ごく幼い頃からデュア・リパはポップスターになりたかった。その夢をかなえた今、彼女は、人生の計画表にリストアップされた残りの目標を達成すべく取り組んでいる

BY KURT SOLLER, PHOTOGRAPHS BY LUIS ALBERTO RODRIGUEZ, STYLED BY CARLOS NAZARIO, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: ドレス(参考商品)/セリーヌ バイ エディ・スリマン セリーヌ ジャパンTEL.03-5414-1401 リング〈18KWG、ダイヤモンド〉¥9,966,000/ヴァン クリーフ&アーペル ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク TEL.0120-10-1906 イヤリング/本人私物

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 彼女の話を始める前に、まず最初にこれを言っておきたい。デュア・リパは今、彼女の3枚目のアルバムの製作の仕上げに入っている。このアルバムは2024年発売の予定だ。ミュージシャンがレコードの発売日を発表しても、実際には期日どおりにリリースされずに遅れるのが業界の常だが、リパはほぼ確実に期限どおりに仕事をきっちり終わらせる。ひとりのポップスター──また、これは若くして成功したアーティストの誰に対しても言えることだが──という存在が、あくまで自分の仕事に必死で打ち込む仕事人のひとりなのだと認識させられるのは、ちょっと奇異な体験だ。

 リパは28歳という年齢で、すでに多岐にわたる事業を展開する起業家だ。彼女は、期限どおりに仕事を完了させるだけでなく、TEDトークに登壇する企業の創業者のようなはっきりした態度で、事業戦略や生産性を語る。「もし私がこれほどきっちりしていない人間だったら、きっとやることなすことめちゃくちゃになっていたはず」と、5月のある霧雨の午後にロンドンで会ったときに、彼女は言った。キングス・クロスのコンサート会場の2階に隠れ家のように存在する彼女のお気に入りのレストランであるスシ・オン・ジョーンズに彼女が頼み込ん彼女自身のことでも、音楽の話でもなく、それ以外の話題だ。それで、ディナーの営業時間の前に私たちだけの貸し切りにしてもらった。彼女は約束の時間の10分前には到着しており、すべてが計画どおりかどうかを自ら確認していた。 

 2020年の3月にはあまりにも多くの出来事が起きたため、リパの2枚目のアルバム『フューチャー・ノスタルジア』が、ロックダウンの初期の頃に密かに流出したことを覚えている人は少ないだろう。彼女が何カ月もかけて細かく練り上げた発売プロモーションは中止になり、海外のコンサートツアーも延期になった。そんな意図しなかった状況の中で、彼女はパンデミック時代のポップスターの頂点にのぼりつめたのだ。シングル曲を閃光のように次々に繰り出し、自身の音楽を「悲しい気持ちで泣きながらダンスする」ための歌と表現する。そんな彼女は、のちに、自身の楽曲が音楽配信サービスのスポティファイで、枚のアルバムで100億回以上再生された唯一の女性アーティストとなった。
 今製作しているレコードは依然としてポップ中心で、ファンが「驚いてメルトダウン」しないように配慮している。彼女はファンを「置いてきぼり」にはしたくないが、『フィジカル』や『ハルシネイト』の楽曲で使ったようなハウスやディスコ調のビートを抑えぎみにし、1970年代のサイケデリック調サウンドを注入して曲を作り上げているところだ。オーストラリアのサイケデリック・ロックバンドであるテーム・インパラのケヴィン・パーカーらを含む少数精鋭のメンバーと組んで楽曲を製作中だという噂も流れている。彼女は「うーん、何を言ってるのかよくわからないけど」と言い、目をそらし、くすっと笑った。どうやら噂は本当のようだ。リパは─ほぼ確信犯的に─ポップスターの休日スタイルの定番ともいえる、くだけた服装で現れた。UGGのスリッポンを履き、だぶだぶのホワイトジーンズと着古したエルトン・ジョンTシャツに身を包み、両耳にはダイヤが数粒ちりばめられたフープイヤリングをしていた。

