BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY WATARU ISHIDA
城の天守閣に棲む異界の姫の、千年に一度のたった一つの恋を描いた泉鏡花の名作戯曲『天守物語』。歌舞伎としても上演を重ね、昨年は5月にこの作品の舞台である姫路城を背景とした平成中村座と12月は歌舞伎座で、主役の富姫を中村七之助、富姫に惹かれていく若き侍、姫川図書之助を中村虎之介が初役で勤めて話題となった。2024年12月の歌舞伎座では坂東玉三郎が10年ぶりに富姫を演じ、相手役の図書之助には市川團子が抜擢された。彼が描く新たな姫川図書之助に、期待が募る。
──2024年は2月の新橋演舞場から10月の博多座までスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』で主演をお勤めになられましたが、『天守物語』の姫川図書之助にはその経験が生かせましたか?
團子:初歩の初歩ではありますが、『ヤマトタケル』の経験から、台本を自分なりにこういうふうに読みたいという読み方を発見しました。本当に基礎的なことではありますが、台本に書かれていないことを読み解いて自分で作るということです。『天守物語』では、その時の経験を生かして読んでいます。役としては初めての人物を演じるので、そういう意味では真っさらな気持ちではありますが、解釈の仕方は『ヤマトタケル』での経験がすごく自分の助けになっています。
──『天守物語』の姫川図書之助の扮装姿で撮影されたとき、富姫を演じられる坂東玉三郎さんからはどんなアドバイスがありましたか?
團子:撮影の時に玉三郎さんからいろいろとご指導をいただきましたが、舞台での美意識はもちろんのこと、写真に写る上での美意識についても、教えていただきました。一つ一つのご指示が的確で、例えば手に持っている“ぼんぼり”の位置について、「ぼんぼりを舞台と同じ位置で持ってしまうと、写真では大きく写りすぎてしまうから、少し腕を自分のほうに引いて持ちなさい」と教わりました。その通り、手を引いて見ると、ぼんぼりの大きさや傾き具合など、体とのバランスが取れていて、きれいに見えました。富姫と図書之助が天守の下を見込んでいる特別ビジュアルの時も、単に下を向くのではなく「あの部分を見ましょう」と明確な指示を出して下さいました。それが写真に映し出されていくことが、すごく楽しかったです。
また、『天守物語』で使われる鬘は写実性を重視した網(メッシュ)の鬘で、僕は自分が演じる役で網の鬘をかぶるのが初めてだったので、それが新鮮でした。そして図書之助の片身替わりの衣裳がすごく好きで、それが着られたのも嬉しかったです。
玉三郎さんは撮影しているときには、“役になる”ことも大切にされていて、特別ビジュアルの時も「敵が来たと思ってみてください」とお声がけくださったり、ぼんぼりを持った図書之助一人の撮影の時も「下には何が見えていますか」などと質問をしてくださったりしました。そのおかげで役の気持ちになってスチール撮影に臨むことができました。
──姫川図書之助というお役をどう捉えていらっしゃいますか?
團子:こんなに心の綺麗な人が存在するのかというのが率直な感想です。図書之助のような人を目指して生きていきたいとは思います。稽古が始まってから、図書之助を表す言葉としてしっくりときているのは“潔い人”だということ。玉三郎さんからご指導いただいたことで見出すことができた新たな発見でした。
──お稽古が始まってから、玉三郎さんからのご指導で学ばれたことを教えて下さい。
團子:11月は歌舞伎座の千穐楽が普段よりも少し早かったので、歌舞伎座の舞台が空いているときに発声の練習をさせていただきました。お客様のいない客席を前に舞台の上から「声を発することで、その声が1、2、3階の壁にどう響いているかを自分で聞いてみなさい」とおっしゃっていただき、ご指導いただきながら実際に試してみるという貴重な稽古をさせていただきました。お客様のいない客席では、より反響を敏感に感じられるので、自分の声がどう届いているのかがとてもわかりやすく、声の響き方について、たくさんのことを学ぶことができました。
──11月は久しぶりに大学のキャンパスに行かれたと思いますが、学生生活はどんなことを楽しんでいらっしゃいますか?
