BY MASANOBU MATSUMOTO
『民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある』|大阪中之島美術館
名も無き作り手たちが生み出す日用品にこそ「美」が宿る。柳宗悦がそのように民衆的工藝の美を説き、「民藝」という新語のもと民藝運動をはじめたのは1925年のことだ。それから約100年たった今、日本国内、そして欧米にも民藝愛好家は多い。
『民藝』展は、柳の民藝への視点を「衣・食・住」のテーマで紐解きながら、その後の民藝のひろがりと今、そしてこれからを展望する企画展だ。みどころのひとつは、柳が1941年、東京の日本民藝館で開催した『生活展』の再現展示。この『生活展』では、民藝品を生活空間に近いかたちで置いてみせるモデルルームのような方法がとられ、当時において画期的なプレゼンテーションでもあった。民藝の現在としては、小鹿田焼(大分)、丹波布(兵庫)、鳥越竹細工(岩手)、八尾和紙(富山)、倉敷ガラス(岡山)の5つの産地をフォーカスし、そこで受け継がれている手仕事を紹介。また、現在の民藝ブームの火付け役である、MOGI Folk Art ディレクターのテリー・エリスと北村恵子も本展に参加し、ふたりの愛蔵品や世界各地で見つけたフォークアートを今のライフスタイルに融合した、独自の民藝スタイルをインスタレーション形式で提案する。
『民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある』
@大阪中之島美術館
7月8日(土)から9月18日(月・祝)まで。
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『フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン』|東京都庭園美術館
北欧のデザイン大国、フィンランド。家具やテキスタイル、飲食器など日本でもよく知られているプロダクトは多々あるが、本展では、そのなかでも、実はフィンランドの近現代デザイン史における重要なジャンルのひとつ「アートグラス」に焦点をあてる。
フィンランドのモダンデザインが花開いたのは、1917年ロシアからの独立後。ナショナリズムが高まるなか、新たな国づくりと国民のアイデンティティを取り戻すため、ものづくりの面でもモダニズムが推進されたのだった。特に30年代には芸術性の高いアートグラスがつくられ、国際的な見本市などで高く評価。また、第二次世界大戦後も、若いデザイナーたちによるアートグラスが、国家復興の一翼を担った。
本展では、その30年代の台頭期から50年 代に始まる黄金期、そして今に至るまでの約140作品を紹介しながら、フィンランドのグラスアートの系譜を辿る。出展作家は、アルヴァ&アイノ・アアルト、カイ・フランクなど。魚やきのこなど、フィンランドらしい自然に着想を得たモチーフの作品も愛らしく、また、なによりグラスの涼しげな表情がこの季節に心地よい。
『フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン』
@東京都庭園美術館
開催中。9月3日(日)まで。
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『ダラ バーンバウム』 | プラダ 青山店
メディアアート、特にビデオインスタレーションの先駆者として知られるダラ・バーンバウム。プラダ 青山店では、彼女の個展が開催中だ。
ダラがビデオアートをはじめた70年代は、テレビの影響力が強かった時代。「テレビこそが、当時70年代半ばのアメリカの言語だとはっきり感じていました」と本人が語っているように、彼女は、マスメディアとそれに触れて生きる現代人のありようーーたとえば、テレビの出演者の身振りや表情や『刑事コジャック』『ワンダーウーマン』などに見え隠れする“アメリカ的なもの(あるいは、アメリカン・ドリームの光と暗部)”などを分析しながら創作を展開していった。
本展に展示されている 《KISS THE GIRLS: MAKE THEM CRY》は、かつて人気だったアメリカの長寿番組『ハリウッド・スクエアーズ』から、マイナーな女優たちの芝居臭い身振りや表情をピックアップした作品だ。マルチスクリーンによる映像作品《ARABESQUE》は、ロマン派の作曲家夫婦、ロベルト・シューマンとクララ・シューマンの互いに結びついた創作人生が主題である。作品では、シューマン夫婦を描いた映画『愛の調べ』のワンシーンとともに、ふたりの楽曲(シューマンがクララに捧げた曲「アラベスク ハ長調 OP.18」と、クララがシューマンに捧げた「3つのロマンス 第1曲 OP.11」)を交互に流している(「アラベスク ハ長調 OP.18」はYouTubeにアップされた映像をサンプリングしているが、この作品の制作当時、妻クララが作曲した「3つのロマンス 第1曲 OP.11」は、ほとんどその投稿がなかったようで、女性の作家が除外されやすい仕組み、YouTubeなどのメディアの投稿数が優れた芸術性の希薄化につながっていることも、本作は暗示する)。
『ダラ バーンバウム』
@プラダ 青山店
開催中。8月28日(月)まで。
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