BY HARUMI KONO

エントランスは、かつて三井総領家の表玄関として使われていた300年以上の歴史をもつ「梶井宮門」。登録有形文化財(建造物)である。ホテル開業にあたり門を解体し、宮大工たちが当時の素材を8割使って修復、「継承と新生」というコンセプトを象徴する。白い門幕は、元旦、祇園祭の期間、そして開業日の11月3日に紫色の門幕に掛け替えて佳日を祝う
世界遺産・元離宮二条城から堀川通りを隔てた三井総領家の邸宅として多くの客人をもてなした油小路邸跡地に「HOTEL THE MITSUI KYOTO」が開業したのは2020年のこと。梶井宮門をくぐり、霰(あられ)こぼしと呼ばれる石畳を通りエントランスへと向かう。レセプションでは泉田之也氏の風をテーマにした作品がゲストを迎え、その先に美しい日本庭園が広がる。庭と建物が一体となり調和をなす「庭屋一如(ていおくいちにょ)」に忠実に、庭を囲んでこのホテルは建つ。
十三重の塔、手水鉢、ねじれ太鼓橋、油小路邸で愛しまれたものを受け継ぎ、客人をもてなした奥書院「四季之間」の当時の姿を総檜造りで再生した。茶の湯の精神、陰影美、花鳥風月を愛でる日本の美意識は、ホテルのいたるところに宿る。それはスタッフの心遣いや所作にも表れていて、世界のあらゆるホテルを知り尽くしたトラベラーやセレブリティが名指しで訪れるほど、HOTEL THE MITSUI KYOTOの名は国内海外に知れわたっている。

梶井宮門をくぐり、風情ある霰こぼしへ。右手には二段に欠けた形状の紫貴船石が。この石は茶室に入る際、武士が刀を追いた刀掛石として使用されていたもの。まるでホテルのゲストを茶室に迎え入れるかのようだ
「2018年にプロジェクトが始まった時、ホテルの名前も決まっていないゼロからの出発でした。開業にあたり大切にしたことは、日本のブランドであること、ゲストがうれしくなるような空間をつくること、地元の皆様に愛されるホテルにすることでした。そしてグローバルな視点では、『フォーブス・トラベルガイド』(Forbs Travel Guide)で最高位である5つ星の獲得を目標にしました」と開業準備室からオープニングの総支配人を務めた楠井学氏。楠井氏のリーダーシップのもと、ホテルオープン初年度の審査で日本のホテルでは初となる最高位5つ星の評価を得た。以来、2026年まで連続して5つ星の最高評価が続く。さらに2024年、2025年と2年連続で『ミシュランガイド ホテルセレクション』で最高評価の「3ミシュランキー」、2025年は『The World’s 50 Best Hotels 2025』(世界のベストホテル50)に日本のホテルブランドで唯一ランクイン。開業からわずか5年で世界的権威あるホテル評価の3つの栄冠に輝いた。
成功の秘訣について楠井氏は当時を振り返る。「ホテルに携わる全員が同じ目標を共有していたこと、私も含めて外資系ホテルでの勤務経験のあるスタッフが多く、日本のホテルであることを理解して、世界的な観点から物事を考え実行に移すことができる人材に恵まれていたことではないでしょうか」。サービスの現場だけではなく、食のシーンも同様だ。シグネチャーレストラン「都季(TOKI)」ではリッツ・パリ出身の浅野哲也料理長がイノベーティブフレンチを振る舞い、「FORNI」では、ニューヨークの名門ジャン・ジョルジュで活躍した米澤文雄氏をコンサルタントシェフとして迎えている。

ロビーから望む庭園。左手に「都季(TOKI)」、「四季の間」、右手に「FORNI」、「THE GARDEN BAR」。レストラン、バーのどの席からも庭園を見ることができる。八重紅枝垂れ桜、色葉紅葉、侘助椿など自然の美を感じる空間

元離宮二条城を一望できる「ニジョウスイート」。夜間、ライトアップされた二条城を上から見ることができるのはHOTEL THE MITSUI KYOTOならでは。客室はスイートとゲストルームの全160室。もてなしの場である茶室に倣うデザインとなっている

