「ノルウェージャン・レイン」は、欧州きっての降雨都市、ノルウェーのベルゲンを拠点とするレインライフスタイルレーベル。東京・神田の昭和初期に建てられた元ガラス問屋をリノベーションしたショップが、オープン5周年を迎えた。ある大雨の日、デザイナーのT-マイケルとクリエイティブ・ディレクターのアレキサンダー・ヘレに話を聞いた

BY NAOKO ANDO, PHOTOGRAPHS BY HIROAKI SUGITA

画像1: ジェンダーレスでオーガニック。
ファッションの未来を見据える
「ノルウェージャン・レイン」

1年300日は雨が降る地で生まれたレインウェア

「ノルウェージャン・レイン」のシグネチャーアイテムは、レインコートとポンチョを組み合わせた「レインチョ」だ。防水性や撥水性、通気性に優れた機能性の高いフード付きのレインウェアで、バッグやリュックの上から着用できるように身幅が大きめに作られている。そのため、かなりの雨でも傘なしで快適に外歩きができる。ベルトでシルエットを自由に変えることができ、スタイリッシュなアウターとしても活躍する。

 取材当日、花散らしの風と雨が吹き荒れるなかずぶ濡れでショップに辿り着くと、「今日はインタビューにもってこいの日だね」と笑顔で迎えられた。

「私たちの故郷、ノルウェーのベルゲンは、1年のうち300日は雨が降るといわれています。雨は日常的で、親しむべきもの。人をクリエイティブにしてくれます」と、クリエイティブ・ディレクターのアレキサンダー・ヘレ。

 雨の日にもっと親しみ、楽しめるような服を作りたい。そう考えてヘレが声を掛けたのが、ノルウェーでテーラーとして活躍するT-マイケルだ。

画像: 左/デザイナーのT-マイケル。右/クリエイティブ・ディレクターのアレキサンダー・ヘレ。2人が着ている服はすべて「T-マイケル」のもの

左/デザイナーのT-マイケル。右/クリエイティブ・ディレクターのアレキサンダー・ヘレ。2人が着ている服はすべて「T-マイケル」のもの

「ブランド創立時、私たちは2つのメンズスタイルと1つのユニセックススタイルを発表しましたが、すぐに、多くの女性が私たちの服に興味をもってくれていることがわかりました。女性用をいくつか作ってもみたのですが、もっと根源的に、男性用、女性用という考え方自体を見直す必要があると感じました。デザインを通して、境界や限界を推し広げることが大切だと考えています」とT-マイケル。「どんな顧客をターゲットにしているのですか? メンズですか? ウィメンズですか?とよく聞かれるのですが、その質問に答えることは、私たちが目指すところとは正反対のことなのです」

 現在店内に並ぶアイテムはメンズ70%、ユニセックス30%という比率だが、サイズが合えばすべて女性でも着られるデザインのように見える。店内にも、男女の区別なく歓迎するムードが漂っている。気に入りさえすれば、性別に関係なくただ着ればよいのだということに、改めて気付かされる。

画像: “ボタニカルカモ”と名付けられた、独自カモフラージュ柄のユニセックスのレインチョ¥159,500

“ボタニカルカモ”と名付けられた、独自カモフラージュ柄のユニセックスのレインチョ¥159,500

エコロジーとサスティナビリティ。パンデミック中に考えた未来

 このブランドは13年前のスタート当時から、エコロジーを重要だと考えてきた。防水性や撥水性などの高い機能を保ちながらも、使用する素材のすべてがリサイクル可能であることを目指し、生産に必要なエネルギーや服の耐久性なども含めた総合的な観点から、現時点でもっとも環境に負荷を与えないと考えられる方策を取っている。公式ウェブサイトには、彼らの取り組みが、達成されていることだけでなく未達成なことも含めて、明快かつ誠実に記されている。

 そして、ここ数年世界を覆い尽くしたパンデミックを経て、考えがさらに進化したという。

画像: アレキサンダー・ヘレ。ノルウェー西部のベルゲン出身。「ノルウェージャン・レイン」のコンセプトを発案し、T-マイケルにデザインを依頼

アレキサンダー・ヘレ。ノルウェー西部のベルゲン出身。「ノルウェージャン・レイン」のコンセプトを発案し、T-マイケルにデザインを依頼

「パンデミックは、私たちに腰掛けてじっくり考える機会を与えました。世界は、ものを作りすぎている。これは持続可能ではありません。私たちは多くの在庫を抱えてバーゲンセールを行うという現在のファッション・ビジネスのシステムを見直し、“コンパクト ストア”という考え方に辿り着きました。たとえば、カラーバリエーションを黒、ネイビー、そしてダークグリーンにとどめ、ピンクやオレンジを欲する数人に対しては、オーダーメイドで対応する、といったようなことから始めています」とヘレ。

画像: T-マイケル。ガーナの首都アクラに生まれ、14歳でロンドンへ移住。その後、ノルウェーのベルゲンに拠点を移した

T-マイケル。ガーナの首都アクラに生まれ、14歳でロンドンへ移住。その後、ノルウェーのベルゲンに拠点を移した

「私はテーラー出身ですので、欲しいといわれれば、どんなものでも作れます。昔ながらのやり方ですね。環境問題やテクノロジーなど、すべての要素をひっくるめて、古いやり方と新しいやり方を調和させることが重要だと考えています。確かにいえることは、私たちが作っているのは、ファッションではなく、服だということです」とT-マイケル。

