せきね きょうこ 連載
新・東京ホテル物語<Vol.43>

New Tokyo Hotel Story “The Peninsula Tokyo”
ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第43回目は、開業から変わらぬホスピタリティが魅力の「ザ・ペニンシュラ東京」

BY KYOKO SEKINE

 冒頭から昔のことで恐縮だが、2007年9月の「ザ・ペニンシュラ東京」の開業は、私自身にとっても特別なものとなったことを記憶している。何がそれほど特別だったのか? ふだんは未来志向の私だが、ここでは少し開業当時の忘れがたい「ザ・ペニンシュラ東京」について書いておこう。それによって少なからず、このホテルが目指す、変わらぬホスピタリティ精神が見えてくるだろう。 

画像: 外苑の御濠を通して見るホテル全景。東京の中心地の美しい環境に建つ

外苑の御濠を通して見るホテル全景。東京の中心地の美しい環境に建つ

 その開業から、早いものですでに12年の年月が流れている。10年以上が過ぎると世代も変わり、ホテル内のスタッフの多くも変わっている。だがこのホテルの開業時に感じたグローバリズムに心を打たれ、今もなお、私のように当時を知る者に語り継がれる物語がある。

 ペニンシュラのフラッグシップである「ザ・ペニンシュラ香港」には、かつて英国が統治していた香港ならではの国際性や、そこに育まれた英国のホテル哲学が存在している。そのひとつが、誰もが認める徹底したサービス精神だ。「ザ・ペニンシュラ東京」は開業の10カ月も前から、そのペニンシュライズムを肌で感じ学んでもらおうと、スタッフを「ザ・ペニンシュラ香港」と「ザ・ペンシュラバンコク」に留学させていた。ペニンシュラのDNAであるホスピタリティ精神や哲学を学ぶための留学研修制度を設け、期間を決めて交代で参加させたのである。選ばれた若いマネージャーたちは全員がアンバサダーと呼ばれ、綿密な“アンバサダー・プログラム”を香港で身につけて帰国し、東京の開業に臨んだ。

画像: オープン当初から人気のメインロビー。右と左に分かれた造りは香港のザ・ペニンシュラの人気ロビーを彷彿とさせる

オープン当初から人気のメインロビー。右と左に分かれた造りは香港のザ・ペニンシュラの人気ロビーを彷彿とさせる

 当時、私はその若者たちに現地で会うために、東京から香港へと飛び取材した。そして開業を迎え、東京に戻った彼らの誇りに満ちた目の輝きは忘れられない。ペニンシュライズムを学んだ若いスタッフは、ゲストに対峙する前線で、大いにホスピタリティ精神を発揮していた。

 そんな華々しい開業を乗り越え、今、「ザ・ペニンシュラ東京」は東京の一等地で高級ホテルとしての人気を確固たるものとしている。インターナショナルな雰囲気はそのままに、開業時よりもさらに国際的なホテルとしてにぎわい、ゲストに対応する外国人スタッフも、現在は24カ国、19言語に及ぶという。

 久しぶりに入った客室は変わらぬ落ち着きと品格を備え、見えないところに贅沢な設備を整えたさりげない高級感、とがり過ぎないデザインが心地いい。客室のインテリアデザインは橋本由紀夫氏によるもので、氏独特のクオリティを重視した素材選びと、滞在者がくつろぐための濃やかな配慮が感じられる。

画像: 客室の広さに定評のある「デラックススイート」<116㎡>のダイニング&リビング。コーナーにあるため、2面の窓からの見晴らしもダイナミック

客室の広さに定評のある「デラックススイート」<116㎡>のダイニング&リビング。コーナーにあるため、2面の窓からの見晴らしもダイナミック

画像: 「プレミアルーム」<54㎡> 部屋の設備には独自開発のテクノロジーを搭載。和と洋の調和が落ち着いた雰囲気を演出し、窓からは東京都心の情景が楽しめる

「プレミアルーム」<54㎡>
部屋の設備には独自開発のテクノロジーを搭載。和と洋の調和が落ち着いた雰囲気を演出し、窓からは東京都心の情景が楽しめる

 ステーキ&グリルの「Peter(ピーター)」やアフタヌーンティーが有名な「ザ・ロビー」などホテル内には人気のレストランが多く、「どこがメインダイニングというのはないかもしれません」と関係者は言う。しかし、中でも人気が高いのは「ヘイフンテラス」ではないだろうか。中国江蘇省・蘇州の中国古典庭園をイメージしたという内装の中、専門のシェフが作る点心はどれも本格的で、作りたてのフレッシュさも満喫できる。

画像: 伝統的な広東料理の「ヘイフンテラス」は異国情緒あふれる蘇州の中国古典庭園をイメージした内装が人気で、ザ・ペニンシュラ東京を代表するレストラン

伝統的な広東料理の「ヘイフンテラス」は異国情緒あふれる蘇州の中国古典庭園をイメージした内装が人気で、ザ・ペニンシュラ東京を代表するレストラン

画像: 特にランチタイムには、点心(Dim Sum)専門のシェフが丁寧に手作りする「点心ランチメニュー」は一番人気を誇る PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE PENINSULA TOKYO

特にランチタイムには、点心(Dim Sum)専門のシェフが丁寧に手作りする「点心ランチメニュー」は一番人気を誇る
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE PENINSULA TOKYO

 さらに現在は、ペニンシュラらしい社員育成プログラムも始まっていると聞かされた。ザ・ペニンシュラマニラへの英語研修プログラムが2016年から開始されているのだ。マニラの大学から招聘した講師の座学に加えて、ジョブトレーニングも同時に行える環境が整っている。選考方法は、自薦に加えて、執行委員会メンバーによるノミネートもあるというから面白い。現地で2~3ヶ月滞在して英語のブラッシュアップに臨む参加者は、この4年で約40名に達した。フィリピン特有の、陽気で明るく親切な国民性にも、きっと五感が刺激されるに違いない。

 グローバルな高級ホテルは数多くある。しかしオーナーホテルだからこそ実践可能な独自のプログラムやきめ細やかなマネージメント、現場のスタッフを大切に思う環境づくりこそが、ペニンシュライズムの特徴であろう。スタッフを育てる一貫した哲学は、ゲストにも必ず届くはずである。

ザ・ペニンシュラ東京(THE PENINSULA TOKYO)
住所:東京都千代田区有楽町1-8-1
電話:03(6270)2888
客室数:314室(内スイート47室)
料金:¥71,000~、スイート¥120,000~(1泊1室の室料。消費税・サービス料別)
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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