1962年に発表された『Green Marilyn』は、今回クリスティーズで落札された作品と異なり、粗いシルクスクリーン印刷で、堕ちたスターの凋落を感じさせる滲みがある。それは先駆的でありオリジナリルであった

BY BLAKE GOPNIK, PHOTOGRAPHS BY JEENAH MOON, TRANSLATED BY T JAPAN

画像: アンディ・ウォーホルの1964年のシルクスクリーン作品《Shot Sage Blue Marilyn》が5月9日、NYのクリスティーズでオークションにかけられた。約1億9,500万ドルという落札額は、アメリカ人によるアート作品としては史上最高額となった ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS) , NY.

アンディ・ウォーホルの1964年のシルクスクリーン作品《Shot Sage Blue Marilyn》が5月9日、NYのクリスティーズでオークションにかけられた。約1億9,500万ドルという落札額は、アメリカ人によるアート作品としては史上最高額となった
ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS) , NY.

 1962年の夏の終わり頃、アンディ・ウォーホルは、緑、青、赤、オレンジ、黒、時には金色に塗られたキャンバスに、マリリン・モンローの顔をシルクスクリーンでプリントする作品を制作し始めた。繰り返し刷られたマリリンたちは225ドルで販売され、20世紀で最も斬新で影響力のある作品となり、ウォーホルがニューヨークで開いた最初のポップ・アートの展覧会でもその大部分を占めた。

 2022年5月9日にマンハッタンのクリスティーズ・オークションハウスで、1億9504万ドル(約253億円)という信じがたい金額で落札されたシルクスクリーンのマリリンは、そうした画期的な作品の一つではない。

画像: アンディ・ウォーホル《Shot Sage Blue Marilyn》1964年 ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./LICENSED BY ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NY

アンディ・ウォーホル《Shot Sage Blue Marilyn》1964年
ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./LICENSED BY ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NY

 落札された1964年の『Shot Sage Blue Marilyn』(作品名とは異なり銃弾が貫通したことはなく、この名称は初期の学者の誤りに由来する)は、それ以前の作品の「焼き直し」と呼ぶべきもので、ウォーホルが最初の「マリリン」を作成した2年後に、アート界の起業家ベン・ビリロがポップ・アートのコレクターのレオン・クルーシャーに再販するために作家に注文したものだ。(1998年のインタビューでビリロは、ウォーホルに支払う報酬は、フィデル・カストロの義弟だったキューバの亡命富豪、ワルド・ディアス=バラートという後援者からのものだったと語っている)。

 1962年に発表されたオリジナルの「マリリン」たちは、シルクスクリーンで粗雑に刷られ、滲みやムラを残した奇妙で悲惨なイメージで、堕落した映画スターが抱える苦悩を表現していた。ウォーホルは、マリリンの死後すぐにこの作品を構想したと言われているが、それは俗説であるとも言われている。1964年にウォーホルが制作した5枚の複製は、より大きく、より明るく、より鮮明で、悲嘆より祝祭に満ちた作品である。私がコレクターなら、1964年当時でも2022年の今でも、1962年の悲しく厳しいバージョンよりも、これらの作品をソファの上に飾りたいと思うだろう。

画像: アンディ・ウォーホル《Green Marilyn》1962年 ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NY; NATIONAL GALLERY OF ART, WASHINGTON

アンディ・ウォーホル《Green Marilyn》1962年
ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NY; NATIONAL GALLERY OF ART, WASHINGTON

 ウォーホルの2つの「マリリン」シリーズの間に生じた変化は、ポップ・アート全体の変化と平行していた。ポップ・アートは、わずか2年の間に、美術界に衝撃を与えた脅威ともいえる新しい芸術運動から、アメリカ国民お気に入りの新しいトレンドとなり、テレビや新聞で延々と取り上げられるようになったのである。1964年、ウォーホルは、「マリリン」を繰り返し発表することで、このムーブメントの新しい人気を受け入れ、単なるポップ・アートではなく、真に“ポピュラー・アート”としての作品を作っていたと言えるだろう。ウォーホルは、彼の初期のポップ・アート作品のようにファイン・アートの高みから大衆文化を論評するのではなく、1964年には、キャンベル・スープ缶やブリロ(食器洗いパッド)の箱、映画『七年目の浮気』のマリリンなど、大衆文化における日用品と同じようなイメージを、シルクスクリーンで印刷していたのだ。

