九龍島のランドマーク「ローズウッド香港」は2024年度、世界のベストホテル50で第3位、2023年度は第2位と2年連続でベスト3に選出された輝かしい実績を誇る。ホテルを支えるのは、ゲストのために努力を厭わないスタッフによる最上級のホスピタリティ。その根底にはローズウッドが大切にしているゲストとの永続的な関係を構築する「リレーションシップ ホスピタリティ」がある。ゲストが享受する心温まるホスピタリティとは――

BY HARUMI KONO

画像: 6階にあるインフィニティープール

6階にあるインフィニティープール

 香港・九龍島の尖沙咀(チムサーチョイ)地区のウォーターフロント、ビクトリア・ドックサイドに2019年にオープンした「ローズウッド香港」は65階建てのビルの高層部を占め、413ある客室の8割以上がビクトリアハーバーを臨み、マウンテンビューも緑あふれる美しい景色が広がる絶好のロケーションにある。

 その土地のアイデンティティや文化を反映する「A Sense of Place®︎ (センス オブ プレイス®)」を理念に掲げ世界にウルトラ ラグジュアリーホテルを展開するローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎は1979年、アメリカ・テキサス州ダラスの「ローズウッド マンション オン タートル クリーク」から始まった。「マンション」という名が示す通り、ゲストには邸宅に住まうようにくつろいで欲しいという創業者キャロライン・ローズ・ハント氏の思いが込められている。

画像: 九龍のビクトリア・ドックサイドのランドマーク、ローズウッド香港。近隣にはビジュアル・カルチャー美術館「M+」があり活気あふれる

九龍のビクトリア・ドックサイドのランドマーク、ローズウッド香港。近隣にはビジュアル・カルチャー美術館「M+」があり活気あふれる

 2011年、ローズウッドは香港のニューワールド デベロップメントに経営権が移り、現在は創業者チェン・ユートン氏の孫であるソニア・チェン氏がCEOとして創業者のホスピタリティ哲学を忠実に踏襲しながら、ニューヨークの「ザ カーライル」、パリの「オテル ドゥ クリヨン」、ヴェニスの「バウアー」といった各都市を象徴する由緒あるホテルをグループに加え、新たなホテルを世界五大陸に展開している。

 このようにローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎の世界におけるラグジュアリーホテルとしてのブランドの確立、ローズウッド・ホテルグループでは人柄や情熱を重視した、様々な職業や年代のメンバーで構成される新しいスタイルの会員制クラブ「カーライル & コー(Carlyle & Co)」の創設などが高く評価され、ソニア・チェン氏は2024年度、ホテル業界に多大な貢献をした個人に授与される世界のベストホテル50(The World's 50 Best Hotels)の特別賞「セブンルームス アイコン アワード(SevenRooms Icon Award)」を受賞している。

画像: ホルツカフェに飾られている羽にクリスタルが輝く孔雀はコロンビア出身のクラリダ・ブリンカーコフの作品。香港の喧騒が聞こえてくるようなタクシーのコラージュ作品は地元のアーティスト、ナンシー・リー作

ホルツカフェに飾られている羽にクリスタルが輝く孔雀はコロンビア出身のクラリダ・ブリンカーコフの作品。香港の喧騒が聞こえてくるようなタクシーのコラージュ作品は地元のアーティスト、ナンシー・リー作

 香港生まれのソニア・チェン氏にとってローズウッド香港は、世界のローズウッドの総本山とも言える、とりわけ大切なプロパティ。ホテルが建つ場所は祖父がニューワールド デベロップメントを創業した地であり、家族と共に過ごした少女時代の思い出が詰まった特別な場所であるからだ。ホテル内の「ホルツカフェ(Holt's Café)」の名前の由来はこの場所が旧ホルツ居留地だったこと、広東料理の「ザ レガシー ハウス(The Legacy House)」は、広東省出身の祖父が残した遺産(レガシー)へのトリビュートとして名付けられていることにも彼女の家族への敬意が表れている。

CEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏の審美眼

画像: エレベーターと客室の間にあるサロンはミッドセンチュリーとモダニティがミックスした空間。イタリア製ジョルジェッティの椅子に身を委ねて寛ぎの時間を過ごしたい

エレベーターと客室の間にあるサロンはミッドセンチュリーとモダニティがミックスした空間。イタリア製ジョルジェッティの椅子に身を委ねて寛ぎの時間を過ごしたい

 ゲストがローズウッド香港で邸宅の雰囲気を強く感じるのは、エレベーターを降りてから客室に向かう前にあるサロンではないだろうか。椅子とサイドテーブルが置かれ、貴重なアートピースが美しく陳列された空間は、ここがホテルであることを忘れさせてくれる。客室のドアの前には作り付けの傘立てがあり、雨の多い香港で自由に傘が使える配慮がなされている。多くのホテルではゲスト用の傘はクローゼットの中に置いてあるのだが、ローズウッド香港ではドアの外(玄関先)に傘が置かれていることにも邸宅を意識したソニア・チェン氏とトニー・チー氏の心使いを感じる。客室はチェックのデザイン、ヘンリーボーン柄のスリッパ、ウイリアム・ローが描く香港の風景画、風水を意識した大理石のバスルーム、ロロ・ピアーナの壁紙、カクテルブックが置かれたバーワゴンなどゲストが目にするもの、手に触れるもの、すべてが二人の審美眼に叶ったものだ。

「ザ レガシー ハウス」、インド料理「チャート(Chaat)」といったミシュラン星付きレストランをはじめ合計8つのレストラン、2023年にアジアのベストバー50の9位にランクインする人気のバー「ダークサイド(DarkSide)」を擁し、世界のアートコレクターが目を見張る貴重な数多くのアート作品があるラグジュアリーホテルの模範と言えるローズウッド香港であるが、このホテルを語る上で欠かせないのは、ゲストの期待を超えるために努力を惜しまないスタッフによる最上級のホスピタリティだ。

画像: ビクトリア湾の美しい眺望が広がる「グランド ハーバービュー ルーム」(53㎡)。椅子やテーブルをあえてテイストの違うものにして邸宅の居間の雰囲気を出したCEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏のセンスに脱帽

ビクトリア湾の美しい眺望が広がる「グランド ハーバービュー ルーム」(53㎡)。椅子やテーブルをあえてテイストの違うものにして邸宅の居間の雰囲気を出したCEOソニア・チェン氏とデザイナー トニー・チー氏のセンスに脱帽

画像: 「グランド ハーバー コーナー スイート」(123㎡)のリビングルーム。大きなシーリングウィンドウから昼と夜の景色の移り変わりを楽しみたい

「グランド ハーバー コーナー スイート」(123㎡)のリビングルーム。大きなシーリングウィンドウから昼と夜の景色の移り変わりを楽しみたい

画像: 「デラックス ハーバースイート」(105㎡)は木の温もりが落ち着いた雰囲気を醸し出す。ネイビーの壁紙(生地)はロロ・ピアーナ

「デラックス ハーバースイート」(105㎡)は木の温もりが落ち着いた雰囲気を醸し出す。ネイビーの壁紙(生地)はロロ・ピアーナ

リレーションシップ ホスピタリティ

 ローズウッドが大切にしている「リレーションシップ ホスピタリティ」は、すべてのゲストにとってホテルで過ごす時間が、かけがえのないような経験となるように、真のホスピタリティを提供することでゲストとの間に永続的な関係を築くことだ。

 マネージング・ディレクターのヒューゴ・モンタナーリ氏は「2023年にローズウッド香港が世界のベストホテル50(The World's 50 Best Hotels)のベスト3に選出され、アジアではナンバーワンというマイルストーンを築くことができたのは才能あるチームのおかげ」と語るが、モンタナーリ氏は自ら上質なホスピタリティの追求に余念がない。ホテル内では自身がユニフォームを着用し、スタッフ用のレストランでランチをサーブするなど現場の仕事を理解し、スタッフとコミュニケーションをとっている。

画像: ローズウッド香港 マネージング・ディレクター ヒューゴ・モンタナーリ氏 (Hugo Montanari) スイスにあるホテルスクールの名門校 エコール・オテリエール・ド・ローザンヌ卒業後、ドバイ、ニューヨーク、バンガロール、三亜、天津、モロッコなどで名だたるラグジュアリーホテル業界にてキャリアを積む。イタリアとフランスの二つの国籍を持ち、様々な国での経験を有するモンタナーリ氏はグローバルな視点でローズウッド香港を牽引する。2023年1月より現職

