「メタバースを待ちわびて」 第3回は、都市の3Dモデルをオープンデータ化するプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を主導する、パノラマティクスの齋藤精一にインタビュー。太陽光発電効率や災害対策など、さまざまなシミュレーションが既に始まっている

BY TOMONARI COTANI, EDITED BY JUN ISHIDA

PLATEAUが進化させる、未来の都市の作り方ーー齋藤精一(パノラマティクス主宰)

 建築、アート、テクノロジーをないまぜにすることで、街と人、人と人の間に新たな関係性を紡ぎ出すことを得意とする齋藤精一。その慧眼に救われ、鼓舞されている人が官民問わず少なからずいることは、ここ数年の齋藤の活動歴──たとえばグッドデザイン賞審査委員副委員長(2018~2022年)、ドバイ万博日本館クリエイティブ・アドバイザー(2020年)──を少し眺めただけでもうかがい知れる。そんな齋藤は、一般的にメタバースというと想起される3次元的、ヘッドマウントディスプレイ的な話はインターフェイス論にすぎないと語る。

「これからメタバースがどう使われていくのかを見据えるならば、もっとWeb3的なもの、具体的にはNFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)といった非中央集権的な要素を担っていくテクノロジー構造として捉えるべきだと思います」

 メタバースが現実味を帯びた今、欠けてはならないのが、「開発者や開発企業」だけではなく「いろいろな人たち」の手によってアップデートしていくコンポーザビリティという発想だ。「たとえばビル・ゲイツは、『プラットフォームとは、それを利用するすべての人の経済的価値が、プラットフォームを作った会社の価値を上回ったときに成立するものだ』と語っていますが、まさに、コンポーザビリティを肯定的に捉えた指摘だと思います」

 さらに、メタバースはベンダーロックをかけるべきではないと齋藤は主張する。課題を発見し、何とかしようとするコンピテンシーを持つ「いろいろな人たち」が生み出す好循環を、断ち切ってしまうことになるからだ。このコンポーザビリティとコンピテンシーの視点がしっかりと組み込まれたかたちで進んでいるのが、3D都市モデルの整備とオープンデータ化を推進するプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」だ。国土交通省主導による同プロジェクトには、2022年10月現在、大都市圏をはじめ約120の地方自治体が参加し、さまざまなユースケースを生み出し始めている。

 PLATEAUの誕生は2017年、経済産業省とライゾマティクス・アーキテクチャー(現・パノラマティクス)のコンビによる「3DCity Experience Lab.」(3dcel.)に起因する。「3D記述された都市のデジタルデータ」を使ったサービスの検証を掲げた同プロジェクトにおいて齋藤は、地図データは行政が押さえるべきIP(知的財産)であり、GoogleやAppleをはじめとする民間企業に牛耳られる前にその準備を進めなければならないことを強調した。国内外問わず、インフラである地図データが民間企業のものになってしまうと、恣意的要因(たとえば従量課金制に切り替わるなど)で突然、自由に活用できないIPになる可能性があるからだ。

 この3dcel.での議論や実験を経て、2021年夏にPLATEAUはローンチを果たす。PLATEAUのデータは、各自治体が法律に基づき5年に一度作成している「都市計画基本図」がもとになっている。これは航空測量による2Dデータだが、それをフォトグラメトリー──被写体を3つの角度から見れば3次元になる原理を使って画像を解析・統合するプロセスを経て3DCGを作成する技術──によって3次元の都市データを生成している。いわば遊休資産が有効活用されているのである。

 それに加えPLATEAUは、データの中に「それぞれの構造物の属性情報」が組み込まれていることも特徴だ。たとえばGoogleアースは「都市空間のかたちだけ」を再現したデータフォーマットであり、地形と建物のデータ上の区別は基本的にない。一方PLATEAUのデータは、ビルの外壁や屋上といったそれぞれの面が分割され、細かくコーディングされている。

「いわゆるセマンティクスと呼ばれるデータです。駅や商業施設といった、都市におけるその施設の役割もコーディングされているので、プログラム側で解析やシミュレーションできるのが最大の特徴です」

画像: PLATEAUを活用した実証実験。太陽光発電量の推計を試みるとともに、パネル設置に伴う光害発生の有無についてもシミュレートを行う COURTESY OF PLATEAU BY MLIT

PLATEAUを活用した実証実験。太陽光発電量の推計を試みるとともに、パネル設置に伴う光害発生の有無についてもシミュレートを行う
COURTESY OF PLATEAU BY MLIT

画像: PLATEAUを活用した実証実験。熱流体解析による温熱環境シミュレーションを実施し、ヒートアイランド現象による影響を分析 COURTESY OF PLATEAU BY MLIT

PLATEAUを活用した実証実験。熱流体解析による温熱環境シミュレーションを実施し、ヒートアイランド現象による影響を分析
COURTESY OF PLATEAU BY MLIT

 実際、太陽光発電の効率、災害、景観による不動産価値、広告効果といったさまざまなシミュレーションが、現在PLATEAUを通じて行われている。

「今後のPLATEAUを考えたとき、たとえば『ボタンを押すだけで太陽光パネルの発電効率がわかる』といったアプリケーションを用意していくことが、自治体が新たにPLATEAUを導入する際のモチベーションになると思います。よく『都市OS』といった議論は出てくるのですが、これから重要になってくるのが『都市アプリ』だと思います。さまざまな都市アプリをどれだけ、いろいろな分野に用意していけるか。それが一番の課題になるはずです。現在1,700ほどある自治体のすべてがPLATEAUを導入する日を目指して、僕もそこに力を使っていきたいと思います」

齋藤精一(さいとう・せいいち)
1975年生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業。建築デザインをコロンビア大学建築学科で学ぶ。2006年株式会社ライゾマティクス設立、2016年よりライゾマティクス・アーキテクチャーを主宰。

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