J.クルーのクリエイティブ・ディレクター時代、誰にでもマネできるファッションスタイルを提案したジェナ・ライオンズ。彼女が新たに作ったのは、独自の美学を貫いた誰にもマネできない部屋だ

BY MAGGIE BULLOCK, PHOTOGRAPHS BY SIMON WATSON, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 彼女がかつて住んでいたパーク・スロープの家のあらゆるニュアンスを憶えているインテリアマニアには、この部屋のさらなる豊かさがわかるだろう。ここにいると、ライオンズは真の到達感とともに“触覚的贅沢さ”に身を委ねることができる。ミルキー・グレーの壁は居心地のいい柔らかさを醸し出し、足元には、淡いオーク材で作られたヘリンボーン模様の寄木張りの床が張られている(ちなみに、いろいろ考えた末、使い古すほどに艶が出るよう、あえてこの床に加工は加えないことにした)。

そして 「完全に色あせた柿色」と彼女が呼ぶピンク色の巨大なソファと、それに対比するような緑青の銅のサイドテーブル。これらはすべて、色と質感に関するライオンズの特異的な才能によるものだ。と同時に、彼女が厳しくて正確な目を持っていることを物語る。その目は、長年にわたって数十店舗ものオープニングを指揮し、空間作りは最も中心的な要素のみを目立たせるべきだという理解を深めていく中で養われたものだ。

画像: ベッドルームにはカスタムメイドのシャンデリアが下がり、カンディダ・ヘーファーの写真がセーブルに覆われたベッドの上に掛けられている

ベッドルームにはカスタムメイドのシャンデリアが下がり、カンディダ・ヘーファーの写真がセーブルに覆われたベッドの上に掛けられている

 このように、彼女のアパートのデザインは、いくつかの重要な要素を中心に考えられている。たとえば、特注した真鍮のカウンターは、キッチンの中でいちばん目立つ構造物を引き立たせる役目を果たしている。その構造物とは、曲線的な調理台だ。もとはカリフォルニアの裁判所の装飾として使われていた、磨き上げられた3インチ厚の大理石を天面に取りつけてある。この大理石は、ウェスト・ハリウッドのギャラリー・ハーフでテーブルの天板として使われているのをライオンズが見つけたものだ。その後、巨大なシラカバの木でできた厚い板を入念に接合して調理台に作り上げた。

調理台の上には、ムラーノ・グラスでできた多面体が何百も施されたミッドセンチュリーのベニーニの照明器具が吊るされている。ライオンズは、ニューヨークを拠点とするデザインスタジオのマイヤー・デービス社の共同設立者であるデザイナーのグレー・デービスとも友人だ。グレーと一緒にいくつものインテリアデザインのパターンを想定したが、この照明器具は必ずとり入れなくてはいけないものだったという。

画像: ライオンズのバスルームには、ブレッチャ・カプライアという大理石を貼ったバスタブと、ジュエリーデザイナー、フィリップ・クランジがデザイン・製作した青銅の脚がついた化粧台が置かれている。什器はバーバー・ウィルソンズ社のもの

ライオンズのバスルームには、ブレッチャ・カプライアという大理石を貼ったバスタブと、ジュエリーデザイナー、フィリップ・クランジがデザイン・製作した青銅の脚がついた化粧台が置かれている。什器はバーバー・ウィルソンズ社のもの

 アパートの奥の方にあるライオンズのプライベートな部屋の内装は、とりわけ妥協なく整えられている。オーク材のパネルが張られた壁からアンティークのクリスタル・シャンデリア、そしてカラメル色のセーブルの毛皮でゆったりと包まれたベッドまで、贅沢でありながらリラックス感にあふれている。なかでも彼女がもっとも自慢に思うディテールは、隣接したバスルームの化粧台を支える青銅のテーブル脚だ。フィリック・クランジがデザインしたその脚は、中世の剣の柄のようにバロック様式のディテールが施されている。

この脚は、彼が手で描いた実物大のデザイン画から直接、造形されたものだ。ライオンズはその原画を丁寧に広げて見せてくれた。「それぞれの個別の部品は、金属から3Dプリントで作られたものなの」と彼女は言う。「一度組み立ててから、古く見せるために私たちはこれに塩水をスプレーしたの。金色が強すぎていたから」。それらの脚はじつに美しい。しかも、その美しさの大部分が誰もマネのできないものだ。

「他人にマネされることは喜ばしいことだわ」と彼女は言う。ただ同時に、「だから同じことを繰り返したくないとも強く思うの」。プロとしての長いキャリアを通して人々にマネされ続けてきた身にとっては、これらすべてが完全に彼女のものであるという確信こそが、何より大事なことなのかもしれない。どちらにせよライオンズは、その脚についてはさらに改良を加える方法を思いつかなかった。彼女は見せてくれていたデザイン画を丁寧に巻き上げて、大切そうに元の位置に戻した。こればかりは誰にも複製させないというかのように。

 

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