歌舞伎ワールドへようこそ。劇場の扉、時空の扉、そして心の扉を開いて、絢爛たる異世界へと誘う連載。第十五回は、新しい生活様式の中で歌舞伎を未来へつなげる、市川猿之助さんの挑戦

BY MARI SHIMIZU, PHOTOGRAPHS BY KEIKO HARADA

 ドラマ『半沢直樹』の伊佐山部長役で見せた怪演、クイズやバラエティ番組における博識かつ当意即妙な受け答え、2020年は市川猿之助という歌舞伎俳優の存在がより幅広い層に浸透した年だった。その猿之助さんが舞台と映像で蓄積したキャリアを生かして完成させたのが、オンライン配信による図夢(ズーム)歌舞伎『弥次喜多』だ。

画像: 市川猿之助(ICHIKAWA ENNOSUKE) 父は四代目市川段四郎。伯父には三代目市川猿之助。慶應義塾大学文学部国文学科卒業。1980年7月歌舞伎座『義経千本桜』の安徳帝役で初御目見得。1983年7月歌舞伎座『御目見得太功記』で、二代目市川亀治郎を名乗り初舞台。2012年6・7月新橋演舞場「二代目猿翁 四代目猿之助 九代目中車 襲名披露公演」において、四代目市川猿之助を襲名。古典から新作歌舞伎まで、また立役から女方まで幅広く活躍し、多くの熱狂的なファンを持つ。2020年に出演したテレビドラマ『半沢直樹』は社会現象となり、映像作品やバラエティでも圧倒的な存在感を示している © SHOCHIKU

市川猿之助(ICHIKAWA ENNOSUKE)
父は四代目市川段四郎。伯父には三代目市川猿之助。慶應義塾大学文学部国文学科卒業。1980年7月歌舞伎座『義経千本桜』の安徳帝役で初御目見得。1983年7月歌舞伎座『御目見得太功記』で、二代目市川亀治郎を名乗り初舞台。2012年6・7月新橋演舞場「二代目猿翁 四代目猿之助 九代目中車 襲名披露公演」において、四代目市川猿之助を襲名。古典から新作歌舞伎まで、また立役から女方まで幅広く活躍し、多くの熱狂的なファンを持つ。2020年に出演したテレビドラマ『半沢直樹』は社会現象となり、映像作品やバラエティでも圧倒的な存在感を示している
© SHOCHIKU

「コロナ禍においてさまざまなライブがそうであったように、歌舞伎は3月から7月まで公演ができませんでした。舞台に立つことが当たり前だった日常はおろか、日々の生活すらも一変してしまった。そんななかで(松本)幸四郎さんが立ち上げたのが図夢歌舞伎です」
 6月から7月にかけて図夢歌舞伎として5回にわたって生配信されたのは、幸四郎さんが主要キャスト6役を演じ分けた『忠臣蔵』だ。猿之助さんは第3回と第5回に出演し、演出面でも協力した。
「感染拡大防止策としての自粛とネット社会の発達が奇しくも観劇の選択肢を広げました。江戸から明治になって、散切物や活歴などそれまでとはスタイルの異なった新たな歌舞伎が誕生したように、令和に図夢歌舞伎が生まれたということです」

画像: 図夢歌舞伎『弥次喜多』。市川猿之助(左)、松本幸四郎(右) © SHOCHIKU

図夢歌舞伎『弥次喜多』。市川猿之助(左)、松本幸四郎(右)
© SHOCHIKU

 その第2作となるのが、猿之助さんが監督・脚本・演出を手がける『弥次喜多』である。弥次さん、喜多さんが旅先で巻き起こす騒動を描いた「東海道中膝栗毛」(十返舎一九作)は江戸時代の大ベストセラー。歌舞伎でもたびたび題材として取り上げられ、幸四郎さんと猿之助さんのコンビで初上演されたのは2016年8月、歌舞伎座でのことだった。斬新なアイディアを取り入れた抱腹絶倒の舞台は評判を呼び、チケットは瞬く間に完売。人気シリーズとなり昨年まで4年連続で上演された。

「今回の原作は前川知大さん作・演出の舞台『狭き門より入れ』(2009年PARCO劇場)です。自分にとって初めて出演した現代劇で、まるで今を予言しているかのような正体不明のウィルスによるパンデミックを扱った内容でした。主人公は会社に忠誠を尽くしたがゆえに周囲と軋轢が生じ、精神的に追い詰められたサラリーマン。図夢歌舞伎で『弥次喜多』をやることが決まり、企画を考えていた時にその主人公と幸四郎さん演じる弥次さんとがパッと重なったんです」

画像1: 「歌舞伎への扉」Vol.15
『弥次喜多』×パンデミック。
市川猿之助が仕掛ける
令和の歌舞伎とは

「『狭き門より入れ』で描かれていることは、設定を江戸に置き換えキャラクターを多少入れ替えても少しも揺らぐことはない。それだけ懐の深い、換骨奪胎できる物語なんです。そしていい意味で大雑把な江戸戯作文学の自由さと、お馴染みのメンバーがこれまで共に積み上げてきたもののおかげで、作品として成立させることができました」

 マヤ歴の”2012年人類滅亡説”に着想を得て書かれたというSF仕立てのストーリーは、江戸とこの世ならざる世界とが錯綜しながら進行していく。
「哲学的な命題にまで直面する主人公は、弥次さんのキャラクターとは程遠い存在のように思えます。でも、だからこそ面白い。自分本位に好き勝手生きてきた人間が、それまで考えたこともなかった現実をどう受け止めていくのか。そしてそれを客観的に見つめる人が何を思うのか。背筋がブルっと震えるような結末を用意しています」 

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