アラスカの氷河をモチーフにしたダグ・エイケンの映像インスタレーションから、横尾忠則が描いた亡き愛猫タマの肖像。クレア・タブレがロックダウン中に制作したセルフポートレイト。開催中の3つのアート展の見どころを紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO

横尾忠則『タマ、帰っておいで』|西村画廊

 横尾忠則の作品集『タマ、帰っておいで』(講談社)の中にこんな一節がある。「自己に忠実なわがままさは芸術家の学ぶべき姿勢だ。ぼくはその姿勢を学んで、とうとう猫背と喘息になった」。稀代の芸術家・横尾が手本とするタマとは一体誰のことだろうか?――“猫背”という言葉から察しがつくとおり、実は猫である。

 横尾忠則と猫は縁が深い。猫好きであるピカソのまるで“自己に忠実でわがまま”な作品に触発されて画家宣言をし、アンディ・ウォーホルの猫の作品集を監修したこともあった。もちろん自身も愛猫家で、野良猫だったタマを保護し、15年ほど一緒に生活。愛猫への献身ぶりから世田谷区から表彰もされた。

画像: 《タマ、帰っておいで 019 自宅にて》 2014 キャンバスにアクリル 33.3 x 24.2 cm © TADANORI YOKOO, COURTESY OF NISHIMURA GALLERY

《タマ、帰っておいで 019 自宅にて》 2014
キャンバスにアクリル 33.3 x 24.2 cm
© TADANORI YOKOO, COURTESY OF NISHIMURA GALLERY

 西村画廊で開催中の『タマ、帰っておいで』では、2014年タマが亡くなったその日から現在まで、横尾がライフワークのように描き続けているタマのポートレイト約90点を一堂に会した展覧会だ。タンスの奥に忍び込もうと身構え、透明のビニール袋を被って遊び、いつもの野道を歩いてこちらにやってくる、横尾の記憶の中で今も生きるタマが絵の中に愛らしく姿を見せる。

画像: 《タマ、帰っておいで 082 自宅にて》 2019 キャンバスにアクリル 45.5 x 53 cm © TADANORI YOKOO, COURTESY OF NISHIMURA GALLERY

《タマ、帰っておいで 082 自宅にて》 2019
キャンバスにアクリル 45.5 x 53 cm
© TADANORI YOKOO, COURTESY OF NISHIMURA GALLERY

「猫は、子どもっぽくなるから絵のメインモチーフにはしない」と言い、これらの肖像画もアートとしてでなく、個人的なレクイエムとしてひっそりと描いてきたという横尾。しかし、これらのタマの絵は、同じモチーフを反復して使用したり、コラージュ的な手法を加えたりと、芸術的な遊びが見てとれるものも多い。時には大義名分に縛られない、自由さと遊びの精神。それもまた横尾が猫に学んだ芸術家の大切な資質だったはずだ。

『タマ、帰っておいで』
会期:〜12月19日(土)
会場:西村画廊
住所:東京都中央区日本橋2-10-8 日本橋日光ビル 9F
休廊日:日・月曜、祝日
開館時間:10:30〜18:30
入場料:無料
電話: 03(5203)2800
公式サイト

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