團子:10月は博多座に出演させていただいたので大学のキャンパスには行っていませんでした。ですから11月は久しぶりの学校生活で友だちに会えて、すごく嬉しかったです。授業が終わると、カラオケに行って藤井風やK-POPの曲を歌ったり、ボウリングに行ったりしましたね。11月はあっという間に過ぎ去ってしまいましたが、友だちと年末に「ディズニーシー」へ行く約束をしたので、それも今からとても楽しみです。シーの街の雰囲気は素敵ですし、話題になっている新エリアにも行ってみたいと思います。
──2024年を漢字一字で表すとしたら、どの字が思い浮かびますか?
團子:「学」です。スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』や9月に京都春秋座にて挑戦させていただいた『春興鏡獅子』などの舞台から多くのことを学ばせていただきました。舞台のことはもちろん、人間的にも成長しなければならないと痛感した一年でした。僕は時間にルーズで遅刻をするなど怠惰な面があるので、そういうところを直さなければいけないと思っています。
──2025年の抱負を漢字一字で表すとしたら、どの字を選びますか?
團子:「動」です。祖父(二世市川猿翁)が「動き続けた先にはオアシスがある」と言っていたと聞いたのですが、このオアシスには休むという意味だけではなく、頑張り続けることで新しい境地が見えてくることを意味していると僕は解釈しています。そういう意味で動き続けている1年にしたいです。
──初日を迎えて 12月9日に電話で取材
実際に舞台に立つことで、どんなことを実感されていますか?
團子:図書之助を演じる時に、エネルギーをぐっとお腹にとどめた上で、そのエネルギーをじわじわと出すという感覚を経験をしました。これは、いったんとどめておいた、燃えるようなエネルギーを少しずつ出すことで、武士らしさを表現できるのだと教えていただき、気づくことができました。
9月に経験させていただいた『春興鏡獅子』にも通じるものがありまして、前半の弥生という女方を演じる際は、小姓として抑えて、抑えて踊るのですが内にあるエネルギーはそれぞれ違うものの、じっくりと放出するという点では今演じている図書之助に近い感覚があったのかもしれないと改めて思いました。
──図書之助の台詞を舞台で発してみて、何か気づいたことはありましたか?
團子:玉三郎さんが演出された泉鏡花の世界で、どのように台詞を語るかは、僕にとってとても難しいことです。鏡花の戯曲はとても繊細に構築されているので、ちょっとした声の大きさやトーンなどのニュアンスが違うと意味が変わってしまいます。ほんの1ミリの違いでも影響が及ぶという雰囲気です。毎日同じにはできないですが、それを目指して舞台に取り組んでいます。
──玉三郎さんからは何かお言葉はありましたか?
團子: 「今日はこういうところの台詞の音が流れてしまっていました」とか、「ここの感情はよかったから、その気持ちは忘れないように」とか、毎日フィードバックしてくださっていて、とてもありがたいです。
──玉三郎さんの富姫と対峙されてどんなことを感じていらっしゃいますか?
團子: 玉三郎さんは、僕が演じる図書之助を相手に富姫の台詞を投げかけてくださっていることが、すごく伝わってきます。繊細な声の発し方一つとっても、本当にいろいろな音色を分けて使われ、相手に“こうでしょう”とセリフを渡す。単語の1つ1つを途切れることなく、しっかりと、消えることなく伝える。いかに音や単語を正確に伝えることが大切なのかということを日々実感しています。
十二月大歌舞伎
第一部 11:00開演
発刊30周年記念『あらしのよるに』
二代目澤村精四郎襲名披露
第二部 15:00開演
一、 盲長屋梅加賀鳶『加賀鳶』本郷木戸前勢揃より赤門捕獲まで
二、『鷺娘』
第三部 18:20開演
一、『舞鶴雪月花』
上の巻 さくら
中の巻 松 虫
下の巻 雪達磨
二、『天守物語』
※市川團子さんは、
第三部『天守物語』に出演。
会場:歌舞伎座
住所:東京都中央区銀座4-12-15
上演日程:2024年12月3日(火)〜26日(木)
問い合わせ:チケットホン松竹 TEL. 0570-000-489
チケットweb松竹
山下シオン(やました・しおん)
エディター&ライター。女性誌、男性誌で、きもの、美容、ファッション、旅、文化、医学など多岐にわたる分野の編集に携わる。歌舞伎観劇歴は約30年で、2007年の平成中村座のニューヨーク公演から本格的に歌舞伎の企画の発案、記事の構成、執筆をしてきた。現在は歌舞伎やバレエ、ミュージカル、映画などのエンターテインメントの魅力を伝えるための企画に多角的な視点から取り組んでいる。
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