豊田泰久

音響設計家。1952年広島県生まれ。

’72年に九州芸術工科大学音響設計学科に入学、

’77年、永田音響設計に入社。

現在、同社ロサンゼルス事務所およびパリ事務所代表。

写真は’86年に完成した<サントリーホール>で



 無響室で音楽を鳴らすと、いかなる名曲・名演でも味けなく聞こえる。いい「響き」は音楽を楽しむのに欠かせない。豊田泰久は<サントリーホール>をはじめ、世界各地の名ホールの音響設計を手がけている。最近ではジャン・ヌーヴェル設計による<フィルハーモニー・ド・パリ>や、同じくパリの<ラ・セーヌ・ミュジカル>(坂茂設計)、スイスの建築ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した波のような外形が印象的な<エルプフィルハーモニー・ハンブルク>など名だたる建築家によるホールの音響設計も担当した。ホールの形態やステージ・客席の配置、反響板と呼ばれる板の場所などを調整し、どの客席でも最上の響きを味わえるようにするのが彼の役割だ。


 ホールを実際に使うのは音楽家だ。彼らは自らの演奏をベストの音響で聴いてもらいたいと考えているから、特定のオーケストラの拠点となるホールを設計する場合、オーケストラを率いるマエストロ(指揮者)からは理想の音を求めて豊田に細かい注文が出される。「彼らはアーティストですから、リクエストも『ふわっと、軽く』といった抽象的なものになるんです。ふわっとした音とは、軽い響きとはどんなものか。その言葉を自分なりに“翻訳”して設計するのですが、それがやはり難しい」と豊田は言う。


 磯崎新ら建築家から指名されることもある。ロサンゼルスの<ウォルト・ディズニー・コンサートホール>はアメリカの建築家、フランク・ゲーリーが手がけた初めての音楽ホールであり、豊田にとっても思い出深い仕事になった。「どんな建築になるのだろう、と思って模型を見せてもらったら、ただの四角い箱だったんです。『これが建物のデザインですか』とゲーリーに尋ねると、『いや違う。どうなるのかは自分にもわからない』と言う。音響を決定するホールの形が決まるまで、外形のデザインは待つというのです」