  彼女は他人に簡単には気を許さないようなドライでクールな印象を与えがちだが、冷淡というのとはちょっと違う。それが彼女の素の姿なのかもしれないし、または、コロナ禍で孤立を強いられた時期に世界的に有名になった結果、身についた態度なのかもしれない。彼女と同世代の人たちによく見られるような、不必要な雑談をして自身の好感度を上げようとしたり、親しさを装ったりという、その場しのぎの行動が彼女には皆無だ。そのかわり、彼女は自分が伝えるメッセージに細かく注意を払っている。彼女は、ジャーナリストから取材される場合に、自分が情報を開示してもいいと思うタイミングを待たずに、相手があの手この手で情報を得ようとしていると感じてしまうことがよくある、と私にほのめかした。「特に公衆の面前にいると、私が転んだり、失敗したり、何かやらかしたりするのを常に期待されているような気がする」と彼女は言う。私たちの会食予定は90分間で、それはきっちり予定どおりに終了した。その間に「どうでもいいんだけど」という言葉を彼女は何度も口にした。その言葉は、彼女が自分の人生を、筋書きのある物語として伝えなければいけない立場に置かれることへの、警戒心の表れのようにも聞こえた。

 次作のアルバムについては、彼女はとりわけ言葉少なだった。製作中だから内容は明かせないという理由もあるのだが。製作のプロセスを、彼女は「外界から遮断されていて、興奮する時間」と語る。「発売されたとき、どんな反応がくるかはわからないし、不安な気持ちもあるけど」。新しいアルバムについて彼女がほとんど語らないのは、それ以外にも彼女が準備してきた話題がたくさんあるからでもある。彼女自身のことでも、音楽の話でもなく、それ以外の話題だ。それこそが、他人とは違うリパの、長期的視野から見たキャリア計画の肝でもあり、その計画は、彼女が仲間の園児たちにお遊戯の踊りを教えてリーダー的な役割を果たしていた5歳の頃から、着々と準備してきたものだ。

 昨年11月にコンサートツアーが終わると、リパはロンドンに戻り、音楽とは関係のないいくつかのプロジェクトに取りかかった。ノース・ロンドンにある改装中の自宅で料理をしたり、リラックスしたりしながら。リパは現在の自宅の近くで、アルバニア人で移民の両親デュカジン・リパとアネサのもとで育った。リパの両親は1992年のコソボ紛争時にコソボを離れて難民となり、その後再びコソボの首都プリシュティナに戻った。その4年後に両親は当時15歳だった長女(デュアという名はアルバニア語で「愛」を意味する)をひとりでロンドンに移住させた。彼女はモデルの仕事を短期間こ
なし、やがて音楽に打ち込み始める。そして2年後、2013年にテレビ番組『Xファクター』のコマーシャルに登場したあと、ラナ・デル・レイのマネジャーであるベン・モーソンと契約を結んだ。

 現在ロンドンの街には、彼女の両親、弟(グジン、17歳)と妹(リナ、22歳、売り出し中のモデル)も再び暮らしている。ロンドンにいるときは、彼女はインド料理店のジムカーナでベジタブル・サモサを食べたり、シーフードレストランのウェスターンズ・ランドリーでオレンジワインを飲んだりして楽しんでいる。彼女が有名になる前から親しくしている友人たちと集まると、彼女は「私、キッチンにいるけど無視してね」と言いながら、誕生日のディナーの準備や旅行の計画にいそしむのだ。そんなふうにして集めた多くのレストランや旅行先の情報は、彼女が昨年2月に立ち上げたアートとカルチャーのニュースレターである『Service95』に掲載されている。彼女が10代の頃からメモしてきたベーカリーや書店のリストや、その他の店などの情報を書き記しておける場所が欲しくて、この媒体を立ち上げた。

 また、彼女はService95のコンテンツのひとつである『デュア・リパ:アット・ユア・サービス』というポッドキャスト番組の3シーズン目を現在収録中だ。これまでにこのポッドキャストを通し、歌手のビリー・アイリッシュや俳優のダン・レヴィなどのアーティスト仲間や、フロリダ州オーランドのナイトクラブ、パルスで起きた2016年の銃乱射事件のサバイバーで銃規制のため法改正を求めて闘うクィア・アクティビストのブランドン・ウルフにインタビューしてきた。そのほかにもミン・ジン・リー(小説『パチンコ』の著者)やエスター・ペレル(さらにアメリカ版T マガジンの編集長、ハニヤ・ヤナギハラ)などの作家たちにもインタビューしている。彼女はそれぞれのゲストとの対話の最後に、おすすめの場所のリストを尋ねる。たとえばレヴィにはロサンゼルスのレストランを教えてもらい、ウルフには、注目すべきアクティビストたちを挙げてもらうというふうに。そうすることで、彼女の読者やリスナーたちに役立つ情報を提供したいのだと彼女は言う。彼女の読者やリスナーの多くは彼女自身が生まれた1995年や、それに近い年に生まれており、それが彼女の媒体のService95のタイトルの由来でもある。

