)・スカート¥1,014,200/エルメス 傘¥42,900/フォックス・アンブレラ
エルメスジャポン
TEL.03-3569-3300
ヴァルカナイズ・ロンドン
TEL.03-5464-5255
幸田文「雫」
『季節のかたみ』(講談社文庫)所収
季節の移り変わりを見るのが好きだという幸田文が、2月から12月までその月ならではの心に残る情景をきりとった随筆。冬の冷たい雨が降る日、語り手は入院している若いひとを見舞う。学校を出て就職してこれからというときに病に倒れてしまった若いひとは、木の枝にたまった雫の美しさについて語る。孤独な病床にあっても、日常のささいなことの見方を変えて、前向きに気持ちを動かす。若いひとのたのもしさと、その姿を見つめる語り手の優しさ。年齢の離れたふたりの自立した女性の静かなシスターフッドが胸をうつ一編だ。
手にキスを受けることになれている上流の婦人たちは、手のひらを下にして、ふわっとこちらの手にゆだねてくる。ツィア・テレーサの握手も、そのてのものだった。
──『コルシア書店の仲間たち』「入口のそばの椅子」より

「平凡であると思われている場所で非凡なるものを見つけ出す」。クリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノの思想を映し出すニットカーディガンは、中綿をあしらい意外なボンバーシルエットを描く。襟元に輝くクリスタルエンブロイダリーにも上質さへのこだわりがちりばめられて。
カーディガン¥550,000・セーター¥396,000・パンツ¥115,500・チョーカー¥412,500・タイ(参考色)¥71,500・ブーツ¥512,600/グッチ チェア¥35,000/アーティクル アンティーク&キュリオシティ
グッチ クライアントサービス
TEL.0120-99-2177
アーティクル アンティーク&キュリオシティ
TEL.03-5724-3478
須賀敦子「入口のそばの椅子」
『コルシア書店の仲間たち』(文藝春秋)所収
翻訳家であり随筆家でもあった須賀敦子は、イタリアに留学していたころに、コルシア書店でさまざまな人々に出会った。そのなかの一人が、店のパトロンだった老女ツィア・テレーサ。名家の出身で世界的な大企業の株主でもあったが独り身だった。教会の物置を改造した小さな店の入り口のそばの椅子にいつも座っていたツィア・テレーサの思い出を語る。どんなときも率直で高貴で子どもみたいに無邪気で、「透明な善意」で周りの人間のこころを豊かにしてくれる。そしてアイスクリームが大好きなツィア・テレーサに魅了されてしまう。
石井千湖(いしい・ちこ)
書評家、ライター。大学卒業後、8年間の書店勤務を経たのち、書評家、インタビュアーとして活動を始める。新聞、週刊誌、ファッション誌や文芸誌への書評寄稿をはじめ、主にYouTubeで発信するオンラインメディア「ポリタスTV」にて「沈思読考」と題した書評コーナーを担当。著書に『文豪たちの友情』(新潮文庫)、『名著のツボ 賢人たちが推す!最強ブックガイド』(文藝春秋)、『積ん読の本』(主婦と生活社)(10月1日発売予定)。T JAPAN webにて連載中のブックレビュー「本のみずうみ」も好評。
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