三井家10代目当主、三井隆棟が建設した「四季之間」。当時から畳に絨毯を敷くなどモダンなセンスだった。月字崩しの欄間、木瓜型の窓など細部のこだわりは桂離宮への憧憬の表れだった。総檜造りで再生した「四季の間」は現在、レストランの個室として利用されるほか、縁側では「ウェルネス呼吸法で迎える爽やかな朝」のプログラムが行われる
そして2025年7月、ホテルにとって新たな一歩が始まった。「HOTEL THE MITSUI HAKONE」の開業に伴い楠井氏がHOTEL THE MITSUIブランドの統括総支配人となり、新たに加勢田愉士氏が総支配人として着任した。加勢田氏は楠井氏と同様、外資系ホテルでのキャリアが長いが、なかでもイギリスの名門「クラリッジズ」で宿泊部長という経歴を有する。「イギリスでもクラリッジズは一目置かれるホテルです。そのクラリッジズで学んだことは、準備に妥協せず、ゲストが喜ぶことを追求し、深い部分までゲストに向き合っているということでした。特にお客様と接するバトラーチームが素晴らしかった」。
今後、加勢田氏はバトラーを取り入れてみたいという。旅の間、素の自分に戻る時、そっと支えてくれるバトラーは日本ではまだ馴染みがない。「食や趣向はもちろん、室温、枕の高さ、ブランケットなど細かい部分までゲストの好みを知り、ゲストがホテルで過ごす時間を快適にするバトラー。『このホテルに滞在すると自分らしくいられる』と言われるホテルにしたいですね」とバトラーの重要性を説く。「また、200年以上の歴史を有するクラリッジズには、何世代にもわたりご利用下さるゲストが多かったので、開業6年目の HOTEL THE MITSUI KYOTOも時を重ねて、このようなゲストが増えるようにしたいと思います」。加勢田氏の話を聞くと、経年優化が楽しみな京都の老舗「開化堂」の茶筒や、時を経て層をなす地層をテーマにしたアート作品が館内に飾られていることの意味に重みが増す。京都でブランドの歴史が始まったHOTEL THE MITSUI。今年中の開業を予定している箱根への期待が高まる。

ホテル敷地内に沸く京都二条温泉は「サーマルスプリング」としてヨーロッパの温浴保養所のように水着着用で利用。家族やカップルで同時に楽しむことができる。スパエリアは「フォーブス・トラベルガイド2026」のスパ部門において最高評価5つ星を獲得

ロビーの左手にあるライブラリーには、デザインを担当したアンドレ・フーが選書した日本文化、京都、三井家に関する本が並ぶ。三井家の歴史を伝えるコーナーには梶井宮門の棟札(建設物の由来、年月日、守護神などが記された内部に納める札)が大切に保管されている

ロビー右手には武者小路千家家元後嗣・千宗屋氏監修の「茶居」がある。武者小路千家の茶道家の先生より手ほどきを受けたスタッフがお点前を披露する

温泉をプライベートで楽しみたいゲストに人気の、坪庭と露天風呂を設えた「ONSENスイート」。日本の温泉を極上のホスピタリティで経験できる

約1,300㎡の庭園。日本最古の回遊式庭園「桂離宮」の「庭屋一如」の精神を取り入れた三井総領家。ドイツ人建築家ブルーノ・タウトが桂離宮の美しさを称賛したように、ゲストはHOTEL THE MITSUI KYOTOに宿る日本の美しさを感じるに違いない

HOTEL THE MITSUI KYOTO 総支配人
加勢田愉士氏 (かせだよしひと)
国内外の「ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ」でホテリエのキャリアをスタート。「マンダリン オリエンタル 東京」、ロンドンを代表する名門ホテル「クラリッジズ」にて宿泊部長、「マンダリン オリエンタル 東京」のホテルマネージャーを経て2025 年7月より現職。
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF HOTEL THE MITSUI KYOTO
HOTEL THE MITSUI KYOTO
住所:京都府京都市中京区油小路通二条下る二条油小路町284
公式サイトはこちら
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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