 今年のはじめに、彼女は『Service95 Book Club』を立ち上げた。最初に取り上げたのは、ダグラス・スチュアート著の小説『シャギー・ベイン』(2020年)。スコットランドのグラスゴーの労働者階級コミュニティ出身のゲイの少年が成長していく姿を描いた作品だ。さらにリパは、ドナテラ・ヴェルサーチェと組んでデザインしたファッション・コレクションを発表している。蝶の柄があちこちにプリントされたビキニや、花柄のストレッチ素材のドレスなどのラインナップだ。コレクションのテーマは「La Vacanza」。これはイタリア語で「休暇」を意味する。このテーマは、実は、リパ本人のインスタグラム・アカウント上で表現される美意識と見事に一致している。Service95のコンテンツを通してリパが見せる知性や教養の片鱗からすると、やや意外なのだが、彼女がアップするインスタ写真の大半は、プールや水辺で水着姿でリラックスしているショットばかりだからだ。

 その後まもなく、彼女はグレタ・ガーウィグ監督の映画『バービー』で人魚の役を演じた。10代の頃ファッションモデルだった人形が、さまざまなスキルが要求される職業を半日のうちに次々に経験していくというストーリーは、リパの俳優デビューの舞台としてぴったりだ。「自分のスマホは人に見られたくない。分刻みでびっしり予定を書き込んであるのが恥ずかしいから。どこに行くのか、何をするのかまで全部」。リパは私にそう言いつつ、カレンダーのアプリを開いた。口をゆがめて渋ったあと、とうとう画面を私のほうに向けてくれた。「起床、身支度、ポッドキャストの準備」と彼女は言いながら、ある日の予定のリストをスクロールしていく。「ドラマの『メディア王 ~華麗なる一族~』も観なければいけないから、その予定を入れなきゃ」と追加し、午後7時の欄を指さした。その時間帯にはすでに夕食の予定が入っている。彼女はシャワーを浴びる時間を何とか見つけて、それも書き込んでいる。「楽しんで続けられる限り、音楽を作り続けていくつもり」と彼女は言う。「でも、ほかにもやりたいことがあるし、それを諦める必要はないでしょ?」

 ポップスターになるという夢は、ごくひと握りの人間にだけ手が届くものだが、リパが築き上げたメディア帝国における音楽の部分は、奇妙にも、最も目立たない側面だ。ハスキーな歌声と、ファンが親近感を抱く完璧とは言えないダンス技術をひっさげ、彼女は世界でもトップレベルの才能をもつ音響の専門家や業界の企業人たちの力を借りて「男なんて必要?」というテーマを含む、わかりやすく、勇気が湧いてくるような、女性賛歌を売りにしてきた。音楽業界の人間たちは、聴いたあとに耳にメロディが自然に残りやすい彼女のシングル曲を創作し、その曲を宣伝するのに何百万ドルもの資金をつぎ込んできた。それは彼女が才能にあふれていて、美しく、音感が優れているからというだけではなく、彼女が──彼女の多くの先輩たちや同業者と違い──彼女自身はそうと認めたがらないかもしれないけれど、「だらしなくない」という特性をもつからだ。

「私の場合、録音スタジオにアーティストがやってくるのを待っている時間のほうが、実際にアーティストと仕事をする時間よりも長いのではないかと思うほどだ」と語るのは、この夏から『ダンス・ザ・ナイト』を含む2枚のシングルをリパとともに製作した47歳のレコード・プロデューサー、マーク・ロンソンだ。「たとえば、もし彼女が約束した時刻の12時を過ぎても現れない場合は──文字どおり12時2分ぴったりに──『遅れてごめんなさい、あと3 分で着きます』というテキストメッセージが彼女から送られてくる。そんな配慮をするスーパースターはほかにいないよね? 彼女は、今でも無名だった頃と変わらない態度で仕事をしているんだ」。リパは特にエディティング作業や、コーラスやメロディの部分を何度も繰り返して歌ったり、修正したりする地味な作業が得意だと彼はつけ加える。彼女は決断が早いうえに、同時に複数の作業をすることをいとわない。時には舞台上で振り付けをしながら、仕事が終わったら何を食べようかと考えていることもある、と彼女は言う。

