ウォッチジャーナリスト高木教雄が、最新作からマニアックなトリビアまで、腕時計にまつわるトピックを深く熱く語る。第4回は、21世紀の機械式時計を語るうえで、欠かせない新素材と技術の話。 “シリコン”と“カーボン”が切り拓く新境地とは?

BY NORIO TAKAGI

 オシレーターはダイヤルの開口部とほぼ同サイズと巨大だが、極めて薄くて軽量。弾性が高いシリコン製ビームと相まって、毎秒36振動という超ハイビートを刻む。つまり、1秒間を36等分してカウントしていることを意味する。通常の機械式ムーブメントで、最も多用される振動数は毎秒8振動。それよりもオシレーターは4.5倍も精密に1秒間を計測し、かつてない高精度を実現した。またハイビートは外部からの衝撃にも強く、またシリコン製だから磁気帯びもしない。機械式時計の調速・脱進機構としての、まさに理想形だと言えよう。

 このオシレーターで脱進されるガンギ車が、ダイヤル6時位置に姿を見せている。これもシリコン製で、形状は歯車というよりもビームの集合体と呼ぶ方が適切なほどに特殊。ビームの弾性で毎秒36振動の超ハイビートによる衝撃を受け止めることで、ゼンマイで駆動する歯車は、正しく制御されるのである。

画像: タグ・ホイヤー「オータヴィア アイソグラフ」※ 価格、販売未定 往年のクロノグラフの傑作の世界観そのままに三針に仕立て直し、コンポジット製ヒゲゼンマイを採用した。ブルーグラデーションのダイヤルが、美しい <ケース径42mm、SS、自動巻き、カーフストラップ> LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー TEL. 03(5635)7054 COURTESY OF TAG HEUER

タグ・ホイヤー「オータヴィア アイソグラフ」※ 価格、販売未定
往年のクロノグラフの傑作の世界観そのままに三針に仕立て直し、コンポジット製ヒゲゼンマイを採用した。ブルーグラデーションのダイヤルが、美しい
<ケース径42mm、SS、自動巻き、カーフストラップ>
LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー
TEL. 03(5635)7054
COURTESY OF TAG HEUER

 ゼニスが、オシレーターで調速・脱進機構をまったく新しくしたのに対し、タグ・ホイヤーは、既存のムーブメントに載せ換えられる新素材のヒゲゼンマイを今年発表した。用いたのは、カーボンナノチューブをアモルファス(非晶質)カーボンで連結した、カーボンコンポジット。シリコンと同等、あるいはそれ以上の超精密成型ができ、理想的な振動を生むカーブ形状が得られるという。また独自の成型技術により、量産も可能とした。

画像: カーボンコンポジット製ヒゲゼンマイとアルミ合金製テンワとを組み合わせた、新調速装置「アイソグラフ」。最適な温度特性と空気抵抗を兼ね備える COURTESY OF TAG HEUER

カーボンコンポジット製ヒゲゼンマイとアルミ合金製テンワとを組み合わせた、新調速装置「アイソグラフ」。最適な温度特性と空気抵抗を兼ね備える
COURTESY OF TAG HEUER

 主材であるカーボンナノチューブは密度が低く、ヒゲゼンマイを金属やシリコン製よりも軽量にする。結果、耐衝撃性は飛躍的に高まり、重力の影響も受けづらいため精度も高まる。さらに温度変化に強く、磁気帯びもしない。このカーボンコンポジット製ひげゼンマイを、高度にチューンナップしたアルミ合金製のテンワと組みあわせ、既存ムーブメントの「キャリバー5」のテンプと置換。それを搭載する新作「オータヴィア アイソグラフ」は、これまでの「キャリバー5」搭載モデルよりも優れた等時性を得て、公的機関による試験・認定制度で高精度であることが認められるCOSCクロノメーターも取得してみせた。

 17世紀に基本原理が確立された機械式時計は、21世紀の新技術と新素材とで、より高性能で高精度に進化を果たした。

高木教雄(NORIO TAKAGI)
ウォッチジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象に、各誌で執筆。スイスの新作時計発表会の取材は、1999年から続ける。著書に『「世界一」美しい、キッチンツール』(世界文化社刊)があり、時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ』(幻冬舎刊)も監修

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