ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第51回目は、古くて新しい街、浜町にできたコンセプチュアルな「HAMACHO HOTEL」

BY KYOKO SEKINE

 浜町と言えば、“粋でいなせな江戸っ子の聖地”として知られる神田や浅草と同様、趣は違えど伝統を残す東京の下町風情漂う地区である。ここ浜町は、江戸時代にはサムライの町であり、広い大名屋敷や蔵屋敷などが立ち並んでいたという。その後、幕藩体制終焉により、この一画にはお座敷遊びの料亭などが栄えた歴史が残る。その名残は現在ではほとんど無くなってはいるものの、由緒ある土地には、昔から継承されるDNAなのか風格が感じられる。

画像: 窓辺の植栽がホテルの自慢のひとつ。客室内から緑が見えるのも快適

窓辺の植栽がホテルの自慢のひとつ。客室内から緑が見えるのも快適

 古さと新しさの同居する浜町に、2019年2月15日、町名を冠した「HAMACHO HOTEL」が誕生した。周囲には近代的なビルや大きな劇場などがあり、東京の中心地らしい姿を見せている。さすがに日本橋の中心のように商業地区の賑わいはないものの、探せばいくらでも老舗の名店が出てくる。日本橋浜町の情緒的な空気感は浜町ならではと言えるだろう。

「HAMACHO HOTEL」は、ホテル・店舗・賃貸住宅からなる「HAMACHO HOTEL & APARTMENT」の一部である。古くて新しい街の中心に建つ15階建てのスタイリッシュなビルには、ホテルゲストの他に、エントランスが違う“暮らす”住人たちもいる。とはいえ、実際この町で目立つのは働きに来るビジネスマンが多く、古くから住む生粋の浜町住人は減少傾向にあるというのだ。そこで「もっと浜町を盛り上げよう」(ホテル支配人、前田健吾氏)というプランが街ぐるみで進行し、昔からの住人、新しい住人、商店の人、行政も巻き込む力強いパワーが集結し活動を開始している。「2カ月に一度、会合があります。街の価値を高め、ホテルを通して住人との関係性を高め、居心地のいい街づくりを願っています」と語るホテル支配人の前田さんは、率先して浜町を盛り上げる若者応援団の一人なのだ。

画像: ロビー内はヤングシックな印象。館内にも緑が配され、ホッとする

ロビー内はヤングシックな印象。館内にも緑が配され、ホッとする

 ホテルは外観も内観も”緑”にこだわり、建物の内外には背の高い木々や低木、そして花の咲く植物も含め、多くの植栽がみられる。特に、清洲橋通りに面する1階のダイニング「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」に座れば、ガラス窓には外の木々の緑が映り込み、一瞬都会にいるのを忘れるほどだ。このダイニングはコンセプトに「街のダイニング(食堂)」を掲げ、開業以来、近隣の顧客を獲得している人気の食事処となっている。

画像: 1階にある「HAMACHO DINING& BAR SESSiON」では、街のダイニング(食堂)としてリラックスできる空間と、美味しくて親しみのある料理をお洒落に提供

1階にある「HAMACHO DINING& BAR SESSiON」では、街のダイニング(食堂)としてリラックスできる空間と、美味しくて親しみのある料理をお洒落に提供

 ダイニング内はハイセンスな空間が広がり、パリの洒落たビストロを彷彿とさせてくれる。インテリアも、BGMも大人が長居をしたくなる居心地の良さがある。料理は個性的で「ホっとするけど新しい」とうたい、浜町の新たな食堂になればと願っている。

画像: レストラン「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」のカジュアルディナー。ハムカツにトリュフ餃子、テリーヌまで、プロの技を加えた 小皿料理が豊富 COURTESY OF BLUE NOTE JAPAN

レストラン「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」のカジュアルディナー。ハムカツにトリュフ餃子、テリーヌまで、プロの技を加えた 小皿料理が豊富
COURTESY OF BLUE NOTE JAPAN

 客室も、選択する者を迷わせないようコンセプトを明快に整えた。たとえば「TOKYO CRAFT ROOM」では、優れた日本の作り手と国内外のデザイナーとのコラボレーションを打ち出し、“日本の手仕事”の素晴らしさを広く感じて欲しいと、アートな空間造りに成功。「ホテルはものづくりのプラットフォームとしての役割を果たしたい」(同支配人)との願いが込められた。

画像: TOKYO CRAFT ROOM<78㎡> ホテルの2階にある1室のみの部屋。デザイナー柳原照弘さんのクリエイティブ・ディレクションのもと、国内外のアーティストと職人が手がけるアイテムが設置され、もちろん宿泊可能

TOKYO CRAFT ROOM<78㎡>
ホテルの2階にある1室のみの部屋。デザイナー柳原照弘さんのクリエイティブ・ディレクションのもと、国内外のアーティストと職人が手がけるアイテムが設置され、もちろん宿泊可能

 また客室は、ダブル、ツイン、ファミリールーム、バルコニーの広がる最大級のテラスルームなど、ユニバーサルルームも含め、いずれもシンプルで機能性の良い部屋が揃う。前述のように、部屋の窓からは植栽が見えるよう配慮され、緑に包まれる都心のビルが、この一画ではとても新鮮に映り印象的である。

画像: ダブルルーム<15㎡> 緑が見えて居心地の良い客室。ベンチソファーでリラックスも

ダブルルーム<15㎡>
緑が見えて居心地の良い客室。ベンチソファーでリラックスも

画像: プレミアム テラスルーム<47㎡> 日本の繊細な技術や技法を取り込んだ特別室

プレミアム テラスルーム<47㎡>
日本の繊細な技術や技法を取り込んだ特別室

画像: コーナー ダブルルーム<25㎡> 各フロアに1室ずつある窓の大きな角部屋タイプ。ここも植栽に囲まれ明るくて快適な客室

コーナー ダブルルーム<25㎡>
各フロアに1室ずつある窓の大きな角部屋タイプ。ここも植栽に囲まれ明るくて快適な客室

  特別なショップも造られている。ガラス張りの工房が見える手造りチョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」だ。ショコラティエが常駐し、職人の手仕事を観ながら買い物もでき、広いイートインも併設されている。ショコラティエが、新作から定番まで自慢のチョコレートを説明してくれるのも嬉しい。ベリー系のブンチャムベトナムや柑橘系のベネズエラなどのTablet、自家製プラリネの胡麻、ガナッシュの山椒や丹波黒豆きなこのBon Bonなどのチョコレートが並んでいる。

画像1: せきね きょうこ 連載
新・東京ホテル物語<Vol.51>
「HAMACHO HOTEL」
画像: チョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」では奥にあるガラス張りの中で手作業をする。nelの意味は「練る」という言葉から PHOTOGRAPHS:COURTESY OF HAMACHO HOTEL

チョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」では奥にあるガラス張りの中で手作業をする。nelの意味は「練る」という言葉から
PHOTOGRAPHS:COURTESY OF HAMACHO HOTEL

 「HAMACHO HOTEL」は、快適性と現代の若者の智慧が詰まった上質なホテルである。パリやロンドン、チューリヒなど世界の都市に於いても、こうした高級感とカジュアルさがマッチし、明快なコンセプトのあるブティックホテルが増加傾向にあり、利用者からも高い評価を得ている。

HAMACHO HOTEL
住所:東京都中央区日本橋浜町3-20-2
電話:03(5643)1811
客室数:全170室
料金:¥11,000~(1泊1室2名の室料。消費税・サービス料込み)
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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