画像: ポップスターのデュア・リパ。2023年5 月25日にパリで撮影。 コート(ブローチつき)・パンツ・アイウェア・靴(すべて参考商品)/グッチ グッチ ジャパンクライアントサービス TEL.0120-99-2177 ブラトップ(参考商品)/Skims(skims.com)

ポップスターのデュア・リパ。2023年5 月25日にパリで撮影。

コート(ブローチつき)・パンツ・アイウェア・靴(すべて参考商品)/グッチ
グッチ ジャパンクライアントサービス
TEL.0120-99-2177 

ブラトップ(参考商品)/Skims(skims.com

 ポップミュージックも、ほかのすべてのクリエイティブな表現と同様、極限まで商業化されているのが今の時代だ。ミュージシャン本人の金銭的な収入が目減りする中、ブリトニー・スピアーズやホイットニー・ヒューストン、エイミー・ワインハウスら(リパのソウルフルなかすれ声は彼女たちを思わせる)を聴いて育った人間たちは、先人たちの人生やキャリアから学んだ悲劇的な教訓を血肉にしてきた。性的な魅力がものを言う業界で働く女性たちは──リパが彼女のブック・クラブの立ち上げを発表する際に、水着姿の自撮り写真を添えたのは偶然ではない──周囲の人間が彼女たちを利用しようと常に手ぐすねを引いていることに、キャリアの初期の段階で気づく。

 そして、頭の切れる女性たちは、自分のキャリアの道筋を多様化させる機会を敏感にキャッチし、ラジオでヒット曲が流されるその流行のペースに負けない速さで、自分自身のビジネス帝国を築くべく働くのだ。流行歌というのは猫とネズミの追いかけっこのゲームと同じだという現実と、彼女たちは格闘している。歌手たちは音楽を常に目新しいものに変えなければならず(とはいえ、独自のペルソナとあまりにもかけ離れないように注意しなければならない)、またレコードを頻繁に出しすぎないようにして、ファンを飽きさせないようにする必要がある。そこまで努力しても、30代に突入すれば、聴衆や音楽業界は、彼女たちを棄てるかもしれないと認識しておかなければならないのだ。

 たとえば、リアーナは2016年以降アルバムを発表していないが、彼女が立ち上げた化粧品ブランドのフェンティ・ビューティーは数十億ドルもの売り上げをたたき出している。また、アリアナ・グランデは、もうすぐユニバーサルの大作映画『ウィキッド』で魔女のグリンダ役を演じる予定だ。一方、リパは化粧品などの商品を含む、自身が立ち上げたブランドの商標登録をすでにすませており、来年にはスパイ映画の『Argylle(アーガイル/原題)』に出演する。つまりリアーナとグランデが進出している両方の分野に彼女はもう足跡を残しているわけだ。リパと彼女の同業者たちが同じようなキャリアの軌跡を描いているのを見ると、彼女たちが他分野にできるだけ早い時期に、そして可能な限り幅広い分野に進出していることがわかるだろう。それは同時に複数の場で活躍するための担保を確保するだけでなく、時代に取り残されないように先手を打つ行為なのだ。

 リパの多方面にわたる試みを見ると(その活動のほとんどが、Service95の名によって統括されている。「究極のカルチャー・コンシェルジュ」というのがService95の謳い文句だ)、彼女の手法は、商品を扱うのではく、思考や情報を通してファンを惹きつけている点で独特だ。カルチャー・コンテンツを自ら提供しつつ、情報のキュレーションを行うやり方が際立っている。初期のニュースレターは数人の元雑誌編集者たちの協力を得て、必要最低限のシンプルなデザインで立ち上げられた。コンテンツは無料で誰もがアクセスでき、初回のニュースレターには、南アフリカのハウス・ミュージックについての短編記事や、アイルランド人で障害者の権利擁護活動を行う作家シネイド・バークについての記事などが掲載された。その後、YouTubeの料理動画や、作家たちとのライブトーク(聴き手はリパ)も追加され、男性のメンタルヘルスや、ロンドンで多発するスパイキング事件の危機などの話題を掘り下げたリポートも掲載されるようになった。スパイキングとは、酒場で若者が見知らぬ人間からドラッグを身体に針で注射されたり、また、飲み物の中にドラッグを知らぬ間に注入されたりする事件のことだ。

