かつて自分をスターに押し上げてくれたあの役を再び演じる日までは、決して挑戦をやめない、と語るグレン・クローズ。スター女優としてすでに輝かしい業績を手にした彼女のロングインタビューをお届けする。

BY NICK HARAMIS, PHOTOGRAPHS BY JOSHUA WOODS, STYLED BY DELPHINE DANHIER, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

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 クローズがほかのスターたちと違うのは、ほとんどあり得ない確率で、現在でもアウトサイダーであり続けているということだ。エミー賞を3回受賞し、さらにトニー賞とゴールデン・グローブ賞も3回ずつとっていながら、彼女はいまだにダークホースだ。ミュージカル演劇出身の経歴をもつドラマチックな女優であり、撮影用のカメラが回っていない場所では恥ずかしがり屋の性格なのに、いざ撮影となると魅惑的な魔性の女に変身する。さらに主演女優でありながら、何度も無視されてきた(アカデミー賞無冠だが、これまで同賞に8回ノミネートされている。これは無冠の女優としては最多ノミネート記録だ)。彼女が演じて人気を博した役柄の中には、決して派手ではないキャラクターも多い。たとえば映画『危険な関係』(1988年)で復讐の陰謀を企む侯爵夫人。また、映画『天才作家の妻―40年目の真実―』(2017年)でノーベル文学賞を受賞した作家である夫の小説を自分が執筆したことを世間には秘密にし、誰からも顧みられることがないジョーン・キャッスルマンもそうだ。そして、そんな落ち着いた役柄を演じるときも、彼女の演技は圧倒的で、パティ・ルポーンやバーナデット・ピーターズやそのほかの大物舞台女優たちに共通するような、とてつもない演劇の才能を感じさせる。彼女の演技は、役によっては、大げさで芝居がかりすぎていると感じられるかもしれない――たとえば映画『101』(1996年)やその続編でのクルエラ・デ・ヴィル役の演技は、虚栄に満ちた悪女っぽさがドラァグ的と言えるほどだったし、また、ある映画のプレミアの会場では彼女が完全に役になりきって登場したこともある――だが、不思議なことに、役にとことん没入する彼女の集中力のすさまじさのおかげで、観客は彼女のキャラクターをより身近に、より人間らしく感じることができるのだ。力まず自然体であることが重視される今の時代においては、がむしゃらになったり、仕事の質にこだわりすぎているように他人から見られてしまうことを、格好悪いと感じてしまう人たちもいる。そんな中で、クローズは演技にどれだけ情熱を注ぎ、スキルを磨いているのかを、常に私たち観客に惜しげもなく見せてくれる。彼女はそうせずにはいられないのだ。「舞台上で演じる仕事というのは、基本的に小さな分子をつなぎ合わせるようなものだと思うに至った」と彼女は私に言う。「まずエネルギーを放出する場を自分でつくり上げる必要があるんだけど、それには文字どおり、筋肉と腱を使ってぐっと力を込める必要がある。一方、映画の場合は、エネルギーを向ける方向をしっかり見極める必要がある。それを体得するまでは、カメラを実際に吹き飛ばしてしまうんじゃないかと思うぐらい、力を込めていた」

 力強い演技力と求心力で知られる彼女だが、同時に、クローズほどスクリーン上で無防備に感情をむき出しにして、完膚なきまでに崩れ落ちる姿を見せてくれる役者はいない。しかも、壮絶な中にも感情の機微を細かく表現する柔軟さを忘れないのだ。たとえば、30代のエイズ患者が死を迎えるために実家に帰る様子を描いたクリストファー・リーヴ監督作品の『フォーエヴァー・ライフ 旅立ちの朝』(1997年)や、ヘロイン依存症者を描いたロドリゴ・ガルシア監督の『フォー・グッド・デイズ』(2021年)、さらに、フィンランドの離島で母親の死を悼む9歳の少女を描いたチャーリー・マクダウェル監督の『The Summer Book(ザ・サマー・ブック)』(2025年、日本未公開)など、繊細な人間関係を描いた作品の中で、クローズは傷ついて弱った子どもたちの母親や祖母の役を演じてきた。人生の荒波にもまれて苦しむ登場人物たちが、再び力を取り戻すのを助ける役目だ。2025年12月からNetflixで放送開始の『ナイブズ・アウト』ミステリーシリーズの第3作『ウェイク・アップ・デッドマン』で、ライアン・ジョンソン監督(51歳)はクローズをマーサ・デラクロワ役に抜擢した。ニューヨーク州北部の小さな町の教会の管理人の役だ。ジョンソンいわく、彼女は、突拍子もない行動をとるキャラクターや、頑固で扱いにくい性格の役柄でも、見事に自分のものにしてしまうという。「もしほかの俳優が演じたら、やりすぎて誇張になってしまいかねない役なんだ」と彼は言う。「彼女なら(マーサの)面白さや魅力を存分に表現できるし、同時に人間臭さも伝えられるとわかっていた」

