BY REIKO KUBO
トム・クルーズが傲慢な石油王に!世界を揺るがすブラックコメディ『DIGGER/ディガー』

© 2026 WBEI and Legendary
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント:蘇えりし者』でアカデミー監督賞を2年連続受賞した、メキシコ出身の映画監督アレハンドロ・G・イニャリトゥが、世界を支配する側の論理を描く大仕掛けのブラックコメディ。石油採掘会社のCEO、ディガー・ロックウェル(トム・クルーズ)は、グリーンランドでの無謀な掘削によって、ヨーロッパを壊滅させかねない危機を招く。ところが、彼や大統領をはじめとする政治家たちは、責任を引き受けるどころか、ビジネスと権力の維持に躍起になる。また、危機に瀕したヨーロッパの首脳陣も、無策のまま右往左往するばかり。
2度のアカデミー賞に輝くカズ・ヒロによる特殊メイクで、トム・クルーズはヒーロー的な身体を捨て、傲慢で孤独な老権力者へと変貌。長大なモノローグを含む大胆な演技で、自己欺瞞そのものを肉体化する。そのほか、『バートン・フィンク』のジョン・グッドマン、『ゴールデン・リバー』のリズ・アーメッド、『落下の解剖学』のザンドラ・ヒュラー、『ブゴニア』のジェシー・プレモンスら、個性派スターが顔を揃える。

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ロイ・アンダーソンを思わせる、絵画のような奥行きを誇る映像美と、ラテンアメリカ的なメタ構造を際立たせるのは、イニャリトゥの盟友エマニュエル・ルベツキのカメラと、コーエン兄弟の作品や『ブレードランナー 2049』などを手がけてきたデニス・ガスナーによるプロダクション・デザイン。壮大な映像で寓話性を際立たせながらも、赤いネクタイの大統領(ジョン・グッドマン)、ロックフェラーを思わせるディガーの姓など、アメリカの政治と巨大資本を風刺するネタ満載の本作は、ハリウッド資本とスターを投入したイニャリトゥ版『サウスパーク』という趣か。欧米では評価が大きく分かれているが、メキシコと同じく大国の論理に翻弄されてきた日本の観客は、より本作を味わえるのではないだろうか。
そもそもイニャリトゥは、この脚本を9年前から書き始めたという。だが、その間に地球環境の悪化はフィクションを追い越してしまった。海面上昇による洪水、未曾有の猛暑、山火事、そして止まない紛争。そんな現実に囲まれて見ると、大画面に映し出される風景が、引きつった笑いと「明日かもしれない」という恐怖を運んでくる。
映画『DIGGER/ディガー』オフィシャルファイナル予告|2026年10月9日(金)全国ロードショー
www.youtube.com『DIGGER/ディガー』
10月9日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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沢田研二×長谷川和彦、47年を経ても色褪せない伝説的傑作『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』

©1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.
今年1月に惜しくも鬼籍に入った長谷川和彦の監督第2作にして、最後の長編監督作品となった『太陽を盗んだ男』。1979年公開の破格のエンターテインメントが、撮影監督・鈴木達夫の徹底監修による4Kデジタルリマスターで甦る。
コチコチと音を立てる起爆装置。対岸の原発から沸き起こるキノコ雲、そこに重なる真っ赤な太陽。その光景を双眼鏡で眺めているのは、ジュリーこと沢田研二だ。沢田演じる城戸誠は、満員電車に押し潰されながら都内の中学校へ通う一介の理科教師。だが密かに原子力発電所から液体プルトニウムを強奪し、手作りの原爆を完成させて国家を相手に孤独なテロルを開始する。携帯電話もSNSもなかった時代。城戸は、国家に電話やラジオの生放送を通して「プロ野球中継を最後まで放送しろ」「ローリング・ストーンズの来日を実現しろ」といった要求を突きつけ、交渉相手に菅原文太演じる山下警部を指名する。

©1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.
レナード・シュレイダーと長谷川和彦による脚本で、広島生まれで自らも胎内被爆者だった長谷川が描く主人公・城戸は、核を手にした加害者でありながら、自らも被曝し、身体を蝕まれていく。被害者と加害者を単純に切り分けられない現実を、ひとりの人間の身体に刻み込んだ長谷川の鋭い眼差しが、本作を単なる狂気のエンターテインメントのままでは終わらせない。
昭和の新宿や渋谷の喧騒、皇居坂下門前や国会議事堂に潜入しての撮影、首都高をはじめとする公道でのカーチェイス、日中の賑わいを丸ごと利用した百貨店のシーンなど、驚きのゲリラ撮影の数々。スクリーンには、沢田研二と菅原文太、そして助監督として参加した相米慎二、制作スタッフとして参加した黒沢清ら、後に日本映画界を担う若き才能たちの狂おしい熱量が炸裂する。1970年代の閉塞した空気をはらむ社会を背景に浮かび上がる、狂気と孤独と虚無。半世紀近くを経たいまも色褪せないアナーキーな青春の咆哮を劇場で体感してほしい。
映画『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』新予告【10月16日(金)公開】
youtu.be『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』
10月16日(金)全国公開(2週間限定上映)
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20年の時を越え、兄と家族の記憶をたどる珠玉作『Blue Heron/ブルーヘロン』

© 2025 NINE BEHIND PRODUCTIONS LTD. BODDAH RIOTFILM KFT.
第50回トロント国際映画祭で最優秀カナダ映画新人賞に輝いた、カナダの新星ソフィー・ロムヴァリの初長編監督作。1990年代後半の夏、8歳のサーシャは、ハンガリー系移民の家族とともにカナダ・バンクーバー島へ移り住む。自然に囲まれた一軒家での暮らしが始まるが、長兄ジェレミーの不安定な行動が、穏やかな家族の日常に混乱をもたらしていく。20年後、映画監督となったサーシャは、カメラを手に、あの夏の記憶をたどり始める――。
淡い光に包まれた夏の時間、家族の間に漂う言葉にならない緊張、ジェレミーの寂しげな微笑み。サーシャが過去と現在を行き来する“タイムマシーン”のスイッチとなるのは、兄からもらったブルーヘロン(青鷺)のキーホルダーと、彼が遺した手書きの地図だ。

© 2025 NINE BEHIND PRODUCTIONS LTD. BODDAH RIOTFILM KFT.
映画には、シャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』へのオマージュとして、母と娘がジャガイモの皮をむく場面が登場する。そこには家事労働だけでなく、家族のわだかまりや負の感情までを引き継ぎ、自分が解決しなければならないというプレッシャーが、母から娘へと受け渡されていく構造が刻まれている。
しかし、20年の時空を行き来したサーシャは、家族から何を受け継ぎ、何を手放すのかを問い直し、“わからなさ”を抱えたまま過去を受け入れる道を選ぶ。ダニエル・ジョンストンの曲に包まれたエンディングは、切なさを抱えながらも、確かに光のほうへと向かっていく。その静かな余韻が胸をじんわりと締めつける珠玉作だ。
ソフィー・ロムヴァリ監督『Blue Heron/ブルーヘロン』本予告編
www.youtube.com『Blue Heron/ブルーヘロン』
10月23日(金)、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマリスほか全国順次公開
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