BY HARUMI KONO

フーケッツ ペントハウスのリビングルームはアートコレクターの自宅そのもの。様々な作品に囲まれて寛ぎたい
「ブラッスリー フーケッツ(Brasserie Fouquet’s)」は、パリの凱旋門に近いシャンゼリゼ通りとジョルジュサンク通りの角にある真紅のひさしが目印のレストラン。1899年ルイ・フーケが開いたバーが店の始まりという歴史をもつ。店の名前は自身の名前を英語で表記した「フーケッツ」。後に多くの文化人、特に映画関係者が集うようになった。ドイツの文豪レマルクの『凱旋門』に登場したことでも有名だ。
ブラッスリー フーケッツは1998年、バリエールグループのもと「ホテル バリエール フーケッツ パリ」としてホテルを併設して生まれ変わった。バリエールグループは1912年に創業したフランスを拠点に世界展開するホスピタリティグループで、現在は4代目のアレクサンドルとジョイ・バリエール兄妹がグループを統括している。フランスでは、映画『男と女』が撮影されたドーヴィルの「ル ノルマンディ」、カンヌ国際映画祭の開催地、カンヌの「ル マジェスティック」が同じグループホテルで映画と深い関わりがある。「フーケッツ パリ」は、ヨーロッパのアカデミー賞と称されるセザール賞の祝賀会場として、これまで多くの映画俳優たちが喜びを分かち合ってきた。このようにフランスの文化を尊重する「フーケッツ」が北米に初進出したのが2022年。パリを象徴するホテルがニューヨークでどのように展開するのかが注目された。

フーケッツ ニューヨーク総支配人 マイケル・マッギンレー氏(Michael McGinley )
飲食業に携わっていた両親の家庭に育つ。ニューヨーク フォーダム大学卒業後、アメリカを代表する高級レストランなどでマネージャー、支配人を務める。クロスビー ストリート ホテルでの飲料部門統括、副総支配人、総支配人を経て、2024年1月より現職
「ホテルのコンセプトはパリとニューヨークの美しいマリアージュです」と話すのは総支配人マイケル・マッギンレー氏。その言葉を裏付けるように、ホテルはフランスのエレガンスとニューヨークのモダニティが調和している。レセプションのヘリンボーンの床はパリのアパルトマンを連想させる一方で、ニール・ホッドやマリリン・ミンターといった世界の一線で活躍する現代アーティストの作品が飾られていることから、ゲストはニューヨークのギャラリー巡りをしているような、あるいはアートコレクターの自宅に招かれたような気持ちになる。

フーケッツ ペントハウスのベッドルーム。ランプシェードやヴェネツィアングラスのシャンデリアはヨーロピアンスタイル
最上階の7階と8階を占める「フーケッツ ペントハウス」は、まるでコレクターの自宅を体現したかのようだ。リビングルームにはコレクションアイテムの数々、アートブックなどが飾られ、フォーカルポイントとなる壁面には大きなアートピースがブルーを基調にしたインテリアに馴染んでいる。部屋から広いテラスに出てトライベッカの景色を見ながらシャンパンを開ければ、極上の招待を受けたようなニューヨーク滞在となるのは確実だ。

淡いラベンダーとセージグリーンを基調にしたベッドルーム。鏡や天井の照明のアール・デコデザインにフランスのエレガンスを感じる

大理石で作られたダブルシンクの洗面所。鏡に映るのはニューヨークの日常風景が描かれたトワルドジュイの壁紙
ゲストルームは広々としたレジデンシャルタイプ。部屋はアール・デコのデザインと淡いラベンダーの優しい色調をベースに、セージグリーンが効いた落ち着きのある雰囲気。フランス製のトワルドジュイの壁紙に描かれているのは自由の女神、地下鉄の入り口、インスタグラムの撮影スポットで人気のホテルから程近いステープル ストリート(Staple Street)にあるスカイブリッジなどニューヨークの日常風景で、ここでもフランスとニューヨークの息遣いが融合している。