 クローズは「私たちのことを私たち自身に説明するため」に女優になったと語る。彼女は1987年公開のサスペンス映画『危険な情事』でアレックス・フォレスト役に起用された。書籍編集者の女性が既婚者の弁護士(マイケル・ダグラス)と週末に不倫関係になり、それ以降、彼女は彼に執着していくという筋書きだ。主人公は執着が強すぎるあまり、彼の娘のうさぎを鍋で煮るという行動に出る。クローズは境界性パーソナリティ障害の専門家に相談し、そんな極端な行動をすることが現実にありうるのかと聞いた(彼女は、専門家から「ありうる」という回答を得た)。このアレックス役は、あるタブロイド紙によれば「全米で最も憎まれた女」となったが、クローズはこの役をいつも違う視点から見ていた。アレックスを近親相姦の被害者であり、サバイバーだと想像していたのだ。「彼女はセックスとは何かを知る前にすでに、性的対象物のように扱われてきた」と彼女は言う。「そして彼女は何よりも自己嫌悪にさいなまれている」。ジョージ・ムーアの短編小説『アルバート・ノッブス』をもとにした舞台劇をクローズは1982年に演じており、さらに2011年に彼女が共同脚本執筆者として製作した映画『アルバート氏の人生』で、クローズは19世紀のアイルランドを舞台に、男性になりきり、執事として生きる主人公を演じた。彼女いわく、映画を観た観客はこの役柄をレズビアンかトランスジェンダーの女性だと即座に決めつけたがったという。だが、クローズにとってアルバートは「まだ成長途中の人間」であり、そう捉えるほうが面白いと感じていた。

 これまで実に幅広い役柄を演じてきたクローズ。特に彼女が近年演じた役柄の多くは、見栄をかなぐり捨てなければ表現できないキャラクターばかりだ。そんな彼女の選択を見ていると、勇敢で好奇心にあふれているだけでなく、ハリウッドで生きる女性の現実を目のあたりにする。特に、歳をとった自分自身を画面にさらすことを拒絶しない俳優の心意気を感じる。#MeToo運動やそのほかの軌道修正がエンターテインメント業界で起こるなか、今の時代は、年輪を重ね、かつ輝かしい業績を打ち立ててきた女優たちにとって、かつては存在しなかったような活躍のチャンスがたくさんあふれている。80歳のヘレン・ミレンや95歳のジューン・スキッブがアクション映画のヒーローを演じる時代なのだ。一方で、クローズと同年代の男性同業者たち(ジョン・マルコヴィッチやジェフ・ブリッジス)のうちの誰かが、キム・カーダシアン主演、ライアン・マーフィー監督のドラマ作品にレギュラー出演するかと考えると、それはちょっと想像できない。クローズやほかの女性スターたちにとって、多種多様な仕事を引き受けて経歴の幅を広げることは、単に挑戦することを選択しているというだけではない。それ自体がキャリアの保険なのだ。クローズは、2024年に公開されたオカルト・メロドラマ映画の『デリヴァランスー悪霊の家―』で、バイレイシャルでアルコール依存症の娘を持つ、信心深い白人の母親を演じた。この役は当初、テレビ司会者であり女優のオプラ・ウィンフリーが演じる設定だったが、65歳の監督のリー・ダニエルズいわく「悪霊が身体に乗り移る」と信じるオプラに出演を断られたそうだ。クローズは最初、自分の「垂れ下がった二の腕」と「お腹まわりの脂肪」を露出しなければならないアルバータ役に躊躇したが、実際に演じてみると、自分自身が解放されたような気がしたという。「アルバータはあらゆることに体あたりして豪快に生きている。そこが大好き。自分とは正反対の人間だけど、ものすごく素晴らしいと思う」と彼女は言う。「白人でアングロサクソンでプロテスタントの人間ほど退屈なものはないから」

