BY JUN ISHIDA
グッチやバレンシアガを有するグローバル・ラグジュアリー・グループ「ケリング」は、カンヌ国際映画祭などで女性クリエイターの支援を目的とする「ウーマン・イン・モーション」という活動を2015年より展開している。「T JAPAN」本誌でもこの活動の一環として、日本の女性写真家を紹介するインタビューシリーズを掲載中だが、京都で開催中の「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021」では、ヨーロッパ写真美術館(MEP)とタッグを組み、フランスを拠点に活動する若手女性アーティストの作品を紹介する展示「MEP Studioによる5人の女性アーティスト展ーーフランスにおける写真と映像の新たな見地」を行っている。
本展では、MEPのディレクターであるサイモン・ベーカーが、若手作家を紹介するスペースMEP Studioでも展示経験のあるアーティスト4組5名を選出。マルグリット・ボーンハウザー、マノン・ロンジュエール、アデル・グラタコス・ド・ヴォルテール、ニナ・ショレ&クロチルド・マッタという、いずれも1990年前後に生まれた作家たちで、日本で作品を発表するのはクロチルド・マッタ以外は今回が初となる。
ファッションフォトグラファーとしても活躍しているマルグリット・ボーンハウザー(1989年生まれ)は、ヴィヴィッドな色彩が目を惹く写真作品を発表。写されているのは女性の身体など普段見慣れたものだが、その切り取り方と幻想的な色使いが日常を非日常へと変える。ヨーロッパの美術館にも作品がコレクションされているマノン・ロンジュエール(1993年生まれ)は、アーカイブ写真と自ら撮影した写真が混在する展示を展開。自然災害をテーマにしたジョン・アダムスのオペラ「天井を見つめていたら空が見えた」にインスパイアされたという作品はミステリアスで、見る者にさまざまな物語を連想させる。
アデル・グラタコス・ド・ヴォルテール、ニナ・ショレ&クロチルド・マッタの二組はそれぞれ映像作品を発表。アデル・グラタコス・ド・ヴォルテール(1993年生まれ)はリサーチメモをプリントした壁紙と京都で発見したタンスを用い、インスタレーション空間を創出した。タンスの裏側に投射された映像のタイトルは「決して無傷ではない」。彼女は癒すことのできない傷や秘密など、目に見えないものを視覚化することをテーマにしているというが、記憶の中の断片をつなぎ合わせたような映像は、タンスの中に納められた人の秘密を覗き見るようでもある。映像作家でダンサーのニナ・ショレと美術作家で女優のクロチルド・マッタの二人組は、モロッコのタンジェとイタリアのローマを舞台に「都市における女性の体験」をテーマとした映像作品を作りあげた。ヨーロッパと異なる文化圏(タンジェ)で女性がどのように見られるのか、そしてヨーロッパ(ローマ)では女性はどのような存在か? 二人が撮影した映像はセンシュアルで親密な空気に満ちている。
日常や女性、記憶など、テーマは重なれど5人の女性たちの表現方法は多種多様だ。彼女たちは写真と映像、そしてテキストの間を自由に行き来する。本展は、ミレニアム世代の作家たちの自由で率直な探究心に出会うような展示となっている。
今年で9回目となるKYOTOGRAPHIE。コロナ禍の中で2回目の開催、そして東日本大震災から10年目となる今回は、MEP Studioのもの以外にも様々な展示が繰り広げられている。コロナ禍の孤独な日常をセットアップ写真で表現するアーウィン・オラフ、生命の起源である植物の種に着目し、それぞれの表現方法で写真に焼き付けたトム・デレームと八木夕菜、京都という土地と自身の記憶が幾重にも重なるインスタレーションを展開する榮榮&映里、そしてアフリカにおける性の問題をエネルギッシュかつポップに表現するンガディ・スマート……。いよいよ今週末で会期も終了。「ECHO」というテーマのもとにさまざまな声が響き合う、多様性に触れてほしい。
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2021
「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展
――フランスにおける写真と映像の新たな見地」
会期:〜2021年10月17日(日)
会場:HOSOO GALLERY
住所: 京都府京都市中京区柿本町412
時間:10:30〜17:00
入場料:¥800
公式サイト