リュート奏者、トーマス・ダンフォードとチェンバロ奏者、ジャン・ロンドーのふたりのデュオが創りあげた、ニューアルバム『Barricades』について話を聞いた

BY ZACHARY WOOLFE, PHOTOGRAPHS BY YUDI ELA for THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY SAYAKO SAKAMOTO

 リュートとチェンバロ、このふたつの楽器のために創られた楽曲というものは存在しない。しかし、ジャン・ロンドー氏とトーマス・ダンフォード氏、このふたりが初めて一緒に演奏をしたその瞬間から自然と一体化し、たがいにやさしく、溢れんばかりの音を紡ぎだしていた。

画像1: 暑く、気だるい夏におすすめ。
フレンチバロック音楽の優美な
デュオによる、渾身のアルバム

 ロンドー氏のチェンバロとダンフォード氏のリュートの音色は、あたかもひとつの楽器から発する異なる色彩が、きらめき混ざりあうかのようだ。「演奏するときに、ひとりの人間が演奏しているかのようになれる相手や居場所に出逢うことは、めったにないよ」。先日、彼らがフランスのそれぞれの自宅から、Zoomでのインタビューに参加したとき、ダンフォード氏(32歳)はロンドー氏(29歳)についてそう語った。

 彼らが初めてコラボレーションし、レコーディングしたアルバムは、フランスのレコードレーベル「エラート」(ワーナー・ミュージック・グループ)からリリースされた。『Barricades』は、アントワーヌ・フォルクレやロベール・ド・ヴィゼーもありながら、クープラン、シャルパンティエ、ラモーやマラン・マレなどの有名な作曲家によるフレンチバロック音楽の選りすぐりのコレクションだ。

 夢のような旋律の繰り返しや、まばゆい変化に満ち、キビキビと正確で、踊るように。またときには、緩やかに自由に―― みごとなコンビネーションで演奏されている。暑く、気だるい夏の日にぴったりのアルバムだ。フォルクレのヴィオールのための楽曲『ジュピター』のデュオバージョンのように、指使いはかすむようでありながらも、派手に明快な弾ける音で、じっとりした空気を切りさいてくれるような楽曲もある。

「私たちは演奏に演奏を重ね、可能な限り最高のテイクを録ろうとしました」。その曲について、ダンフォード氏はそう語る。「僕たちはこの曲を6時間演奏していましたが、まるでロックを演奏しているかのようにとてもエネルギッシュでした」。「指が溶けていきそうだったよ」とジャンは言った。そして、私は、「それは、あなたたちだからできたんですね」と言い、私たちは話を続けた。

画像: Jean Rondeau & Thomas Dunford record "Jupiter" by Antoine Forqueray youtu.be

Jean Rondeau & Thomas Dunford record "Jupiter" by Antoine Forqueray

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 ランドー氏は、バッハ、スカルラッティやラモーの作品などの素晴らしいレコーディングに携わってきたことに加えて、ジャズを演奏していたり、時には薄汚れた服装をしていることで知られている。しかし、彼は、逆立てた髪型や無精ひげという風貌ゆえに、クラシック界において長い間、とても独特な存在だった。しかし今年の4月、彼がブルターニュの海を見下ろす自宅でZoomインタビューに応じたとき、私は真っ先に感激してしまった―― 彼は、前日、約3年ぶりにひげを剃っていたのだ。
「とても似合っているよ」。パリ郊外にいるダンフォード氏が言った。「ほんとにマジでさ」
 ここに、その後に続いた会話から抜粋、編集した内容を掲載する。

―― おふたりの出会いのきっかけは?

THOMAS DUNFORD:僕たちは、「レ・ザンバサドール」の楽団と室内楽を演奏していたんだ。そこでのリハーサルのために、彼と一緒にチェンバロを自分のアパートに運ばなければならなかったことを憶えている。それですぐに打ち解けたんだ。それって、たしか7年前だったけ? 僕たちは一緒に即興で演奏していたんだ。通奏低音(バロック音楽のアンサンブルにおける伴奏の形態の一つ)を演奏しているとき、ジャズやロックみたいでしょ? 何もないところから何かを創りあげていたんだ。でも僕たちはいつも、最後には同じもの、同じ瞬間を創っていたんだ。それはまるで、ここに兄弟ができたかのように。僕は、チェンバロが少し堅苦しくて、つまらないことには慣れているけど、僕たちがデュエットをする前、初めてジャンのチェンバロを聞いた時に、彼はバッハを演奏していて、それがとても自由だった。僕は友人に電話してこう言ったんだ、「彼は歌うように演奏するんだ」と。

画像: リュート奏者、THOMAS DUNFORD(トーマス・ダンフォード)

リュート奏者、THOMAS DUNFORD(トーマス・ダンフォード)

