TEXT & PHOTOGRAPHS BY HIROYA ISHIKAWA
青木淳氏による「旧JIN CO.,LTD.」(現JINS Inc.)をはじめ、藤本壮介氏が手がけた「白井屋ホテル」、情熱大陸への出演も記憶に新しい永山祐子氏の「JINS PARK前橋」、さらには谷尻誠氏・吉田愛氏のSUPPOSE DESIGN OFFICEによる商業施設(2023年末竣工予定)など、日本を代表する建築家たちによってランドマーク的な建物が次々と誕生しているのが、群馬県前橋市だ。
そんな前橋に5月7日、新たなランドマークとなる「まえばしガレリア」がオープンした。市内9つの商店街の中心であり、周辺には飲み屋が立ち並ぶ銀座通り二丁目商店街にその建物はある。
「まえばしガレリア」を手がけたのは、前橋にある「まちの開発舎」だ。コンセプトは「発見のある暮らし、創造が生まれる場所、前橋ラバーズが集う拠点。」で、アートとデザインによる地域活性化が進むこの街の、新たなアートスポットとして期待されている。
「白井屋ホテルさんを始め、今、前橋ではたくさんの想像力をめぶかせるような場所ができているので、これらをネットワークして街の活性化に大きく貢献していきたいと思っております」そう抱負を語るのは「まちの開発舎」代表の橋本薫氏。
「まえばしガレリア」は、1Fに2つのギャラリーとフレンチレストラン、2Fから4Fに分譲レジデンスを有する複合施設だ。
建物の設計を担当したのは建築家の平田晃久氏初めて。「初めてお話をいただいたのが5年前。そのその時に白井屋ホテルをはじめ、街中の活性化を牽引していて、このプロジェクトの構想にも深く関わっている田中仁さんから ”広場を作りたいんです” と言われました。ここが街にとって大事な場所になるってことは、みなさんわかっていたんですが、ただ、なにを作るかまでは決まっていなかった。そこで我々もいろいろな案を提示しながら、地域とからめてどう作るかを考え、ゆっくりと設計を進めてきました。5年の歳月はかかりましたが、目的意識をみなさんで共有しながら作っていくのはおもしろい試みだったと思います」
建物のデザインについて、平田氏がイメージしたのは一本の樹木だ。「上部には住戸を少しずつズラしながらリング状に並べ、それが樹冠のように浮かんで見えるデザインに仕上げました。その下には人が集まれるスペースを設け、ここが広場としての役割を果たします。建物の外側に植物が這うように作ってあるので、時間の経過とともに上部が緑で覆われてくると、樹木という建物のコンセプトが際立ってくるはずです」
レジデンスは専有面積がおよそ30㎡から85㎡までの全26戸。すべてに室内と同等の面積を有する大きなテラスがついている。間取りはさまざまで、いずれも住人の個性が際立ちそうな雰囲気だ。「街の中に大きなリング状の塊が浮いていますが、ズラして配置したひとつひとつの住戸が周辺のスケール感と合うことで、街との調和を取っています」とは平田氏。
1Fには2つのギャラリースペースが誕生。ギャラリー1に入居するのはタカ・イシイギャラリーだ。「国内外にある弊社の6つのギャラリーのうち、この”タカ・イシイギャラリー 前橋”が最も大きなギャラリーになります」とは、代表の石井孝之氏。こけら落としとなる初めての展覧会はその広さを活かしたもので、ディノス・チャップマンの「ƎVƎI⅃Ǝ」展に加えて、ケリス・ウィン・エヴァンスの 「Mantra」も展示。今後も前橋でしか観られない内容に期待が高まる。
ギャラリー2は小山登美夫ギャラリー、rin art association、Art Office Shiobara、MAKI Galleryが共同で運営していく。年に5回の展覧会を開催予定で、そのうち1回は4ギャラリーが共同で、残りの4回は各ギャラリーが順番に展示を行う。
市内の赤城山出身で、長年にわたりアートアドバイザーとして活躍してきたArt Office Shiobaraの塩原将志氏は、自身の名前でギャラリーを運営するのは今回が初めて。「かつてここには映画館があって、赤城の山からワクワクしながら出てきていた場所なんです。その時、自分が感じたワクワク感をアートで提供できる側になれればいいですね。みなさんと一緒に楽しませていただきます」と塩原氏。
地元の作家の作品が観られるのも特徴のひとつ。高崎市が拠点のrin art association代表の原田崇人氏はこう話す。「グループ展では各ギャラリーの特性をうまく組み合わせつつ、ひとつのギャラリーではできないような、より複合的で展開のバリエーションがあるものを見せられると考えています。海外の作家はほかのギャラリーにおまかせして、うちはより地域に密着した展示を構成していくのがここでの役割だと思います」
大型作品を展示したいと話すのはMAKI Gallery代表の牧正大氏。「うちは東京に天井高が6mある200坪ほどの大空間を持っていて、大きな作品やインスタレーションを表現できるアーティストが多く所属しています。前橋でもできる限り体で感じられるような大型の作品を展示することで個性を出して、アクセントとしての役割を果たせたらいいですね」
小山登美夫ギャラリー代表の小山登美夫氏は「うちでは淡々とアーティストを紹介していきたい。アートはどこでも一緒だと思うので、前橋を意識せず、自分たちのプログラムをやっていけたらと思います」と話す。同時にアートによる街全体の活性化にも期待する。「アーツ前橋も動き始めるじゃないですか。南條(史生)さんが特別顧問になって、出原(均)さんが館長に就任して。前橋文学館も(萩原)朔美さんがいろいろなことをされてます。このギャラリーも含めて市内のさまざまな取り組みが総合的になってくると、大都市や大きな組織でなくてもおもしろいことができそうです」
1Fにはフレンチレストラン「セパージュ」も入居する。「群馬県の食文化、食材を取り入れつつ、日本全国から集めた良質な食材をフランス料理の技術でシンプルに調理して提供いたします。七輪やお鍋を使ってお客様の目の前で仕上げるなどライブ感も楽しんでいただけるレストランです」とはシェフの石橋和樹氏。料理は3万円(税サ別)のコースとなり、別にワインのペアリングも用意されている。6月1日にオープン予定だ。
「まえばしガレリア」のアートディレクションはアフォーダンス代表の平野篤史氏、コンセプトはJTQ代表の谷川じゅんじ氏が担当。前橋市の中心で、周囲の環境に溶け込みながら新たな空気をめぶかせ、街並みや雰囲気を少しずつ変えていきそうなパワーを感じる施設となっている。今後の前橋がますます楽しみだ。
まえばしガレリア
住所:群馬県前橋市千代田町5-9-1
公式サイトはこちら
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