モデル業のみならず、チャリティや女性の地位向上を目指す社会活動でも大きな注目を浴びるアジョワ。2018年2月、ロンドン・ファッションウィークでの大活躍ぶりを追った
BY OSMAN AHMED, PHOTOGRAPHS BY ASH KINGSTON, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
2月16日金曜日の朝、NYからの深夜便でロンドンに降り立ったモデルのアジョワ・アボワーは、そのままロンドン・ファッションウィークの真っただ中に踏み込んでいった。ふだんはニューヨークのブルックリンに住んでいる彼女だが、ロンドンにいるときはノッティング・ヒルにある家族のもとで過ごす。両親の住むその家に少しだけ立ち寄り、モリー ゴダードのチュールドレスに着替えると、ロンドン・ファッションウィークの公式会場である180ストランドへ向かった。そこで彼女は、モデルの待遇について、多様性について、そして若き才能をサポートすることの大切さについて、熱いスピーチをした。アジョワは、英国ファッション協会が推進する「ポジティブ・ファッション」キャンペーンの新しいアンバサダーを務めているのだ。
売れっ子モデルであるにもかかわらず、アジョワは社会運動家としての仕事を優先しており、モデルの仕事は二の次だ。彼女の関わるプロジェクトのリストは多岐にわたる。女性の地位向上とメンタルヘルスへの理解を得るために彼女が立ち上げたチャリティ団体「ガールズ・トーク(Gurls Talk)」に、タイムズ・アップ運動やセーブ・ザ・チルドレンでの活動。自身が出演しているバーバリーの広告では、フォトグラファーのユルゲン・テラーとともにアート・ディレクションを手がけ、英『VOGUE』誌のコントリビューティング・エディターとして月に一度コラムを執筆している。そしてこれからの数週間は、新進の若手からベテランデザイナーまで多くのファッションショーのランウェイを歩く。ここロンドンでは、そのデザイナーたちの多くは彼女の友人だ。
演説台を降りるとすぐに、フィッティングとショーの1日が始まった。その合い間にチャンスを見つけては、車の中で仮眠をとる。まずは新進デザイナーのアシュリー・ウィリアムズの家へ。アジョワの友人でもあるアシュリーは、フィッティングをハックニーにある自宅で行うことにした。彼女のアトリエは物があふれているためだ。アジョワが到着すると、スタイリストのジュリア・サー・ジャモアがタイダイ染めのフーディトップスをとり出した。そこには「知ったこっちゃないさ」の文字がプリントされている。ちょうどあくびをかみ殺していたアジョワを見て、「まさに今のあなたのことね」と彼女のエージェント、シアン・スティールがからかう。スパンコールのついたジャケットが、アジョワの目に留まった。「これ、月曜日にバッキンガム宮殿で開かれるレセプションに着て行ってもいい?」とアシュリーに聞くアジョワ。「前にバッキンガム宮殿に行ったときは、黄色いジャージの上下を着てテート美術館のお土産売り場からそのまま行ったんだよね」
続いてアジョワが向かったのは、ショーディッチにあるトルーマン・ビール醸造所跡地。ここでは、イギリス北部のヨークを拠点とするデザイナー、マティ ボヴァンのフィッティングをした。マティ ボヴァンもアシュリー ウィリアムズも、この日の夜にショーを開催するのだが、その前にアジョワは時間の合い間を縫ってバーバリー本社ビルに出向いた(その途中でサンドイッチ屋のプレタマンジェにも立ち寄った)。翌日の夜に予定されているバーバリーの大規模なショーの最終フィッティングをするのだ。これは、クリストファー・ベイリーがバーバリーのクリエイティブ・ディレクターとして手がける最後のショーとなる。いかにも会社然としたバーバリー本社ビルに入ると、洗練された受付エリア一面を覆う巨大なアジョワの写真が。彼女は自分の写真の前でポーズをとってくれた。この広告写真で唯一修正したのは、彼女が前歯につけているダイヤモンド製のシャネルのロゴマークを消したことだけだ。「このトゥースジュエリーは3年前につけたの」と笑うアジョワ。「これの前は、『PLAYBOY』のウサギマークをつけていたわ」
上階では、クリストファー・ベイリーがアジョワを温かく迎えた。「今ではもう、この服については僕より君の方がよく知っているだろうね」と冗談を言うデザイナー。最新コレクションの中のいくつかのアイテムを、アジョワはすでにファッションウィーク中のニューヨークで着ていたのだ。「彼は天才だと思う」と、アジョワは後でベイリーについて語った。彼の発表したレインボーカラーのコレクションは、LGBTQ+コミュニティに捧げられたものだ。ショーで、アジョワはグラフィティ・アートが描かれたシアリング素材のフーディトップスとフルレングスのスカートを着る予定になっており、そのスカートの裾は、彼女がつまずかないようわずかに裾上げされることになった。
だが今は、金曜日の話に戻ろう。マティ ボヴァンのショーを歩いた後、アジョワはバイクタクシーに飛び乗り、ウェストミンスター大学で行われるアシュリー ウィリアムズのショーへ。そこで「知ったこっちゃないさ」フーディを着てランウェイを盛り上げた。特に彼女が興奮したのは、ロンドン市長サディク・カーンがバックステージを訪れ、彼の娘たちを紹介したとき。そして家に帰る時間がやってきた。タイ風グリーンカレーを食べ、少し編み物をして、ユーカリとラベンダーの香りに包まれた長いバスタイムを過ごすのだ。
翌日、アジョワは『VOGUE』の撮影のために早起きをして、それから親友のカーラ・デルヴィーニュに会いに、彼女の宿泊するメイフェアのホテルへ向かった。そこでシタビラメとマッシュポテトのランチをともにした後、二人は運転手付きの車に乗り込んでバーバリーのショーが開催されるディムコ・ビルディングへ。客席には、アジョワに声援を送ろうとやってきた彼女の両親、チャールズ・アボワーとカミラ・ローサーの姿も。さらにナオミ・キャンベルとケイト・モスもいて、二人はフィナーレでアジョワが歩いてきたときには歓声をあげていた。
ショーの後、アジョワはカーラとダンスに出かけ、自分へのごほうびとして「おいしいタバコ1本とコカコーラ1杯」を楽しんだ(立派なことに、彼女は禁酒中なのだ)。ホームであるロンドンに戻り友人たちに囲まれて、彼女は存分にくつろいでいた。彼女は言う。「楽しいことをしないと、四六時中仕事をしているような気分になっちゃうでしょ」