出会ってから12年たった今年、初めて共演を果たした歌舞伎俳優たち。その表現力や存在感が観客の注目を集め、脚光を浴びている。ふたりはどんな歌舞伎の未来図を描いていくのだろうか。彼らの共通点からひもといていく

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY YUSUKE MIYAZAKI, STYLED BY ATSUSHI KIMURA, HAIR & MAKEUP BY KENSHIN

世代の違いを感じることなく、互いの思いを語り合える間柄。この交流が、輝かしい成長へと導く

 6月の『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』や8月の納涼歌舞伎の『新・水滸伝』(ともに歌舞伎座)に出演し、その活躍ぶりで注目されている中村壱太郎と市川團子。ふたりが舞台で初めて共演したのは今年5月の明治座の公演のとき。会話を交わす様子からは今年が初共演だとは感じさせない雰囲気が漂っている。ふたりはいつ出会ったのだろうか。

画像: 中村壱太郎(なかむら・かずたろう) 1990年東京都生まれ。父は四代目中村鴈治郎、祖父は四世坂田藤十郎。屋号は成駒家。1995年1月大阪・中座『嫗山姥』で一子公時で初代中村壱太郎を名乗り、初舞台。2019年11〜12月には南座『金閣寺』で雪姫を初役で演じた。2020年には配信ライブで「中村壱太郎×尾上右近ART歌舞伎」公演を開催し、話題となった。 https://kazutaronakamura.jp シャツ¥253,000・パンツ¥184,800/ボッテガ・ヴェネタ ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL. 0120-60-1966

中村壱太郎(なかむら・かずたろう)
1990年東京都生まれ。父は四代目中村鴈治郎、祖父は四世坂田藤十郎。屋号は成駒家。1995年1月大阪・中座『嫗山姥』で一子公時で初代中村壱太郎を名乗り、初舞台。2019年11〜12月には南座『金閣寺』で雪姫を初役で演じた。2020年には配信ライブで「中村壱太郎×尾上右近ART歌舞伎」公演を開催し、話題となった。
https://kazutaronakamura.jp
シャツ¥253,000・パンツ¥184,800/ボッテガ・ヴェネタ
ボッテガ・ヴェネタ ジャパン
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画像: 市川團子(いちかわ・だんこ) 2004年東京都生まれ。父は九代目市川中車、祖父は二代目市川猿翁。屋号は澤瀉屋(おもだかや。「瀉」のつくりは正しくは「わかんむり」)。2012年6月、新橋演舞場でスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』のワカタケル役で五代目市川團子を名乗り、初舞台。2013年10月、国立劇場『春興鏡獅子』の胡蝶の精で、国立劇場賞特別賞を受賞。現在、大学2年生。学業と芸道を両立しつつ、精進している。 ジャケット¥407,000・パンツ¥170,500(ともに予定価格)/プラダ プラダ クライアントサービス TEL. 0120-45-1913

市川團子(いちかわ・だんこ)
2004年東京都生まれ。父は九代目市川中車、祖父は二代目市川猿翁。屋号は澤瀉屋(おもだかや。「瀉」のつくりは正しくは「わかんむり」)。2012年6月、新橋演舞場でスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』のワカタケル役で五代目市川團子を名乗り、初舞台。2013年10月、国立劇場『春興鏡獅子』の胡蝶の精で、国立劇場賞特別賞を受賞。現在、大学2年生。学業と芸道を両立しつつ、精進している。
ジャケット¥407,000・パンツ¥170,500(ともに予定価格)/プラダ
プラダ クライアントサービス
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「12年前、彼が"團子"を襲名する前でした。(市川)猿之助さんや僕が出演していた新春浅草歌舞伎を(市川)中車さんと一緒に観にいらして、初めてお会いしました。僕が21歳だと聞いた彼は、僕を"21歳さん"って呼んでくれました(笑)。好奇心が旺盛で、面白い子がきたなって思いました。懐かしいです」(壱太郎)

 それほど遠い存在ではなかったふたりは、いつしか年の離れた兄弟のように。出会ってからは南座の楽屋でボードゲームをして遊んだり、同じ月の公演で違う部に出演したりと交流が続き、コロナ禍ではこれから自分たちが目指すことについて語り合ったという。歌舞伎に対する熱量はもちろん、"台本の書き込み"が似ているといった共通点が多いことも実に興味深い。

「祖父(市川猿翁)や僕に似た台本の書き込みをする人は壱太郎さんが初めてでした。3人とも何が書いてあるか読めません(笑)。僕は頭に思い浮かんだことをすぐに書きたいんですが、手が追いつかなくて崩れ字みたいになってしまいます」(團子)

「僕が思うに、あとになって見たときに字が読みにくいのは、芝居を見て書いたときのテンションが字にも伝わっているからなんですよ(笑)。書くスピードが頭に追いつかない。お弟子さんに"これなんて読むの"って自分が書いた字を解読してもらうこともあります」(壱太郎)