JEAN RONDEAU:僕は、僕たちがふたりだけで最初に演奏したコンサートを憶えているよ。リハーサルを始めて、なにも言わずにまったく同じ動きと音の強弱を実現し、音楽に吸い込まれていったんだ。僕たちは、まさに共通する何かを持っていたんだ。とても正確な音楽家なんて、ほとんどいない―― 僕たちは、共通言語で会話しているから、リハーサルで、どんな風に演奏すべきかを説明しようとするための言葉は必要ないんだ―― ただ音楽を奏でるだけだよ。

DUNFORD:もっと重要なのは、個性と哲学だね。僕たちは、とても早く、核心にたどり着くことができる。それ以来の僕たちは、多くの冒険続きだね。

RONDEAU:トーマスの演奏で本当に感謝しているのは、彼が聴けるということです。最高の音楽家の資質とは、本当に聴き込むことができるかであり、僕たちは、すぐそのことに注目しました。リュートはダイナミックレンジが広く、チェンバロの音色の範囲はそれに比べると狭い。そして、トーマスは、まさにチェンバロの音の中に入り込んでいくことができるんだ。

画像: Jean Rondeau & Thomas Dunford record "Les Baricades Mïstérieuses" by François Couperin youtu.be

Jean Rondeau & Thomas Dunford record "Les Baricades Mïstérieuses" by François Couperin

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―― ニューアルバム『Barricades』はどのように創りあげたのでしょうか。

RONDEAU:まず、幼い頃から二人ともバロック音楽を演奏してきたので、人とのつながりや、共通の文化的背景を持っていたんだ。僕たちは、バロック音楽に対して同じように深い愛情を抱いている。リュートとチェンバロのために書かれた楽曲はないけれど、僕たちは、それを創ることを決めたんだ。

DUNFORD:それで僕たちは、リュートとチェンバロをデュオで演奏できるような曲を準備する必要があった。僕はロベール・ド・ヴィゼーによる組曲を思いついた。それはリュートのための楽曲だけど、ヴィセーはトップパートとバスパート用に書き直しをしていたので、適応させるのは簡単だったよ。チェンバロのためのクープランの楽曲は、もともとそうであるままにしようと、音楽のバランスをくずさないよう、スマートにポイントをつかむ方法を見つける必要があったんだ。

RONDEAU:このレパートリーは、演奏スタイルの観点から言えば、非常にユニークだよ。フレンチバロック音楽は独特だし、高貴な音楽。言い換えるならば、ルイ14世が、概して芸術やダンスのために愛したもの。彼はとても美しい踊り手だった。そして、ヴェルサイユ宮殿には、多くの音楽家たちがいて、作曲家たちは自身の音楽を介して、多くの功績を遺した。僕たちが、このプロジェクトを通してやりたかったことは、その精神を再現することだったんだ。それは、ヴェルサイユにおける社会的な精神性ではなく、音楽家としてのスピリット、創造性だよ。

画像: チェンバロ奏者、JEAN RONDEAU(ジャン・ロンドー)

チェンバロ奏者、JEAN RONDEAU(ジャン・ロンドー)

DUNFORD:ヴェルサイユでのルリーによるオーケストラを思い浮かべると、そこには、マレやロベール・ド・ヴィゼー、クープランがいた。彼らは共に演奏をし、それは驚くべきものだったに違いない。クープランとヴィセーは、お互いの音楽を聴いたことがあるはず。彼らは、それを書き留める必要すらなかった。ただ、お互いに何を演奏しているのかを聞いただけ。書き留めたり、非常に学術的であろうとするよりも、彼らは調和し、その瞬間に音楽を創ろうとしていたんだ。

RONDEAU:過去に遡れば、遡るほど、音楽は正確に記述されていない。17世紀末から18世紀初頭では、まだすべてが正確に記述されてはいなかった。でも、今よりももっと、多くの仕様があったんだ。その中間だろうか。私たちは音楽のなかに自由を取り入れることができるけど、正確だ。クープランの楽曲で言えば、すべての楽譜に意味がある。すべての音符はあるべきところにおかれているものの、それはまさにバランスと即興の問題なんだ。

―― レコーディングをしてみてどうでしたか?

RONDEAU:マイクを通すと、予期していなかったものが音として表れます。それは目指しているレベルを押し上げ続ける。認めたくない事を考えさせられるんだ。

DUNFORD:まず、マイクがあるので、いい仕事をしなければと少し意識してしまう。そして、とにかく演奏をし続けて、何も考えていない時―― 真夜中、突然だったりに―― ここだ! というところにたどり着いて「じゃ、もういっかい演奏しよう」となるんだ。

※ ZACHARY WOOLFE氏は、2015年からクラシック音楽の編集者をしている。彼は以前、『ニューヨーク・オブザーバー』のオペラ評論家だった

※ この記事は、2020年6月10日発行の本紙『The New York Times』に掲載したものです。“Section C, Page 3 of the New York edition with the headline: Band of French Baroque Brothers.”より

 

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