米国版T Magazineの表紙のために黒人ラップ・ミュージシャンのジェイ・Zを描いたヘンリー・テイラー。3月末に初の個展を日本で開催するアーティストの創作の現場を訪ねた

BY JANELLE ZARA, PHOTOGRAPHS BY LIZ KUBALL, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)

 隣人や仲間のアーティスト、ラッパーのドレイクなどをたっぷりした濃い色の塊で描いた、共感を誘うポートレイトによってアート界のスタープレイヤーとなったテイラーは、「NBAのスター選手、レブロン・ジェームズみたいになることもできる。でも、いまだにこういった問題に向き合っているのさ」と言う。(インタビューのあいだ、彼はたびたび話を中断しては、作品のいくつかをギャラリー「Blum & Poe」に戻し、マイアミ・ビーチで開催されるアート・バーゼルに送るよう、梱包や運搬の担当者に指示を出さねばならなかった)

「私たちが似たような経験をしたことがあるかって?」と彼は尋ねてきた。「おいおい、わかるだろう。私は黒人だ。それ以上、言うべきことはないはずだよ」

画像: スタジオで煙草を吸いながら、くつろぐテイラー

スタジオで煙草を吸いながら、くつろぐテイラー
 

 テイラーは、12月号のT Magazineに掲載する2つめの絵画を描いていた。『Go Next Door and Ask Michelle’s Momma Mrs Robinson If I Can Borrow 20 Dollars Til Next Week?』というタイトルのこの作品は、こうしたテーマに真っ向から向き合ったものだ。“Mrs Robinson”とは、ミシェル・オバマの母親のマリアン・シールズ・ロビンソンのことだとテイラーは言う。

絵の中では、NFLの選手コリン・キャパニック(※訳注:アメリカの人種差別に抗議して、試合前の国歌斉唱の時に起立しなかっとことで話題を呼んだ)のジャージを着た人物が、フェンス越しに建物をじっと眺めている。アメリカで最も影響力のある二人の黒人男性が以前住んでいたその建物は、ホワイトハウスと公共団地。ジェイ・Zが育った公共団地は、「マーシー・プロジェクト」と呼ばれる低収入者向けのアパートとして、ブルックリンのベッドスタイ地区(ベッドフォード=スタイベサント)に建てられたものだ。絵の前景にある木の茂み越しに、保安官事務所行きのバスに乗り込む男性たちと、彼らを監視する威圧的な黒い馬が描かれている。

画像: “Go Next Door and Ask Michelle's Momma Mrs Robinson if I Can Borrow 20 Dollars Til Next Week?” 2017年 Acrylic on canvas 37.5 x 46.4 cm © Henry Taylor Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

“Go Next Door and Ask Michelle's Momma Mrs Robinson if I Can Borrow 20 Dollars Til Next Week?”
2017年 Acrylic on canvas 37.5 x 46.4 cm
© Henry Taylor
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
 

画像: テイラーの画材が並ぶ

テイラーの画材が並ぶ
 

「芸術家は、ときには遠慮なく、正々堂々と意見を述べなくちゃならない。自分たちが身に染みてわかっていること――黒人問題について、話さなければならないのさ」とテイラーは言う。「はっきり言えば、法廷の外だろうが中だろうが、黒人は今また奴隷扱いされている。成功した黒人はみんな、低収入層向けのアパートに住んでる家族が18人くらいはいるし、刑務所に入っている知り合いが必ずいるものなんだ」

画像: スタジオの隅には、彼がまだ描いている途中の作品が置かれている

スタジオの隅には、彼がまだ描いている途中の作品が置かれている
 

 テイラーの描いたジェイ・Zのポートレイトに話を戻すと、参考となる写真は結局、見つからなかった。しかたなく、テイラーは記憶を頼りに描くことにした。そして最終的に、『I Am a Man, 』と題したその絵は、ラッパーであり、音楽界の大立者であるジェイ・Zが濃い色のスーツに明るいブルーのネクタイを締めた姿をクローズアップした作品となった。「ときにはフリースタイル・ラップのように、ふと頭に浮かんでくるものに身をゆだねるのさ」

画像: ヘンリー・テイラーが描いたジェイ・Z。 “I Am a Man.” 2017年 © Henry Taylor Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

ヘンリー・テイラーが描いたジェイ・Z。
“I Am a Man.” 2017年 © Henry Taylor
Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

  

ヘンリー・テイラー個展「Here and There」
日本初となるアーティスト ヘンリー・テイラーの展覧会。2017年にテイラーが旅したモロッコやガーナ、メキシコなど世界各地で目にした人々や出来事、自画像などが展示される

会期:2018年3月24日(土)~5月19日(土)
場所:BLUM & POE
住所:東京都渋谷区神宮前1-14-34
開館時間:11:00~19:00 
休館日:月・日曜、祝日
電話: 03(3475)1631
公式サイト

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