年齢を重ねると、一見シンプルな服ほど案外と難しいものだ。試着をしてもどこかにつっかかりを感じたり、重力に抗わなくなった肉感を拾ってシルエットがぼやけたり。ところがジャケットもパンツもスカートも、スルリと着られて、前後左右どこから見ても端正。肩の力の抜けたほどよいモード感もあり、着心地はいたってリラクシング。mtmodelist(エムティーモデリスト)――この魔法のような服はどんな風に作られるのか、話を聞いてみた

BY OGOTO WATANABE, SELECTED BY MAYU YAUCHI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

「ランウェイを歩く服ではなく、街を歩く服を作りたいと思ったのです」

一見オーセンティックなこのジャケットとパンツ、着る人には知性とスマートさを、見る人には常識的な安心感を与える服である。だが、作り方はユニークで大胆。ジャケットは前身頃を小さめにし、後ろ身頃に分量を持たせてある。「普通は前と後ろで5:5が多いのですが、mtmodelistの服は4:6、場合によっては3:7のこともあります」。シンプルな服に、卓越した技術があってこその高度な遊び心が仕かけられている。着てみればわかるはず、スッキリと洗練されたフォルムで着る人を包み込みながら、肩も背中も腰回りは驚くほど自由で快適。パンツは股上は深いツータックのテーパード。ベルト使いでハイウエストにも着用可。ジャケット¥53,900、パンツ¥44,000/mtmodelist

COURTESY OF MTMODELIST

 mtmodelist(エムティーモデリスト)は、山谷政、佐々木幹子、田島香織の3人が手がけるブランドだ。彼らは長い間、「ヨウジヤマモト」のアトリエで共に働いていた。山谷は企画職として、佐々木と田島はパタンナーとして活躍した。田島は「ワイズ」のチーフパタンナーを務め、佐々木は27年間ヨウジヤマモトで腕をふるったあと、イタリアに渡り、「ジルサンダー」でも9年間パタンナーを務めた。2021年に佐々木が帰国した際、既に別のブランドを立ち上げていた山谷が声をかけ、佐々木をリスペクトする田島も合流。「やりたいことをやろう!」と意気投合した3人は、軽やかな気持ちで、2022年にmtmodelistを立ち上げた。

画像: ダーツで線を描き、パターンを組みながら作られた一着。身頃、脇、アームホールなど、ダーツで斜めに持ち上げながら、線で美しいシルエットを構築しながら創っていく。前身頃は小さめに見えるが後ろ身頃にはゆとりがあり、着れば360度どこから見ても端正なフォルムに軽やかに包み込まれる。2025秋冬コレクションより。ブルゾン¥73,700/mtmodelist

ダーツで線を描き、パターンを組みながら作られた一着。身頃、脇、アームホールなど、ダーツで斜めに持ち上げながら、線で美しいシルエットを構築しながら創っていく。前身頃は小さめに見えるが後ろ身頃にはゆとりがあり、着れば360度どこから見ても端正なフォルムに軽やかに包み込まれる。2025秋冬コレクションより。ブルゾン¥73,700/mtmodelist

‟モデリスト“とはパタンナーのことである。デザイナーが描く服を実在化させる職人である。「僕自身はデザイナーの仕事もしてきましたが、長年、服作りの現場でパタンナーの仕事ぶりを見てきて、パタンナーが作る線を前面に出す服を作りたいと思ったんです。流行にぶれることなく、人が着てきれいな服をしっかりと作ることができる、服作りの職人。そんなパタンナーが生み出す線やディテールを活かした服を作ってみたいと思ったんです。経験豊かなパタンナーの知識と技を素直に出した服を作りだすことに挑戦したいと。」と山谷は言う。

「パリ・コレやミラノ・コレクションの服を作り続けてきたので、街を歩いている人が日常に着る服を作りたいと思いました。一見、世の中のどこに行ってもあるような、でも着心地よく着られる服を」と佐々木。

画像: 2025秋冬コレクションより。流行のカーヴィーパンツをmtmodelist的に解釈し、誕生したパンツ。「ダーツで裾を締めることにより、そこから上が丸みを帯びたシルエットが築かれていく」という作り方からして、ほかと一線を画す1着。スルッと履けて着心地はらくちん、大人の下半身をゆとりある絶妙なラインで包みこむ。カーヴィーパンツ¥39,600/mtmmodelist

2025秋冬コレクションより。流行のカーヴィーパンツをmtmodelist的に解釈し、誕生したパンツ。「ダーツで裾を締めることにより、そこから上が丸みを帯びたシルエットが築かれていく」という作り方からして、ほかと一線を画す1着。スルッと履けて着心地はらくちん、大人の下半身をゆとりある絶妙なラインで包みこむ。カーヴィーパンツ¥39,600/mtmmodelist

「ヨウジヤマモトでは、‟まともな服は作るな”と言われていました(笑)。例えばダーツを縦にきれいに等分に入れるのは‟まとも”。それはNGで、シルエットを大切に、いかに自由に外していくかを追求するんです。」と佐々木。「ヨウジヤマモトの服は肩で着るから、流れるように落ちて、風をはらんで揺れる。身体と服の間に隙間があって空気を含む感じです。一方、ジル サンダーは作り方が真逆でした。ミリ単位で余分なシワを消しながら構築していく。身体と服の間に空気を入れずに、服と身体が一体になる感じなんです。体得するまでに3年ほどかかりました」。

