BY KYOKO SEKINE
今までの殻を破ったホテルの出現は、
日本のホテル市場に足りなかった個性や
国際的求心力となる
一方、前者とは趣の違う“温故知新”のホテルにも厚い支持が集まっている。東京には、かつての庶民文化を今に残す風情ある下町が生きている。たとえば台東区、文京区にまたがる“谷根千”(谷中、根津、千駄木)はその代表だ。古民家、寺町、昔ながらの対面商店街が軒を並べる町に、外国人観光客のみならず日本人も郷愁を誘われてやってくる。
今や東京人でも憧れるその谷中で、築60年の木造アパート「萩荘」を改築し、懐かしい趣の最小文化複合施設「HAGISO」を造ったのが、HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉氏である。HAGISOの1階にはHAGI CAFEとレンタルスペースが、2階にはホテルの受付&ショップがある。ホテルに泊まる人はまずこの2階でチェックインする。
「hanare」はそこから徒歩2分の別棟だ。宮崎氏が考えたのは、下町の情緒を残し、東京の古きよきライフスタイルをなんとか世界に発信できないかということ。そのきっかけは旅で訪れた古都ローマにあった。「ローマで安宿に泊まったら、部屋も、レストランも町と完全に一体化し、まるで町に泊まっているようだった」と、その体験が彼を動かした。
谷中の“あたりまえで特別な風景”を残し、町全体をホテルに見立て「町に泊まろう!」と掲げたのである。そして生まれたホテル「hanare」は、まさに静かな住宅地に溶け込んでいる。HPに掲載されている一節が谷中の魅力を物語る。「朝は早く、道を掃く僧侶が軒先で挨拶を交わす。昼は通りに人が賑わい、ひっそりとした路地では子供たちが猫とたわむれる。夕暮れはいくつもの鐘の音が響き、静けさとともに坂の家々は赤く照らされる。夜は小さな店がポツポツと暖簾をかかげ、すれ違う人は銭湯帰りの暖かなお湯の香りを運んでくる」と。懐かしい映画のシーンのような風情だ。hanareに泊まると、町の銭湯チケットがつく。食事は町のおいしい飲食店。レンタサイクルは町の自転車屋さん。朝食はHAGI CAFEが提供する。地域一帯型の“町に暮らすように泊まる”提案である。
hanare ‐ MARUKOSHISO
東京都台東区谷中3-10-25 HAGISO
予約電話: 03(5834)7301
客室:5室
料金:1名 ¥12,000~(朝食+銭湯券つき)
トイレ、シャワールーム、洗面所は共用。JR日暮里駅から徒歩5分
公式サイト