BY KANAE HASEGAWA
江戸時代から現代まで息づく東京の伝統産業の新たな側面を発見できるオンライン上の展覧会『江戸東京リシンク』が開催されている。
展覧会は江戸・東京の伝統に根差した技や商品の新たなあり様を探る、東京都主催の「江戸東京きらりプロジェクト」の一環として企画された。1985年生まれの舘鼻則孝が展覧会ディレクターとなり、8つの伝統産業のもつ可能性を彼の眼差しを通して捉えた構成になっている。
本来は和敬塾本館(旧細川侯爵邸)を会場に、実際に来場して実物を観賞する形式を予定していた。だが、新型コロナウィルス感染拡大予防の観点から鑑賞者を入れることなく、事前に和敬塾で撮影した展示の様子をオンラインで公開する形式となった。
1階では、小町紅「伊勢半本店」、東京くみひも「龍工房」、刃物「うぶけや」の3つの伝統産業の担い手の技を取り入れた舘鼻のアート作品を公開している。

伊勢半本店とコラボレーションした舘鼻則孝の作品展示風景

レイアウト上の部屋ごとにナンバリングされ、その数字を付したイメージをクリックすると展示の様子を見ることができる
1825年創業の「伊勢半本店」は山形県産の紅花の花びらに含まれる赤い色素を抽出し、秘伝の方法で紅を作る日本最後の紅屋だ。その紅は乾いた状態では玉虫色に輝き、水を加えると紅色に変化する。様々な表情を見せることから紅は化粧品にもなり、江戸時代の花魁にも愛用されたそうだ。
これまで花魁の高下駄に着想を得てヒールレスのシューズを作り続けてきた舘鼻。今回、この神秘的な色彩、また生命の象徴、魔除けとしても用いられてきた紅の精神的要素に魅了され、新たに紅で“化粧した” 《Heel-less Shoes》を作り上げた。

伊勢半本店 × 舘鼻則孝の《Heel-less Shoes》

(写真右)水に溶くと玉虫色から紅色に変化するところを「伊勢半本店」の独自の技で玉虫色のままに定着させることを可能にした
(写真左)皮革に「伊勢半本店」の生紅を染め付ける舘鼻
また舘鼻は組紐をつかった《Heel-less Shoes》も制作した。組紐を手がけたのは1889年創業の「龍工房」。帯紐に見られる伝統的な組紐の文化と技術を今に伝える作り手だ。聖徳太子の時代から存在する組紐は用途に合わせて多様な組み方が生まれたという。技巧を凝らした組み方にこそ職人技がさえるのだろうが、舘鼻が着目したのは「龍工房」が創業時から伝承してきたオーソドックスな角打ち紐の組み方だった。

龍工房×舘鼻則孝の《Heel-less Shoes》。龍工房の創業時から作られてきた角形の組紐を使用した。太さ1ミリほどの絹糸を手で撚っていく作業は腕に覚えのある職人にしかできない
「こんなに複雑な組み方が用いられているということではなく、組紐はどんな造形にも組み上げることが可能という特性に引き付けられました。そこで組紐でできたシューズを見たくなったんです」と舘鼻は言う。シューズを圧倒的な数の組紐で巻くことで《Heel-less Shoes》と組紐のどちらにとっても新鮮な造形が生まれた。
会場の2階では刃物「うぶけや」、紋章上繪「京源」、江戸小紋「廣瀬染工場」、暖簾「中むら」など、伝統産業の老舗で伝承されてきた品物とともに、その歴史資料をアーティストである舘鼻の視点で紹介する展示になっている。

刃物「うぶけや」の展示風景。実物を見ることに勝るものはないが、舘鼻が感じた伝統産業の魅力や価値が伝わるように撮影のカットや部屋への光りの入り方など、品物の見せ方にはこだわったという
PHOTOGRAPHS BY GION
本展覧会への想いを舘鼻はこう語る。「歴史ある伝統産業の中では、革新的なことを起こしづらい担い手もいると思います。こういったプロジェクトを通じて、一緒に伝統工芸の新たな可能性を探り、また未来につなげていきたい」
『江戸東京リシンク展』
オンラインにて開催
展覧会サイト