BY NAOKO AONO, PHOTOGRAPH BY YASUYUKI TAKAGI, EDITED BY JUN ISHIDA

ゲーリーらしいシルバーの外壁がうねる<ウォルト・ディズニー・コンサートホール>外観
© FRANK O. GEHRY. GETTY RESERCH INSTITUTE, LOS ANGELES(2017.M.66), FRANK GEHRY PAPERS
豊田がリスペクトするホールのひとつに、1963年に完成した<ベルリン・フィルハーモニー>がある。中心にあるステージを客席が段々畑のように取り囲む「ヴィンヤード(ワインヤード)型」という配置だ。ステージの一方に座席が並ぶ「シューボックス型」に対してこう呼ばれる。豊田も〈サントリーホール〉をはじめ、種々のホールでこの形式を採用している。「ステージまでの距離が同じでも、より近く感じられて、音楽も親密に聞こえます」と豊田は言う。彼は「心理音響」という概念を提唱している。


(写真上、下)<上海交響楽団ホール>現代音楽に造詣が深い建築家、磯崎新との協働
© CHEN HAO
「音楽を聴くときは、目にもいろいろなものが飛び込んできます。ヴィンヤード型ならほかの聴衆の顔も見えるから感動を共有できるし、一体感が得られる。誰か知り合いがいたら『今夜の演奏は素晴らしかった』と感想を言い合うのもいいでしょう。音楽はそういったことも含めて楽しむものではないでしょうか」
最近ではデジタル技術も進み、どこにいてもいい音で音楽を楽しめるけれど、目の前で奏でられる音楽に触れる喜びは格別だ。そもそも人間の耳がどのようにして音を聴いているのか、まだわからないことが多いのだと豊田は言う。特に脳内でのステレオ効果、音を立体的に認識するメカニズムには謎が多いのだそうだ。豊田はそんな未知の世界を探りつつ、大小さまざまのホールをつくり続けている。豊かな響きがからだ全体を、そして心までも震わせるホールの陰に、豊田がいる。