BY HARUMI KONO
香港・九龍島の尖沙咀(チムサーチョイ)地区のウォーターフロント、ビクトリア・ドックサイドに2019年にオープンした「ローズウッド香港」は65階建てのビルの高層部を占め、413ある客室の8割以上がビクトリアハーバーを臨み、マウンテンビューも緑あふれる美しい景色が広がる絶好のロケーションにある。
その土地のアイデンティティや文化を反映する「A Sense of Place®︎ (センス オブ プレイス®)」を理念に掲げ世界にウルトラ ラグジュアリーホテルを展開するローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎は1979年、アメリカ・テキサス州ダラスの「ローズウッド マンション オン タートル クリーク」から始まった。「マンション」という名が示す通り、ゲストには邸宅に住まうようにくつろいで欲しいという創業者キャロライン・ローズ・ハント氏の思いが込められている。
2011年、ローズウッドは香港のニューワールド デベロップメントに経営権が移り、現在は創業者チェン・ユートン氏の孫であるソニア・チェン氏がCEOとして創業者のホスピタリティ哲学を忠実に踏襲しながら、ニューヨークの「ザ カーライル」、パリの「オテル ドゥ クリヨン」、ヴェニスの「バウアー」といった各都市を象徴する由緒あるホテルをグループに加え、新たなホテルを世界五大陸に展開している。
このようにローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎の世界におけるラグジュアリーホテルとしてのブランドの確立、ローズウッド・ホテルグループでは人柄や情熱を重視した、様々な職業や年代のメンバーで構成される新しいスタイルの会員制クラブ「カーライル & コー(Carlyle & Co)」の創設などが高く評価され、ソニア・チェン氏は2024年度、ホテル業界に多大な貢献をした個人に授与される世界のベストホテル50(The World's 50 Best Hotels)の特別賞「セブンルームス アイコン アワード(SevenRooms Icon Award)」を受賞している。
香港生まれのソニア・チェン氏にとってローズウッド香港は、世界のローズウッドの総本山とも言える、とりわけ大切なプロパティ。ホテルが建つ場所は祖父がニューワールド デベロップメントを創業した地であり、家族と共に過ごした少女時代の思い出が詰まった特別な場所であるからだ。ホテル内の「ホルツカフェ(Holt's Café)」の名前の由来はこの場所が旧ホルツ居留地だったこと、広東料理の「ザ レガシー ハウス(The Legacy House)」は、広東省出身の祖父が残した遺産(レガシー)へのトリビュートとして名付けられていることにも彼女の家族への敬意が表れている。
CEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏の審美眼
ゲストがローズウッド香港で邸宅の雰囲気を強く感じるのは、エレベーターを降りてから客室に向かう前にあるサロンではないだろうか。椅子とサイドテーブルが置かれ、貴重なアートピースが美しく陳列された空間は、ここがホテルであることを忘れさせてくれる。客室のドアの前には作り付けの傘立てがあり、雨の多い香港で自由に傘が使える配慮がなされている。多くのホテルではゲスト用の傘はクローゼットの中に置いてあるのだが、ローズウッド香港ではドアの外(玄関先)に傘が置かれていることにも邸宅を意識したソニア・チェン氏とトニー・チー氏の心使いを感じる。客室はチェックのデザイン、ヘンリーボーン柄のスリッパ、ウイリアム・ローが描く香港の風景画、風水を意識した大理石のバスルーム、ロロ・ピアーナの壁紙、カクテルブックが置かれたバーワゴンなどゲストが目にするもの、手に触れるもの、すべてが二人の審美眼に叶ったものだ。
「ザ レガシー ハウス」、インド料理「チャート(Chaat)」といったミシュラン星付きレストランをはじめ合計8つのレストラン、2023年にアジアのベストバー50の9位にランクインする人気のバー「ダークサイド(DarkSide)」を擁し、世界のアートコレクターが目を見張る貴重な数多くのアート作品があるラグジュアリーホテルの模範と言えるローズウッド香港であるが、このホテルを語る上で欠かせないのは、ゲストの期待を超えるために努力を惜しまないスタッフによる最上級のホスピタリティだ。
リレーションシップ ホスピタリティ
ローズウッドが大切にしている「リレーションシップ ホスピタリティ」は、すべてのゲストにとってホテルで過ごす時間が、かけがえのないような経験となるように、真のホスピタリティを提供することでゲストとの間に永続的な関係を築くことだ。
マネージング・ディレクターのヒューゴ・モンタナーリ氏は「2023年にローズウッド香港が世界のベストホテル50(The World's 50 Best Hotels)のベスト3に選出され、アジアではナンバーワンというマイルストーンを築くことができたのは才能あるチームのおかげ」と語るが、モンタナーリ氏は自ら上質なホスピタリティの追求に余念がない。ホテル内では自身がユニフォームを着用し、スタッフ用のレストランでランチをサーブするなど現場の仕事を理解し、スタッフとコミュニケーションをとっている。
さらに、モンタナーリ氏はホテル内のみならず幹部メンバーとともに”Adventure in the Dark(暗闇の中の冒険)”という興味深いプログラムに参加していることにも注目したい。これは多様性のある香港で世界中からゲストを迎え、様々なバックグラウンドを持つスタッフを最良のチームとしてまとめる大きなヒントとなっているからだ。
モンタナーリ氏は、「視覚に頼らずに目標を達成するチームワークと信頼を得る体験をすることができました。暗闇の中の冒険を通して、メンバーの絆を深めると同時に、多様性、公平性、インクルージョン(多様な人材が尊重され、それぞれの人材の才能が発揮されること)の推進を見直すことができました」と感想を述べている。
2024年3月にオープン5周年を記念して行われた文化的プログラム「フロント ロウ」では、リーダーシップの専門家メルカート・ルハナ氏を招聘し、チームワーク、リーダーシップ、ストーリーテリング、サービスの卓越性についての理解を深めるワークショップが行われた。この結果、チームの洞察力の強化、ローズウッドのミッションを再評価、ブランドコミットメントを再確認するという効果をもたらした。400室を超える大きなホテルでパーソナルなホスピタリティを可能にしているのは、モンタナーリ氏を中心に、こうしたトレーニングを通してリレーションシップ ホスピタリティを念頭に学び続けるスタッフの努力に他ならない。
ローズウッドの「リレーションシップ ホスピタリティ」が今後、世界のローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎でどのように展開されるのだろうか。まもなく開業予定の日本初となる「ローズウッド宮古島」への期待が高まる。
ローズウッド香港
Rosewood Hong Kong
Victoria Dockside, 18 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong
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髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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