  1シーズンで買い替えられるファッションではなく、長く愛用される服。雨にさらされる「ノルウェージャン・レイン」の服は、高い耐久性も求められる。修理も丁寧に、リーズナブルな価格で対応しているという。

「私たちは未来を信じているのです」と口を揃えた二人。エコロジカルであり、サステナブルであることと、スタイリッシュであることは両立するのだ。

東京大空襲をくぐり抜けた元ガラス問屋。見た瞬間に「ここが私たちの家だ」と思った

 東京・神田の古書店街にほど近い神田須田町には、第二次世界大戦の東京大空襲をまぬかれた一角がある。戦前からの建物が点在し、古い建物を活かしたカフェなども散見されるが、ファッションとは無縁の町並みだ。そんな場所に昭和初期から建つ、元ガラス問屋だった建物をリノベーションしたのが「ノルウェージャン・レイン & T-マイケル TOKYO STORE」だ。本拠地のノルウェー・ベルゲンとオスロ、そしてパリに次ぐ4店目となる。店内には「ノルウェージャン・レイン」と、T-マイケルの独自ブランドのアイテムが並ぶ。

画像: 昭和初期の建物を、梁や建具を残しながらリノベーションした店内。なぜか吹き抜けにヴィンテージの吊り輪が下がっている

昭和初期の建物を、梁や建具を残しながらリノベーションした店内。なぜか吹き抜けにヴィンテージの吊り輪が下がっている

「もともと、ファッショナブルな地域に出店することは考えていませんでした。東京のイーストエリアで物件を探し続け、半ば解体工事が進んでいたこの建物にたどり着きました。ある日曜日の午後に初めて見に来たとき、私はひとりで3〜4時間を過ごし、“ここが私たちの家だ”と確信したのです」とT-マイケル。

 インテリアには、1960年代のヴィンテージや現代のノルウェーのデザイナーによる家具が用いられ、アンティークの小物が散りばめられている。吹き抜けには、ヴィンテージの吊り輪が下げられている。

画像: 2階。左手前に見えるのが、第二次世界大戦時にアートを保管し、ベルゲンに疎開していた木箱。ベンチの上に、古い工具などが置かれている。突き当たりは坪庭

2階。左手前に見えるのが、第二次世界大戦時にアートを保管し、ベルゲンに疎開していた木箱。ベンチの上に、古い工具などが置かれている。突き当たりは坪庭

「ベルゲンのT-マイケルのショップを初めて訪れたときのことを鮮明に覚えています。店内は服だけでなく、アンティークの品物であふれ、それがきっかけとなって会話が弾みました。この店もその雰囲気を引き継いでいます。たとえばこの木箱は、第二次世界大戦時にベルゲンで使われたもので、貴重な絵画などのアートを収めて戦禍から守り、隠しておくためのものでした。これが、東京大空襲を生き延びたこの建物に置かれていることは、私たちにとってとても重要なことなのです。皆さんにも、買い物にではなく遊びに来て欲しい。心からリラックスして、楽しい気持ちになってほしい。吹き抜けの吊り輪は、そんな気持ちを引き起こすトリガーとして飾っています」とヘレ。

ショップ最奥にある畳敷のバーでヘルシーな“おにぎり”ランチも

画像: Bar and ONIGIRIうつせみ」内部。火・木・土のみ営業。営業時間は12:00〜22:00。ランチタイムは12:00〜13:00頃。ショップは20:00で閉店されるため、それ以後は電話をすれば鍵を開けて中に入れてくれる

Bar and ONIGIRIうつせみ」内部。火・木・土のみ営業。営業時間は12:00〜22:00。ランチタイムは12:00〜13:00頃。ショップは20:00で閉店されるため、それ以後は電話をすれば鍵を開けて中に入れてくれる

 2階のいちばん奥にはなんと、坪庭と、靴を脱いで上がる畳敷のバーが隠れている。以前はガラス問屋の店主家族の住まいだったという。ここで営業する「Bar and ONIGIRIうつせみ」は、オーナーの友人や会員のみが使えるサロン的な雰囲気だが、すべての人に開かれたオープンなバーだ。二四節気をベースにした季節のカクテルやおつまみ、おにぎりを提供し、昼時はおにぎりと豚汁のランチセットもある。

画像: おにぎり2個と豚汁がセットになったランチ1300円〜。中国茶からクラフトジン、季節のカクテルなども

おにぎり2個と豚汁がセットになったランチ1300円〜。中国茶からクラフトジン、季節のカクテルなども

 信頼できて、親しみやすく、一緒にいるとリラックスできて自由な気持ちになれる場所。友達の家に遊びに行くような気分で、梅雨に入る前にぜひ訪ねてほしい。

画像: 「せっかく雨が降っているんだから、外で写真を撮ろう!」と2人

「せっかく雨が降っているんだから、外で写真を撮ろう!」と2人

ノルウェージャン・レイン&T-マイケル TOKYO STORE
住所:東京都千代田区神田須田町1-12-6
時間:12:00〜20:00(月〜土)12:00〜18:00(日)
TEL. 03 3527 1766
公式サイトはこちら

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