 監督のダニエルズは、性に奔放な未亡人の役にクローズを起用することに神経質になっていた。しかし、彼は言う。「彼女は僕と一緒に崖から飛び降りる気持ちで引き受けてくれた」。一方、インターネット上ではクローズの演技を巡って炎上も起きた。特に悪魔払いのシーンで、周囲の空気をかぎまわりながら、残忍で挑発的な台詞を吐く際に、冒瀆的な言葉が含まれていることに抗議の声が上がった。ダニエルズはこう語る。「僕は彼女にこう言ったんだ。『あなたはこの白人女性に、とびきりの自信を与えている。きっと観客から愛されるよ』」。クローズは、もしNetflixがこの冒瀆的な台詞をカットするなら、映画の宣伝活動には参加しないと断言した。彼女がアルバータ役をやりたいと思った一番の理由は、少なくとも初期の段階では、彼女のことが理解できなかったからだと言う。「私、批評はあまり読まないけど、いくつかの記事では『彼女はやりすぎだ』とかなんとか書かれていた。私は『ふざけんな』って思ってた」と言う。「監督のリーが電話してきて、『黒人であれば誰でも、こういう白人女性をひとりは知ってる。でも、白人たちは彼女を理解できない』って。まさにそのとおりのことが起こったってわけ」

 クローズはこれまで70本以上の映画に出演してきたが、ほかのどんな役柄よりも彼女にとって重要で――かつ、彼女自身の内面を誰よりも教えてくれた――のは『サンセット大通り』のノーマ・デズモンドだ。無声映画時代に活躍した年老いた女優で、銀幕に現役復帰するためなら何でもやるという役だ。ビリー・ワイルダー監督の1950年の映画で、グロリア・スワンソンがこの役を演じたのが最初だ。批評家のモリー・ハスケルはスワンソンの演技を「発情したイタチのように、優美さと威厳をかなぐり捨てて野性的に体あたりした」と評している。また、ジェイミー・ロイド演出の、極限までそぎ落とされたブロードウェイ版『サンセット大通り』でノーマを演じ、今年、トニー賞を受賞したニコール・シャージンガーは、この役を、自分には特別な才能があると信じ込んでいる世捨て人――つまり、ハリウッド・スタジオという制度にとらわれた"リアル・ハウスワイフ" 的な存在として演じた。一方クローズは1994年にブロードウェイで初上演された『サンセット大通り』でノーマを演じたときにトニー賞を受賞しており、2017年の再演でも同じ役を演じている。彼女はノーマがもつ精神面の複雑さを舞台で披露した。ほかの女優たちが、現実を受け入れられないプリマドンナの華美さに重きを置いて演じるなか、クローズはより悲しみに満ちた人間らしさを捉えるのに没頭した。「偉大なアーティスト」がもう一度必ず観客たちの心を夢中にしてみせると固く信じ、その思いにすがりついている姿だとクローズは言う。「彼女が女優のキャリアを失ったのは、声がヘンだったからではない。時代とともに映画業界が変わり、彼女が歳をとりすぎたからキャリアに終止符が打たれた。すべてを手に入れたのにそれがいきなり奪われてしまうなんて、想像できる?」。何十年もの間、クローズは映画『サンセット大通り』のリメイク版を製作しようと奔走してきたが、年齢差別の壁や製作システムの変更に翻弄されると同時に、製作費が莫大にかかるミュージカル映画の製作に後ろ向きなハリウッド・スタジオを説得しなければならないという難問にぶちあたってきた。それでも、クローズが計画は今も進行中だと言えば、私たちは彼女の言葉を信じてしまう。誰もがそれを観たいからだ――ノーマはクローズが人生を懸けて演じるに値する役であることは明らかだし、この役を演じることは、彼女にとって、アカデミー賞を獲得できる最大のチャンスかもしれないからだ。そして、キャリアの駆け出しの頃から、クローズは仕事の機会や業績を誰かに奪われないように、闘ってこなければならなかったからだ。――Vol.3に続く

PRODUCER: SHAY JOHNSON STUDIO. PHOTO ASSISTANTS: SHEN WILLIAMS-COHEN, KYLE NIEGO. TAILOR: OLIVIA NIEGO. MANICURIST: ALEXA GROUEFF. STYLIST’S ASSISTANT: KATEY KABU-KUBI

※カタカナの人名表記は、編集部の判断により日本で広く使われている表記を使用しています。

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