 Service95は「普段、人には見せない」自分が現れる場所だと彼女は言う。ジュエリーやヨガの話題と同じ頻度で、トランスジェンダーの自由や人権についてディスカッションできる場だ。彼女は若く野心的なミレニアル世代だが、このニュースレターのコンテンツは、Z 世代的な価値観を色濃く反映している。つまり、すべてのアートやカルチャーは社会正義を求める気持ちがその根底にあるべきで、例外なくすべてのアーティストが自らの倫理観と信条(少なくとも進歩的だと認められるレベルが要求される)を、あらゆる文脈とさまざまな環境設定を念頭に置いて語るべきだというスタンスだ。「私は決して政治的なものを目指しているのではない……でも、私という人間の中には、政治的な意思が内包されている」とリパは語る。「一番簡単なのは、身を隠して、何に対しても自分の意見を決して口にしないことだから」。

 とはいえ、彼女は「拡声器」ともいえるこの媒体のコンテンツ作りに参加するメンバーたちが、この媒体をどう使うかに細心の注意を払っている。もし何か問題が起きれば、彼女が矢面に立つことになると知っているからだ。そのため、彼女は自分ですべての記事を確認して掲載許可を出し、週に一度、編集会議を開く。Service95の規模がこの先さらに拡大していけば、2000年代初頭に主流だったフェミニズム寄りのキラキラしたファッション雑誌にとって代わる存在になるかもしれない。とりあえず、今の段階では、彼女の媒体は、2009年頃に人気を誇っていたブロガーのタヴィ・ゲヴィンソンが女優に転身する前に若いファンたちに向けて発信していたブログ『ルーキー』を思わせる作りだ。話題満載で、手作り感あふれる点が共通している。

 だが、リパはゲヴィンソンとは逆の方向に向かっている。自分で立ち上げたオンライン・メディアで多くのアクセス数を稼いで影響力をもち、いつかその世界を離れて別の輝かしい分野に進出するのではなく、彼女は自らのセレブリティとしての知名度を使い、自分が生きている場所で見聞きしてきたことのすべてを読者と共有しようとする。「世界はものすごく広く、ひとりひとりがすべてを実際に体験することは不可能かもしれない。だからこそ、あらゆる事象を紹介できる場所になれば」と彼女は言う。それは堅実な戦略でもある。リパは懸命に働いた結果、普通の人間とはかけ離れた幸運に恵まれる人生をつかんだが、彼女自身は、実は普通の女性のままなのだ、ということを示唆することになるからだ。彼女は有名になっても浮ついたところがなく、やさしさに満ちているように見える。ただ、時には周囲を戸惑わせるような態度をとってしまうこともあるが。たとえば、昨年11月に彼女はラグジュアリー・ブランドのハンドバッグなどのリサイクル品を売る東京のヴィンテージ・ショップ、アモーレで買い物をするために「節約して貯金した」と書いていた。

 メディアの大御所として君臨する女性有名人たちの層は最近かなり厚くなってきており、トークショーホストのドリュー・バリモアやケリー・クラークソンなどもそうだ。そんな女性たちの中で、リパと最も共通点があるのは、グウィネス・パルトロウかもしれない。パルトロウが手がける事業Goopは、Service95よりもはるかに規模が大きく、収益も高いが。リパは自分の媒体の読者数や属性を非公開にしているが、今後開催予定のイベントに読者を呼ぶ計画がある。食とワインと書籍をテーマにしたイベントだ(「オプラみたいな感じ?」と私が尋ねると、彼女はその比較をやんわり否定した。「(ロンドンには)オプラみたいな存在はいないから」)。

 彼女はむしろリース・ウィザースプーンからより強い影響を受けている。映画『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(1999年)で負けず嫌いで野心満々な生徒トレイシー・フリックを演じて有名になったウィザースプーンは、その後、セレブリティの中でもいち早く自身のブック・クラブを立ち上げたひとりだ。それは、彼女が立ち上げたプロダクションを通して映画やテレビで映像化できるような、女性を主人公とする作品のラインナップを発掘するためでもあった。もしかしたらウィザースプーンと似たようなことを将来やるかもしれない、とリパは言いつつ、まだ具体的にはその方法を考案していないと言う。そして「Service95を基盤とするビジネスモデルがあれば、ユニークなものができて面白いかも」と語る。まるで企業のコンテンツ担当の重役のような口ぶりだが、実際、彼女はその立場になりつつあるのだ。「自分のメディアを立ち上げると、こんなに力がみなぎってくるんだと気づいた」