ローズウッド香港 マネージング・ディレクター
ヒューゴ・モンタナーリ氏 (Hugo Montanari)

スイスにあるホテルスクールの名門校 エコール・オテリエール・ド・ローザンヌ卒業後、ドバイ、ニューヨーク、バンガロール、三亜、天津、モロッコなどで名だたるラグジュアリーホテル業界にてキャリアを積む。イタリアとフランスの二つの国籍を持ち、様々な国での経験を有するモンタナーリ氏はグローバルな視点でローズウッド香港を牽引する。2023年1月より現職

 さらに、モンタナーリ氏はホテル内のみならず幹部メンバーとともに”Adventure in the Dark(暗闇の中の冒険)”という興味深いプログラムに参加していることにも注目したい。これは多様性のある香港で世界中からゲストを迎え、様々なバックグラウンドを持つスタッフを最良のチームとしてまとめる大きなヒントとなっているからだ。

 モンタナーリ氏は、「視覚に頼らずに目標を達成するチームワークと信頼を得る体験をすることができました。暗闇の中の冒険を通して、メンバーの絆を深めると同時に、多様性、公平性、インクルージョン(多様な人材が尊重され、それぞれの人材の才能が発揮されること)の推進を見直すことができました」と感想を述べている。

画像: ミシュラン1つ星のレストラン、インド料理「チャート」。味覚はもちろん、巧みなスパイス使いで嗅覚を、色彩豊かな食材で視覚を刺激する。非常に人気のレストランなので滞在を決めたらすぐに予約を

ミシュラン1つ星のレストラン、インド料理「チャート」。味覚はもちろん、巧みなスパイス使いで嗅覚を、色彩豊かな食材で視覚を刺激する。非常に人気のレストランなので滞在を決めたらすぐに予約を

画像: 高級ジュエリーブティックのような「バタフライパティスリー」

高級ジュエリーブティックのような「バタフライパティスリー」

画像: パティスリーの隣にある「ザ・バタフライルーム」の壁にはダミアン・ハーストの蝶の作品

パティスリーの隣にある「ザ・バタフライルーム」の壁にはダミアン・ハーストの蝶の作品

 2024年3月にオープン5周年を記念して行われた文化的プログラム「フロント ロウ」では、リーダーシップの専門家メルカート・ルハナ氏を招聘し、チームワーク、リーダーシップ、ストーリーテリング、サービスの卓越性についての理解を深めるワークショップが行われた。この結果、チームの洞察力の強化、ローズウッドのミッションを再評価、ブランドコミットメントを再確認するという効果をもたらした。400室を超える大きなホテルでパーソナルなホスピタリティを可能にしているのは、モンタナーリ氏を中心に、こうしたトレーニングを通してリレーションシップ ホスピタリティを念頭に学び続けるスタッフの努力に他ならない。

画像: アートバーゼル香港の公式ホテルパートナーであるローズウッド香港。ホテル内にはオーナーのコレクションが至る所に飾られている。1階のエレベーターホールの壁一面を飾るのはアメリカ人アーティスト、ジョー・ブラッドリーの抽象画

アートバーゼル香港の公式ホテルパートナーであるローズウッド香港。ホテル内にはオーナーのコレクションが至る所に飾られている。1階のエレベーターホールの壁一面を飾るのはアメリカ人アーティスト、ジョー・ブラッドリーの抽象画

画像: ホテルの2フロア、総面積3,600㎡を占めるローズウッドのウェルネス施設「アサヤ」。アロマ アトリエでは好みの香りを調合してオリジナルのオイルを作ることができる PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ROSEWOOD HONG KONG

ホテルの2フロア、総面積3,600㎡を占めるローズウッドのウェルネス施設「アサヤ」。アロマ アトリエでは好みの香りを調合してオリジナルのオイルを作ることができる

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ROSEWOOD HONG KONG

 ローズウッドの「リレーションシップ ホスピタリティ」が今後、世界のローズウッド ホテルズ & リゾーツ®︎でどのように展開されるのだろうか。まもなく開業予定の日本初となる「ローズウッド宮古島」への期待が高まる。

ローズウッド香港
Rosewood Hong Kong
Victoria Dockside, 18 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong
公式サイトはこちら

髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
公式サイトはこちら

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