BY HARUMI KONO
1995年にモルディブでスタートした「シックスセンシズ」は、サステナビリティとウェルネスをコンセプトに掲げる自然派ラグジュアリーホテルのパイオニア。EUが環境問題の解決策として提唱した「循環経済行動計画」が2015年ということを鑑みると、シックスセンシズは世界がまだサステナブルに意識を向けていなかった時代から未来を見据えていた。世界21カ国でホテル・レジデンスを展開しているシックスセンシズが26番目のホテルとして日本に初上陸。場所は京都、東山地区。妙法院、三十三間堂、豊国神社という名だたる寺社が建ち並び、日本の歴史を紡いできた文化的に意味のある場所に。
京都が選ばれた理由について、シックスセンシズ 京都を運営するワールド・ブランズ・コレクション ホテルズ&リゾーツ株式会社(ウェルス・マネジメント株式会社グループ)代表取締役社長の河本浩氏はこう語る。
「京都で新しくホテルを作る際、単なるラグジュアリーではなく何かに特化したラグジュアリーを持っているブランドを求めていました。サステナビリティとウェルネスを大切にしているシックスセンシズのフィロソフィーが、自然豊かな京都と共鳴すると考えていました。大規模ではなく、ゲストへ目が行き届く客室数が100室以下という点も重要でした。隣接する豊国神社の使われていない用地にシックスセンシズの有機菜園を作ることも神職の方々が快く場所を提供してくださったことで、地域とシックスセンシズの理念を共有することができます。そして総支配人ニコラスさんの存在が大きかった」
全般的に人材不足が懸念される昨今、総支配人も例外ではない。ブランドのコンセプトを会得して勇往邁進するリーダーシップとホスピタリティを併せ持つ人物が、総支配人を務めるニコラス・ブラック氏だ。
「コロナ禍で自分を見つめ直す時間の中で内面に目を向け、心身の健康を意識するようになりました。あるタイミングでシックスセンシズのCEOにお話させていただく機会があり、その後、一年以上にわたって話し合いを重ねたうえで、シックスセンシズ 京都の総支配人になることを決意しました」
毎日くまなくホテル館内を巡り、ゲストはもちろんスタッフ一人一人に気さくに声をかけるブラック氏のフレンドリーな人柄は魅力的だ。スタッフから「ニコさん」と呼ばれるブラック氏が実践するのは、ポジティブなマインドで感情に訴えるエモーショナルなホスピタリティ。「心のこもったパーソナルタッチのあるホスピタリティを提供すれば、ゲストには滞在体験のよさをより深く感じていただけることでしょう」
シックスセンシズ 京都のテーマは平安時代の雅。当時の人々が月、花、雨、雪といった自然と季節の移ろいを愛でたことは和歌に詠まれている。ホテルを訪れると感じる、澄んだ空気に北山杉や檜、柑橘系果物、カルダモンが漂う心地良い香りは、これから楽しいことを予感させる雨上がりの鞍馬山にインスパイアされて作られたオリジナルのアロマ。味覚を刺激する「オールデイダイニング Sekki (節気)」とカフェ「Café Sekki (カフェ節気) 」の名前は二十四節気に由来する。地元の旬の食材を用いて作られる料理を通して季節を感じとることができる。シックスセンシズ 京都では、二十四節気の暦に基づいて時が流れている。
スイートルーム8室を含む全81室の客室には、「Sleep With Six Senses」のコンセプトに基づいたハンドメイドによる特注のマットレス、温度調整可能な枕やオーガニックコットンシーツ、羽毛布団、パジャマを完備。さらに上質な眠りを追求するゲストは、睡眠計測デバイスやスリーププログラムを利用することができる。
シックスセンシズの取り組みで注目したいことの一つが「Grow With Six Senses」という子ども向けのキッズクラブだ。子どもたちが夢中になって遊びながら、折り紙など日本の伝統や、室内では靴を脱ぐといった習慣を学べる仕組みになっている。スパにはキッズスパメニューがあり、ファミリーフレンドリーな滞在が可能だ。「子どもたちが楽しければ親御さんも喜びます。またこのホテルに泊まりたい、世界のシックスセンシズに行ってみたいと子どもたちが旅のイニシアチブを取るきっかけになりますね」とブラック氏は雄弁に語る。
シックスセンシズの真骨頂といえる「シックスセンシズ スパ 京都」では、日本初の「ウェルネススクリーニング」を導入。最新鋭の機器で心拍数、血圧など、およそ40種類のバイオマーカーを測定し、数分で体の内部でケアが必要な箇所を導き出す。この結果を踏まえて専門家がトリートメントプログラムを組み立てる。長期スパンで定期的にスクリーニングを受けることも可能なので、世界のシックスセンシズではリピーターが多い。また、日本のホテルで2つめの「WATSU(ワッツ)/水中ボディワーク」専用のプールや、時差ボケや疲労を短時間で回復させる「バイオハック リカバリー ラウンジ」がある一方で、禅の思想に則って心身を休めるシックスセンシズ スパ 京都限定トリートメント「阿吽 (あうん)」も人気を博している。
サステナビリティの中枢となるのは「Earth Lab」(アースラボ)。ここではホテルで使うすべての飲料水を浄水して再利用可能なガラス瓶にボトリングしている。自家発電ならぬ自家浄水をすることで、水の輸送にかかるCO2の排出量の削減とプラスチックフリーを実践している。2022年のシックスセンシズの公式発表によると、世界のシックスセンシズで170万本分のペットボトルの使用を削減した。アースラボでは金継ぎ、蜜蝋ラップ作り、廃棄された食材を粉砕して塗料として使用する扇子絵付け体験など、様々なアップサイクルのワークショップを提供している。エココンシャスな旅の思い出を家に持ち帰って欲しいというシックスセンシズからのメッセージが込められている。
かつて日本では着物を仕立て直し、竹の皮でおにぎりを包み、茶殻で掃除をしていた。衣食住において古くからサステナブルを実践してきた私たち日本人のDNAが時を超えてシックスセンシズ 京都と融合する。
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF SIX SENSES KYOTO
シックスセンシズ 京都
住所:京都府京都市東山区妙法院前側町431
TEL. 075-531-0700
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髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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