 結局のところ、彼女についての記事はこれまでたくさんマスコミに書かれてきたが、これからは、彼女自身の手で自らのストーリーを書いて発表できる立場を確保したといえる。ニュースレターの中で、彼女は1 パラグラフ程度の短い「編集長メッセージ」の欄を執筆している。だが現在BBCとの協業で毎週放送されている彼女のポッドキャストの3シーズン目では、彼女の出番はぐっと多くなっており、毎回1時間以上はゲストと会話する。その事前準備として、彼女はリサーチに毎回4~5日は費やしているという。2019年にノンフィクション書籍『三人の女たちの抗えない欲望』を出版し、市井の人々のセックスの実態に関してリポートした43歳のジャーナリスト、リサ・タッデオは、リパは今まで出会ったインタビュアーの中でも最も自然に話ができるひとりだと私に言った。「下調べは完璧にしてきているけど、筋書きにこだわらないし、非常に話しやすかった」。ただし、リパがやっていることは、ジャーナリズムとは違う。彼女は自分でも認めているが、インタビューされる相手が聞かれて困るようなことは話題にしないからだ。彼女はゲストから自分に関して質問された場合には、うまくかわして、むしろ相手におすすめやアドバイスを尋ねる。相手が心を開いて答えやすい話題を投げるのだ。インタビューされる側にしてみれば、アーティストのひとりと会話していることをふっと忘れ、自分にオタク的な好奇心を抱いているひとりのポッドキャスト・ホストと話しているという気にさせられる。

 昨年の9月のゲストはモニカ・ルインスキーだった。彼女はクリントン元米大統領とのセックス・スキャンダルについてや、事件後、絶望の淵からどうやって這い上がったかを話した。ルインスキーは「公の場で大恥をかき、死んでしまいたい」ほどだったと語った。それを聞いてリパは重いため息をもらし、「私にとってものすごくショックだったのは、フェミニストたちがあなたの存在についていかに苦渋を込めて議論をしていたかということ」と反応した。「果たしてあなたが当時、自分で決断して行動できたのかどうか、また、あなたは犠牲者だったのか。そして、そんな議論が時代とともにどう進化してきたのか、私はものすごく気になる。あの経験が、あなたとフェミニズム運動との関係をどう決定づけたのかが知りたい。当時のフェミニズムは現在のものとは違っていたという点が、私にはものすごく衝撃的だし、もしかしたら当時は、権力者が誰かを搾取する行為について今ほど深くは議論されていなかったのではないかと思うから」

「あなたの世代の人々こそが」とルインスキーはリパに語りかけた。「私に起きた出来事を再び検証しようと主張している」。ルインスキーとの収録が終わったあと、リパは3 シーズン目のそれぞれのインタビューは、あるひとつのトピックに絞って行うべきだと決めた。たとえばルインスキーの回では「恥と癒やし」に焦点をあてたように。今年6 月から始まった第3シーズンの初回に、リパはまるで自分の分身のようなゲストを招いた。自らのYouTubeチャンネルで『チキン・ショップ・デート』というシリーズ番組のホストを務める英国人、アメリア・ディモルデンバーグだ。女優のジェニファー・ローレンスやキキ・パーマーをファストフード店に呼び出して真顔でインタビューする番組だ。リパはこの回の放送前の告知に、ディモルデンバーグと「どうやって自分のメディア帝国を築き上げ、自分のブランドを確立させるのか」について話す予定だと書いた。ディモルデンバーグはこうアドバイスした。「これは特に女性に言えることだけど……皆を喜ばせなければいけないと考えて、自分が特に注目されない場所では、その場に応じた目立たないふるまいをする必要があると感じてしまう」。それを受けて、リパが低い声で同意のつぶやきをもらした。「自分のアイデアを信じること」とディモルデンバーグは続けた。「それが一番大事なことだから」

画像: ドレス¥430,100・スカーフ(参考商品)/アライア リシュモン ジャパン株式会社 アライア TEL.03-4461-8340 ブラトップ(参考商品)/Skims靴(参考商品)/Stuart Weitzman(stuartweitzman.com) イヤリング/本人私物 ショーツ/スタイリスト私物 Hair by Rio Sreedharanfor the Wall Group.Makeup by Samantha Lau.Set design by Afra Zamarafor Second Name.

