BY MINAKO NORIMATSU
ルーシーと、ルーク。公私ともにパートナーであるこのふたりは、すべてを一緒に行うという。彼らのクリエーションの基本は、果てしない会話。「どんな環境をイメージする? 生地は?」。話せば話すほど会話は深みを増し、食い違いはほとんどない。ルーシーが「いいもの、たとえば最上のピーコート。何年間も着られる一点。これこそサスティナブルね」と言うと、「特別なクォリティを生み出すのは、時間。背景に手間が感じられるものこそが、最高の贅沢品だ」と、ルークが言葉を添える。時間をかけて作り、時間をかけて着る。そんな考えが、ルーシー&ルーク・メイヤーというデュオの神髄である。
そして今「ジル サンダー」のアイデンティティは、よりはっきりと輪郭を表すようになった。ユニセックスなアイテムを多数含むメンズとウィメンズの新ライン「ジル サンダー +」が加わったのだ。「イメージするのは、メインラインと同じ人物像」と、ルークは断言する。「そう。延長線だから、+(プラス)。コンフォタブルで機能的な服作りは一貫しているわ」と、ルーシー。
「ジル サンダー +」の舞台は海や山といった自然。ふたりはカントリーサイドでの週末のため、マッキントッシュとのコラボレーションによるレインコートや、がっしりしたレインブーツを詰めたバゲージを想定する。一方では家の中のくつろぎの一角、たとえば暖炉のそばで過ごすひと時のためには、ブランケットやシルクのパジャマも忘れずに。「自然の中に身を置くときは、街で過ごすときとはアティチュードも美意識も違う。僕たちがデザインするときは、環境をまず考えるんだ」とは、ルーク。
それぞれが森や山、そして海または湖に近い環境で育ち、“自然”に親しんできたふたり。彼らが言う自然は、表面ではなく本質、つまり雨や風、暑さや寒さなど、厳しい一面も含んでいる。「自然の心地よさは、ソフトなカシミアで表現。一方タフな部分は、たとえば未加工のローシルクで」。これは、彼らが言うところの“偽りのないファブリック”だ。柔らかく見える素材は限りなく柔らかく、ラフな様相のものは粗い手ざわり。シルクにしてもウールにしても、大切なのは混じり気のない、ピュアな素材であること。「本来の特徴が最大限に生かされた素材が好きだ。自然とは複製できないもので、不完全なよさがある。100%ナチュラルな素材にも、同じことがいえる」と、ルークは続けた。
植物染めやリサイクルのコットンとカシミアを素材として用いた「ジル サンダー +」は今年4月、ミラノサローネの期間に市内のジル サンダー本社で披露された。ジャンルを超えるアーティスト、リンダ・テグによる、ミラノの空き地で摘んだ野生の草木を使ってのインスタレーションという設定で。「インダストリアルなスペースを、自然が縦断する。僕たちにとって最適な環境だ」と、ルーク。またエコロジーへの意識が高い彼らは、植物の一部を元の地に戻し、残りは本社にスペースをつくって植え替えた。ビジュアルだけでなく、もっとディープなところで彼らが愛する自然と共存する。「ジル サンダー +」は、そんな考えを体現した服だ。