 稽古を通してもっといい芝居になるようにと、その瞬間に感じたことを言葉にして残す台本の書き込みは、のちに貴重な宝物になる。笑顔が絶えない様子から、お互いの考えを話せる関係であることが伝わってくる。壱太郎は、今19歳の團子に当時の自分を重ねつつ、その思いを語った。

「8月の『新・水滸伝』の稽古のとき、林冲(りんちゅう)役の(中村)隼人くんが大阪松竹座に出演中で不在だったので、代役が演じて進めていくんですが、あるとき團子くんが自身の彭玘(ほうき)役を演じつつ、林冲の代役を勤めたことがありました。もちろん真剣に演っていて、代役だとかは関係なく楽しみながら取り組んでいることが素敵だなと思って、見ている僕自身もうれしかったです。僕も以前は稽古のときの代役を演らせていただくことはありましたが、年齢が上になってくると機会が減ってしまいます。まさに代役は若さの特権なので、どんどん挑戦するといいと思います。19歳といえば僕が『曽根崎心中』のお初を初役で演らせていただいた歳ですが、あのときは緊張しすぎて自分を追い込んでしまいました。自分が何もできないことに気づいて、舞台稽古のあと祖父からダメ出しをもらわないといけないのに、楽屋に閉じこもってしまったんです」

 隣で聞いていた團子も深くうなずきながら続ける。

「わかります。僕も自分にキレてしまうことがありました。僕は"世間体がいい子ちゃん"なだけで、母やお弟子さんたちには一番迷惑をかけていると思います。当然ではありますが、人にあたらないように気をつけています」

 自分との葛藤は、いつか舞台の真ん中に立つ俳優が必ず通る道。さらにふたりには偉大な祖父という存在がいるという共通点もある。壱太郎は自身のターニングポイントとして祖父である坂田藤十郎の襲名を挙げた。

「祖父は70歳を超えてから坂田藤十郎を襲名して、もう一度新たな気持ちで演るという姿を間近で見せてくれて、一生突き詰めていける仕事であることを体現してくれました。名実ともに歌舞伎俳優であり続けたし、僕自身もそれを目指して、自分が演じる役を祖父から習うようにもなりました。それが大きかったですね」

 團子も祖父・市川猿翁の会報誌から学びを得ている。

「10月には立川で、『義経千本桜』の『道行初音旅(みちゆきはつねのたび)』(吉野山)で忠信を初役で勤め、壱太郎さんの静御前と初共演させていただきます。祖父が得意とした演目で、後援会向けの会報誌の中に『吉野山』に関する芸談があったので読みました。場面の意味に加え、忠信と静御前は主従関係であることが大前提だと書かれていました。色っぽい歌詞のところは色気がありすぎると恋人同士のようになってしまうし、なさすぎても違うのでいいところを取り、戦の"物語"のところは狐忠信(狐の化身)としてよりも佐藤忠信の気持ちで語るのが大事だと書かれていました。この会報誌は全部で70号くらいあるのですが、まずは1号からラストまでちゃんと読破したいと思っています」

 これまでにも静御前を経験してきた壱太郎は、相手役が変わることで受け止め方も変わるのだろうか。

「やっぱり同じ振りであっても変わってきますね。團子くんが言うように役の性根のところをどう思っているかで忠信の本質が出てきます。『吉野山』は単品でも踊りとして素敵ですが、今回は忠信篇として物語に沿って上演されるので、ほかの場面の忠信と役者が違っても同じ気持ちで演じなければいけません。團子くんの"初忠信"の舞台に立ちあえるうれしさと、どんな静御前で演ろうかなという楽しみもあります」

 舞台への使命感にも、ふたりには通じ合うものがある。

「未来に歌舞伎をどう残すかということでしょうね。何が正解なのかはわからないけれど、あのときあれをやっておけばよかったと後悔しないようにすることを一番意識しています」と語る壱太郎の言葉を受けて、「僕はまだ何もわからないですが、今はがむしゃらに、一生懸命に頑張ることが一番大切だと思っています。自分で限界を決めずに、ずっと頑張り続けたいです」と團子。同じ思いを抱いている。

 生の舞台を通して、ふたりが挑む"今"を感じてほしい。それが歌舞伎の未来へとつながっていく。

画像: (右)ジャケット¥114,400・シャツ¥38,500・パンツ¥48,400・(左)ジャケット¥111,100・シャツ¥44,000・パンツ¥61,600/コム デ ギャルソン・オム ドゥ コム デ ギャルソン TEL. 03-3486-7611

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「立川立飛歌舞伎特別公演」
『義経千本桜 忠信篇』
日時:2023年10月23日(月)〜28日(土)13時開演 
会場:立川ステージガーデン
チケット予約
チケットぴあ
チケットWeb松竹

画像1: 中村壱太郎と市川團子
歌舞伎で結ばれた絆
画像2: 中村壱太郎と市川團子
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