ドレス¥430,100・スカーフ(参考商品)/アライア
リシュモン ジャパン株式会社 アライア
TEL.03-4461-8340

ブラトップ(参考商品)/Skims靴(参考商品)/Stuart Weitzman(stuartweitzman.com
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Hair by Rio Sreedharanfor the Wall Group.Makeup by Samantha Lau.Set design by Afra Zamarafor Second Name.

 リパにこれらすべての活動をこなす余力があるとしても、それでもまだ疑問は残る。一体なぜやるのか? 圧倒的な成功を収めたミュージシャンとして音楽活動だけに集中することも当然できるだろうに。私たちふたりが会食をした数週間後に、彼女は私に電話でこう語った。もし彼女が「やりたいことすべてに挑戦し、その成果を人々と分かち合う」ことをしないとしたら、彼女は自分自身を「傷つけている」ことになるのだと。また、それとやや似た内容を、彼女はこんな言葉で説明した。「未経験のことに飛び込んで」新しいスキルを体得するのが好きなのだと。彼女のさまざまな活動はどれも「アクティビズムと読書を愛する」彼女の傾向と「同じ延長線上にある」。

 リパは高校生の頃からメディアに興味があった。特に、彼女の父がコソボに戻ってジャーナリズムの修士号を取得してからは一層その志向が強まった(リパがマネジャーのモーソンとの契約を解消したあと、昨年、彼女の父が彼女の新しいマネジャーに就任した)。彼女は両親が自分のために犠牲を払ったことへの敬意を表したいと思っているし、彼女が多種多様なメディアの仕事をするのも、「移民特有のメンタリティだと思うけど……もし私が懸命に働かなければ、これまで自分が手にしたものを、ある日突然すべて失うことになるかもしれないと知っているから」だと言う。もし彼女の音楽が売れなくなっても、そのほかの事業で十分食べていけるはずだが。

 彼女はそんなことはもちろん口にしないし、恐らく今後も絶対にそんな発言はしないだろう。また、同じく、これも彼女が言わないことだが、私が思うに彼女の一番の本音は以下のようなものだろう。メディア業界の人間なら誰でも知っている常識だが、自分のことをことさら話題にしないことが、他者との会話を一番うまく誘導する方法だ、という知恵だ。リパが編集コンテンツの決定を自ら主導しているのは、一見、自己開示の活動に見えるかもしれない。しかし、実際には自己を守る行為なのだ。編集権を握ることで、彼女の好きなスペインのワインの話や、日本の地方を訪れて、現地で開催されたアートのインスタレーションを観た話などを通し、聴衆と直接つながれる機会を定期的に得ることができる。さらに自分が気になる社会問題や、アクティビストたち、アーティストなどについて自由に話すことができる。ライフスタイルを聴衆と共有することは、自分の人生の中身をシェアすることとは違う。

 稀に、ごく個人的なことを発表しなければならないときは、彼女個人のSNSアカウントを使ってメッセージを流通させるのが理想的だ。彼女は自身の曲『Levitating(宙を舞うの意)』のリミックス盤製作のためにラッパーのダベイビーと共演した。その後、2021年に行われたある音楽祭で、ダベイビーが同性愛者嫌悪の発言をする様子が録画された。リパは8,860万人のフォロワーを擁する自身のインスタグラム・アカウントでダベイビーとの協業解消を宣言し、自信のファンたちには、HIVやエイズに対する偏見と闘おうと呼びかけた。ファンと直接コミュニケーションをとる方法は「以前のアーティストたちにはなかった」と彼女は言う。「マスコミで自分のことがどう報道されるか、それですべてが決まった。マスコミで報道されたことがアーティストの全人格だった」