フード端にボーンの入ったドロップショルダーのブルゾン。前から見るとピタリとプレーンな印象だが、後ろ身頃は美しい弧を描くブルゾン。前後左右どこから見ても端正なシルエットはモード感をさりげなく醸しつつ、着心地は自由で軽やか。2026年春夏コレクションより。ブルゾン¥50,600、Tシャツ¥20,900、パンツ¥45,100/mtmodelis

COURTESY OF MTMODELIST

「長く続けてきたからこそ、今は作りたいものを作り、やりたいことをやるんです」

フリルツの前立てが華やかな印象のジップアップブルゾンを重ねて。さらっとはおるだけで華やいだ雰囲気になり、ジップの開閉でブルゾン風にもブラウス風にも着られるのも楽しい。大人が気になる肩回りや腕回り、背側のシルエットをほどよいゆとりで端正に見せてくれるのも、このブランドの真骨頂。中に着た白いブルゾン(シルク80%、ナイロン20%)¥110,000、上に着た黒のブルゾンブルゾン(コットン70%、ナイロン30%)¥78,100、パンツ¥60,500/mtmodelist

COURTESY OF MTMODELIST

 mtmodelistでは服を作る際にデザイン画から起こしたりはしない。佐々木と田島が布を持って手を動かしながら頭のなかに浮かんでいる線を、そしてシルエットを構築していく。そうして仕上がったトワルを3人で囲んで、意見を出し合う。「パタンナーは職人的な動きでひたすらに作り、今作っている手の中のものに集中してしまうことも。そこで、街や時代の空気を少し取り入れた意見を加えたりします」と山谷。「作っていると究極的なミニマムになりがちなので、そういう意見があって、ちょうどいい塩梅になるんです」と佐々木。

 ブランド名「mtmodelist」のmtは何を表すのか尋ねた。「三人のイニシャルに共通する文字ですよ」と山谷が言えば、佐々木が「mtはマウント、山谷さんの山の意味でもあるのよ」、「え、そうだったんだ!」と笑い声があがる。

「長年やり続けてきたからこそ、やりたくないことはやらなくていい。今はやりたいことだけやっています」と彼らは口々に言う。「流行も追わないし、数字も追わない。本当に作りたいものを作り、やりたいことをしています。このメンバーだからできることです」と山谷。
「若いころはピリピリ張りつめて仕事をしていた時期もあります。イタリアに行って、自分自身もずいぶん角がとれたように思います」と佐々木も自らを振り返って言う。それまでの服の作り方と対極的ともいえる技を難なくこなせるようなるだけではないーージル・サンダー本人から直接声をかけられて渡欧した佐々木が、トップが抜けたあとの慣れぬ現場で粛々と仕事を続けたことの苦労は想像に難くない。「どちらのいいところ、素晴らしいところを経験できてよかったです」とほほ笑む。
 もうひとりのパタンナーの田島は、ただひたすらに手を動かし服作りに集中する、卓越した腕を持つ職人だ。「服を作ることを言葉でどう表したらよいかわからない」とインタビューには姿を見せなかったが、展示会などで遠くから見るその横顔は、少女のようなピュアさとはにかんだ笑顔が印象的だ。

画像: シンプルなコートだが、ウエストに仕込まれたファスナーを開けば、ショートブルゾンに。アウトドア・ウェアのパターンは採用せず、パタンナーならではの“線”の構築美で、着心地と機能性を追求した1着。シンプルなたたずまいのなかにも機能を持たせ、モダンに仕上げている。20252秋冬コレクションより2wayのコート¥81,400/mtmodelist

シンプルなコートだが、ウエストに仕込まれたファスナーを開けば、ショートブルゾンに。アウトドア・ウェアのパターンは採用せず、パタンナーならではの“線”の構築美で、着心地と機能性を追求した1着。シンプルなたたずまいのなかにも機能を持たせ、モダンに仕上げている。20252秋冬コレクションより2wayのコート¥81,400/mtmodelist

「modelistの服は、着る人の年齢や性別にもこだわらずに作っています。‟このための服”など目的を決めつけることもしません」と佐々木は言う。mtmodelistについて百聞は一見に如かず、その服は着てみれば、着る人の唯一無二になることがわかる。スッキリ見えて軽やかに動けて、洗練されたゆとりのなかに知性と遊び心も漂う。年月を重ねても、装うことに新しい喜びを見出せる。
 第一線でキャリアを着実に誠実に積み重ねてきたプロ中のプロの3人が、今だからできることを、心の底から楽しみながら自由自在に作り上げる服――。そののびやかで自由な精神も共に身にまとえたら、なんとも心強い。

心浮き立つ桜色のトップス。首回り、二の腕、背中や腰回りなど随所に熟練の成せる技がひそやかに仕組まれ、大人を心地よく包み込み、きれいに見せてくれる。2026年春夏コレクションより。トップス¥33,000、スカート¥45,100/mtmodelist

COURTESY OF MTMODELIST

問合せ先
RIGA INTERNATIONAL JAPAN
TEL. 03-5962-7596
公式サイトはこちら

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