 ウォーホル自身は、ビリロの依頼によってもたらされた変化に完全に納得していたわけではなかった。彼とアシスタントたちは、1964年の再制作を「死んだ絵」と呼んでいた。(ウォーホルは、「マリリン」に加え、1961年に初めて注目を集めたキャンベル・スープ缶の絵を繰り返し描くよう報酬を受け取っていた)。しかし、ウォーホルの反復への動きは、芸術的にはある意味で理にかなっていた。大衆文化とその商品化について語るには、自分の芸術をその内部に潜り込ませるよりほかに方法はないのではないだろうか。1962年の作品を“ただ単に”繰り返すことで、焼き直しが、消費文化を勢いづけるような複製作品という価値を呼び起こしたのだ。

 初代「マリリン」では、シルクスクリーンを使うことにより、すでにそのヒントが示されていた。シルクスクリーンは、土産物のペナントを印刷するために完成された技術であった。ウォーホルは、これらの「マリリン」を複数のカラーウェイ(配色)で販売することで、大量生産されるテキスタイルの世界を想起させたのである。1964年の「マリリン」も複数の色調で展開されたが、ウォーホルの最初の「マリリン」にあった堕落の気配がなく、手づくりで心のこもった作品に仕上がっていた。完成度の高い新しいシルクスクリーンで刷られたウォーホルによる焼き直しは、大量生産品に必要な大衆に好まれるイメージの視覚的なインパクトと率直さを獲得している。革新的なファイン・アートとしては“死”の危険にさらされたとしても、マス・イメージとして新たな生命を得たのだ。先日のクリスティーズのオークションでは、強烈なスポットライトが『Shot Sage Blue Marilyn』をスクリーン上でグーグル検索した画像のように輝かせ、まるで純粋なシミュラクラ(似姿)として展示されたときにこそ、その真の姿を現すかのようだった。

画像: (左)アンディ・ウォーホル《Shot Sage Blue Marilyn》1964年 完璧なシルクスクリーンで表現され、クリスティーズで1億9500万ドルで落札された (右)アンディ・ウォーホル《Green Marilyn》1962年 ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NY. FROM LEFT: CHRISTIE'S IMAGES LTD.AND NATIONAL GALLERY OF ART, WASHINGTON.

(左)アンディ・ウォーホル《Shot Sage Blue Marilyn》1964年
完璧なシルクスクリーンで表現され、クリスティーズで1億9500万ドルで落札された
(右)アンディ・ウォーホル《Green Marilyn》1962年
ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC./ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NY. FROM LEFT: CHRISTIE'S IMAGES LTD.AND NATIONAL GALLERY OF ART, WASHINGTON.

 ウォーホルの他のどの作品よりも、セージ・ブルーの「マリリン」は常に世間の注目を浴びてきた。ロンドンのテート美術館は、1971年に初めてウォーホルの本格的な回顧展を開催した際、まさにこの作品を使った大量生産のポスターを制作した。テートのポスターは、何十年もの間、ミュージアムショップやポスター専門店で購入することができ、現在でもウェブ上でヴィンテージ版や複製品が販売されているほどである。

 そのおかげで、私はクリスティーズの「マリリン」について、おそらく地球上のどのウォーホル専門家よりも詳しく知ることができた。幼いころ両親がポスター版を飾っていた浴室で、少なくとも一日に一度はこの作品を鑑賞していたのだ。

 私たちは、ポスターや複製品について考えるとき、コピー元である先行のオリジナル作品を振り返って考える。クリスティーズが販売した1億9504万ドルの「マリリン」の“焼き直し”の場合は、それ自体の複製のことを考えさせる点で、真に評価されるべきものなのかもしれない。

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