 2021年にはユダヤ教正統派のラビである米国人シュムリー・ボテアックによって創設された団体が、ニューヨーク・タイムズ紙上に1 ページ大の広告を出し、リパを反ユダヤ主義だと批難した。彼女がパレスチナ人の人権を擁護したあとの出来事だった。リパ側の代理人が同紙の上層部に謝罪を求めたが、同紙からの謝罪はなかった。その後2 年以上にわたって、リパはニューヨーク・タイムズ紙からの取材申し込みをすべて断り続けた。そして、彼女は同紙の前エグゼクティブ・エディターのディーン・バケットを説得し、彼は昨年12月のリパのポッドキャストにゲストとして登場した。彼女が例の問題について水を向けると、バケットは同紙の決定について言葉少なく答え(彼は今も同紙で勤務している)、編集部と広告部の役割は明確に区分され、それぞれが独立していることを説明した。リパにとっては、バケットの受け答えは予期していたものだったが、「編集部の責任者に自分の意見を伝えることができただけでもよかった」。そうして彼女は何年も心にわだかまりを抱えていた事件を過去の出来事として受け止め、前進した。

 これらの決定はもちろんすべて彼女が下したものだ──選択した事実があるだけで、彼女は世間には借りも貸しもつくっていない。とはいえ、セレブリティのひとりが、自分の私生活が他人の興味や執着の対象として消費されるのを許容するのではなく、自分自身の興味や気になることを通して自己のブランドを構築していくのを見るのは痛快だ。マドンナがデビューした頃から、私たちはポップスターたちに対し(そして実にすべての女性アーティストたちに)すべてをさらすことを期待してきた。メンタルヘルスの面で人知れず苦しむこと(レディー・ガガ)からパートナーの浮気沙汰(ビヨンセ)まで、彼らが自己開示をすれば、人々はそれに評価を下し罰するだけだ。リパはそういうレベルで世間とやりとりするのを拒絶する。

 彼女の音楽についても同じで、自らの私生活のちょっとした秘密や悲しみを公表することで成功をつかんできたほかの女性アーティストたち(テイラー・スウィフトやアデル)が内包している奇妙な「不協和音」を上手に避けているのだ。私生活を作品に反映させてきたほかの女性アーティストたちは、固定された文脈にはまって、そのパターンから抜け出せなくなり、その結果、いつしか自分たちの人生が一般のファンとはかけ離れてしまっていることに気づく。リパは曲の歌詞の中にわざと隠れたメッセージを仕込んだりはしない。「あなたは果たしてどれだけ自分を打ち明けられるのか?というのは、マーケティングの道具だと思うから」と彼女は言う。「曲に込められた意味をやたらと深く分析したがる人たちに向かって、自分の生活を見せる気はあまりないから」

 次のアルバムは「よりパーソナルなもの」だと彼女はほのめかすが、作品で私生活を開示するのが目的ではない。私たちが寿司レストランで会う二日前に、リパは『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』という2020年に公開されたビー・ジーズに関するドキュメンタリー映画を、恋人で42歳のフランス系ギリシャ人の映画監督、ロマン・ガヴラスと一緒に繰り返し観ていた。「ひたすら号泣した」と彼女は言う(意外にも、リパの宣伝担当者が、質問するのを避けてくれと私に事前に頼んできたのは、このガヴラスとの交際に関することだけだった)。この映画の中で、ある登場人物が「聴いていてひたすら身体が気持ちよくなる音楽」について話していたと彼女は説明する。「私はそんな歌に惹かれてしまう──そういう感覚を私も届けたい」。彼女はすでに、そんな五感を刺激する心地よさを魔法のように生み出せる才能を、自らの作品で証明してきた。だが、彼女が話し続けるのを聞きながら、私はあることにふと気づいた。私にまだ観ていない映画をすすめようとする何げない行為からも、彼女は快感を感じ取っているのだと。「絶対に観るべき」と、彼女は自分の音楽について話すのを後回しにして言った。「とにかく素晴らしくて、観るたびに泣いてしまう」

PRODUCTION: FARAGO PROJECTS. MANICURIST: MICHELLE HUMPHREY FOR LMC WORLDWIDE. PHOTO ASSISTANTS: DANIEL RODRIGUEZ SERRATO, ENZO FARRUGIA, HERMINE WERNER. SET DESIGNER’S ASSISTANTS: TATYANA RUTHERSTON, VIOLA VITALI, OUALID BOUDRAR. TAILOR: SABRINA GOMIS VALLÉE. STYLIST’S ASSISTANTS: MARTÍ SERRA, ALEXIS LANDOLFI, ANNA CASTELLANO

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