名優たちのポートレートが飾られているパリのブラッスリー フーケッツと同じ内装。オニオングラタンスープなどフランスの定番料理を用意
レストランは、フランス料理の巨匠ピエール・ガニエールが監修するフーケッツ パリのブラッスリーをニューヨークに再現した「ブラッスリー フーケッツ(Brasserie Fouquet’s)」、カフェ「エリゼ(Élysée’s)」、1920年から30年代のパリの華やかな狂乱の時代をテーマにした「ティトソー バー(Titsou Bar)」があり、オーセンティックなフレンチを中心にピザやハンバーガーなどアメリカンフードを提供している。

ロビーにあるライブラリーの隠し扉を開くと現れる隠れ家的な「Titsou Bar」。第一時代戦後の開放感あるパリの狂乱の時代がコンセプト。グラスを傾けながら当時の熱狂に酔いしれたい
フーケッツ ニューヨークが建つのは、石畳の道が美しい古き良き時代の雰囲気を色濃く残すハドソン川に近い、かつては倉庫街だった場所。現在はトライベッカで屈指の住宅街である静かなエリアだ。ホテルは8階建ての建物で、7階にはバルコニー付きのスイートルームと60席のルーフトップバーがある。このルーフトップバーは宿泊のゲストとメンバーシップの会員が利用できる特別なもので、メンバーシップ制度は地元の人々を大切に、いつでもホテルに来てもらえるようにという意図のもとで作られた。近隣の住民で構成されるメンバーはおよそ100名。近くに住むセレブリティがレストランにやってくることもしばしば。ホテル内のフィットネスセンターはモデルや俳優が通うジム「ドッグパウンド(DOGPOUND)」で、「セレブリティと同じジムのプログラムを受けることができる」とゲストの評判は上々だ。

ホテルの周辺には超高層ビルが少ないので空が広く感じる。開放感あふれるルーフトップでカクテルを楽しみたい

ザ セラーにあるミニシアター。その名も「カンヌ シネマ」。アール・デコのカーペットにビロードのカウチが高級感を醸し出す。壁に掛けられたアート作品はフランス人アーティスト、ファニー・ニュシュカ作
フーケッツ ニューヨークは随所でフランスの文化をリスペクト。その一つがフランスの建物の地下にある「カーヴ(cave)」(英語でセラーcellar)を引用して地下を“basement”ではなく“The Cellar”と名付けていること。そしてザ セラーにあるミニシアターは、映画を大切にしているバリエールグループらしさが表れている。「日曜日の夜の過ごし方として、夕食と映画鑑賞をセットにしたプログラム、"Cozy Classics(コージー クラシックス)" を販売したところ、大変好評をいただきました。当初は期間限定の予定でしたが、今後も継続しようと思います」とマッギンレー氏。ラグジュアリーホテルでフランス料理と映画を楽しむ新たなライフスタイルを提案している。

フーケッツ ニューヨークは石畳が美しいトライベッカの住宅地に建つ
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF FOUQUET'S NEW YORK
ホスピタリティについて尋ねると、マッギンレー氏は「優秀なコンシェルジュがいることです」と自信をのぞかせる。チーフコンシェルジュのクリストファー・マコーマック氏は、「The New York City Association of Hotel Concierges® (NYCAHC)」のプレジデントを務め、他のホテルのコンシェルジュチームと連携してニューヨークのあらゆる情報を網羅している。食事の好み、希望の店の雰囲気、訪れたい場所を伝えると相応しい店を手配。詳細は携帯電話にメッセージが届くので、外出先からそのまま食事に出かけることができる。ニューヨークを知り尽くした心強い味方だ。
フーケッツ ニューヨークでパリのアール ド ヴィーヴルとニューヨークのライフスタイルを楽しんでほしい。
フーケッツ ニューヨーク
Fouquet's New York
456 Greenwich St
NY 10013 New York, USA
公式サイトはこちら
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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