叫んだり、指を掲げて主張する少女たちが、いかにして私たちの良心、そして現代の活動家のアイコンとなり得たのか

BY LIGAYA MISHAN, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 1926年のハロウィンの日、農民の娘でオクラホマ生まれの14歳のオーダイン・メイベル・アトリーは、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで、1万4,000人の大観衆の前に立っていた。「罪を悔い改めよ」と彼女は叫んだ。アトリーは11歳のときから、キリストの教義を広めるべく大勢の人々に説教をしていた。きゃしゃな身体を白い服に包んだ彼女は、髪型はボブであったにもかかわらず、純潔のイメージそのものだった。1920年代当時、短いボブの髪型は、フラッパーと呼ばれる性的にも社会的にも自由奔放な生き方をする女性たちの代名詞的なスタイルで、スキャンダラスな印象が強かった。だがアトリーの場合、この髪型のおかげで、ことさら女性という性別を強調せずにすみ、まだ大人の女性にはなっていないことを十分示すことができたのだ。法律と伝統によって、女性たちの人生の選択が厳しく制限されていた当時の西洋社会において、彼女は単に子どもだっただけでなく、きゃしゃな体格の少女だった。少年や男性に与えられていたような影響力は、彼女には微塵も与えられていなかった。そして権力を何も手にしていなかったからこそ、逆に、彼女はカリスマ的存在になり得たのだ。

 アトリーは、同じく10代の農民の娘で、彼女より5世紀前に、フランス軍を指揮せよという天啓を与えられたジャンヌ・ダルクと同様、私利私欲が一切ないことで多くの支持者を得ていた。「私は荒野で叫んでいる小さな名もなき声にすぎない」とアトリーは語った。そのメッセージはイザヤ書とヨハネによる福音書から引用したものだ。のちに、成人女性となったアトリーは、昔のような熱狂的な反応を観客から受けることは、もう二度となかった。成熟した女性となった彼女は、女性性を特に強調していないのに、観衆にとっては不完全な存在になってしまった。彼女のメッセージの神髄である、個人の欲望が一切含まれていない純粋さも、失われてしまったように見えた。

画像: マンマ・アンダーソン作『昔の友人たち』(1996年) MAMMA ANDERSSON, “KOMPISAR FRAN FORR (FRIENDS FROM THE PAST),” 1996 © MAMMA ANDERSSON/ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NEW YORK/BILDUPPHOVSRATT, SWEDEN, COURTESY OF THE ARTIST AND DAVID ZWIRNER

マンマ・アンダーソン作『昔の友人たち』(1996年)
MAMMA ANDERSSON, “KOMPISAR FRAN FORR (FRIENDS FROM THE PAST),” 1996 © MAMMA ANDERSSON/ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NEW YORK/BILDUPPHOVSRATT, SWEDEN, COURTESY OF THE ARTIST AND DAVID ZWIRNER

 現代でも、毅然とした態度で話す女性たちは「怒っている」とか「けたたましい」というレッテルを貼られやすい(または「性悪」とも。これはドナルド・トランプが2016年の大統領選のディベートで、ヒラリー・クリントンを侮辱した忘れがたい言葉だ。彼は最近この同じ言葉をカマラ・ハリスに対しても使った)。ボストンを拠点とする投資会社、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは、2017年の国際女性デーを祝うのに、大人の女性ではなく、子どもの記念碑のブロンズ像を発注した。これが有名な「恐れ知らずの少女」の像で、作者は米国の芸術家のクリステン・ヴィスバルだ。この少女の像は最初、マンハッタンのダウンタウンのウォール街近くにある「チャージング・ブル(荒ぶる雄牛)」像の真向かいに設置された。この「雄牛」はイタリア人の芸術家、アルトゥロ・ディ・モディカが1989年に作ったものだ。高さ121cmしかないきゃしゃな少女像が、この3.5トンの重さの獰猛な動物を毅然と見据える形で配置された。一見、力強さとか弱さを同時に表現しているかのようなこの構図は、結果として、大人の女性らしさイコール弱さなのだと再認識させられる象徴的な存在となった。

 だが女性が毅然とした態度をとることがいまだ疑問視されるなか、かつてないほど、私たちは、世界が間違ったことをしているときに批判し、糾弾し、責任をとれと主張する少女たちから目が離せなくなっている。そして一方、少女たちはそんな世間からの注目を、より大きな変革のための原動力として使う方法を体得しつつある。2020年6月以降、ニューヨーク州のユニオンデールに住む7歳のウィンタ=アモール・ロジャースの動画が何百万回も視聴されている。彼女はジョージ・フロイドが警察官に殺された事件に反対するデモ行進に参加し、「正義なくして平和なし」と声を上げ、指を立てて力強く振っていた。彼女の驚く程の落ち着きと強固な意志は神童を思わせる。それだけでなく、彼女の態度には、少女とは繊細で弱々しい存在だという、いまだになくならない偏見を断固として粉砕するパワーがあるのだ。

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