BY REIKO KUBO
気鋭の女性監督がイタリアを舞台に叙情豊かに描く、迷える男の愛の奇譚──『墓泥棒と失われた女神』
『夏をゆく人々』(2015年)、『幸福なラザロ』(2019年)のイタリア人監督アリーチェ・ロルヴァケルの待望の新作が届いた。人気ドラマ『ザ・クラウン』や映画『チャレンジャーズ』のジョシュ・オコナー演じるアーサーがトスカーナ地方の田舎町に戻ってくるところから物語が始まる。彼は、ダウジングという手法で地下に眠る古代エトルリア時代のお宝を探し当てる名手だが、どうやら盗掘の罪で刑務所に入っていたらしい。そんな彼の帰還を地元の墓泥棒仲間とアート界の闇が待ち構える。
薄汚れたスーツ姿のアーサーは、パゾリーニの1961年の作品『アッカトーネ』に登場する主人公を思い起こさせる。アーサーの婚約者の母にはロベルト・ロッセリーニの娘イザベラが扮する。その他フェリーニ、ヴィスコンティといったイタリア映画の記憶を散りばめながら、冥界に向かうアーサーの切ない愛の寓話が紡がれる。今にも崩れそうな城壁、朽ちかけた邸宅、打ち捨てられた駅舎、そこに住み着く女たちのユートピア……。紀元前に男女の別なく平等な社会を築いていたというエトルリア文明発祥の地で育った監督ロルヴァケルが、故郷を舞台にファンタジーとリアリズム、民間伝承や日本の赤い糸の逸話を織り込み、混沌とした風景から祝祭的興奮を立ち昇らせる。
『墓泥棒と失われた女神』
7月19日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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リアルかフェイクか──極秘の国家プロジェクトに挑む主人公をスカーレット・ヨハンソンが好演!『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』
1902年、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』が公開されて以来、『ライトスタッフ』(1983年)、『アポロ13』(1995年)、『ドリーム』(2016年)、『ファースト・マン』(2018年)等々、月や宇宙へ向かう映画が数多作られてきた。そして今作『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』では、宇宙飛行士ニール・アームストロングらが人類初の月面着陸を成功させた1969年の物語が描かれる。ソ連との熾烈な宇宙開発競争に遅れをとる、ニクソン大統領配下の高官が、ニューヨークからマーケティングのプロ、ケリーをNASAのPR担当として雇い入れる。アポロ11号の宇宙飛行士を「ビートルズよりも有名にする!」と息巻くケリーはNASAの発射責任者コールと対立するが……。
目的のためには手段を選ばない辣腕PR担当を、マリリン・モンローに寄せたメイクと衣装で好演するのは人気のスカーレット・ヨハンソン。一方、セクシーな肉体美を封印して実直なコールを演じるのはチャニング・テイタム。そして胡散臭い政府高官モーにウディ・ハレルソンという役者が揃い、歴史にフィクション、ラブコメと欲張りに盛り込んで人類初の月面着陸の舞台裏を物語る。
映画の後半には、物語の前年にあたる1968年に『2001年宇宙の旅』で画期的な宇宙映像を撮ったスタンリー・キューブリックが請け負ったという都市伝説も存在する極秘級プロジェクトのエピソードが仕込まれている。嘘を操って生きてきたケリーが任される国家規模の詐欺と恋の行方はいかに──!?
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』
7月19日(金)より全国の映画館で公開
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旅先で訪れる、女性にとっての悪夢と決断を描く、話題の新感覚スリラー『ロイヤルホテル』
映画プロデューサーを目指し、念願のエンターテイメント企業に就職した女性を主人公に据え、抑圧社会を告発した『アシスタント』(2019年)。この映画で注目を浴びた監督キティ・グリーンと主演ジュリー・ガーナーが新作『ロイヤルホテル』で再びタッグを組んで観客を震撼させる。ガーナーが演じるのは、親友のリブ(ジェシカ・ヘンウィック)とオーストラリア旅行にやって来たバックパッカーのハンナ。旅の途中で所持金がなくなった二人は、ワーキングホリデーの事務所に駆け込んで、バーテンダーの仕事を斡旋される。彼女たちがはるばるやって来たのは「ロイヤルホテル」とは名ばかりの、砂漠に建つうらぶれたパブだった。そこで二人を待っていたのは、粗暴な飲んだくれのオーナー(『マトリックス』のエージェント・スミスことヒューゴ・ウィーヴィング)と、彼女たちを“不機嫌なメス犬”と呼ぶ男たち。
太陽を浴びながら田舎町でのんびり働くことを思い描いていた二人の当ては大きく外れたが、それでもリブはなんとかやり過ごして報酬を得ようという。一方のハンナは下卑た笑いやボディタッチ、理不尽な叱責に神経をすり減らし、追いつめられてゆく。そんじょそこらのホラー映画よりよっぽど怖い状況に身震いが止まない。しかも映画は、この不快感と恐怖の舞台はオーストラリアの砂漠に限らず、我々の日常と地続きであると語りかける。
『ロイヤルホテル』
7月26日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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