ラルフ・ローレンが家族と夏を過ごす、ニューヨーク州モントークのビーチハウス。世界的デザイナーが心から寛ぎ、愛するものだけで満たされたその家は、海と緑に埋もれてひっそりと佇んでいた

BY TERUYO MORI, PHOTOGRAPHS BY MIGUEL FLORES VIANNA

画像: 波と風の音を聞き、移り行く光を感じながらワインを楽しむサンセットタイム。ローレン夫妻が家族やごく親しい友人と分かち合う、きわめてプライベートで穏やかな寛ぎの時間がここにある

波と風の音を聞き、移り行く光を感じながらワインを楽しむサンセットタイム。ローレン夫妻が家族やごく親しい友人と分かち合う、きわめてプライベートで穏やかな寛ぎの時間がここにある

 マンハッタンからロングアイランドを東へ車で数時間。大西洋に面したハンプトンズと呼ばれる地域は、西からサウサンプトン、ブリッジハンプトン、イーストハンプトン、アマガンセット、モントークの町から成り、"豊かなライフスタイル" を象徴する全米屈指の保養地として知られる。波の音と鳥の声、松林を吹き抜ける風の音、色とりどりの野生の草花が奏でる心地よいシンフォニーに身を任せられるハンプトンズは、ウィークデーをマンハッタンで忙しく過ごした富裕層やセレブたちが、優雅で気ままな週末や夏を過ごせる魅力的な息抜きの場として有名で、海辺ののどかな田園風景のあちこちに瀟洒な別荘が見られる。

ラルフ・ローレン氏の別荘は最東端のモントークにある。海からの潮風と新鮮な空気が気に入り、20代の独身時代から愛車を走らせてマンハッタンから足繁く通っていた。リッキー夫人と結婚し、子どもたちが生まれて家族が増えると、シンプルで安らぎを得られる居場所として毎年ハンプトンズに家を借りて夏を過ごすようになった。そのうちに気に入って購入したのが、今回、私たちが取材を許されたこの家だ。フランク・ロイド・ライトの弟子だった建築家のアントニン&ノエミ・レーモンド夫妻が1940年に設計した木造のビーチハウスで、母屋は大西洋が見渡せる小高いクリフの上に立つ。4 エーカーほどの敷地には、母屋を中心にゲストハウス、コテージ、ガレージを改装したスクリーニングルーム(映写室)、プール、プライベートビーチがある。そしてそれぞれは芝生の庭から連なる小道でサテライトのようにつながっている。

画像: 白と明るいブラウンを基調にしたリビングルームには、革張りのベンチやガラスとステンレスのサイドテーブルなど、20世紀前半にデザインされた名作家具をアクセントに配置。向かって左にあるテラスから海が一望できる

白と明るいブラウンを基調にしたリビングルームには、革張りのベンチやガラスとステンレスのサイドテーブルなど、20世紀前半にデザインされた名作家具をアクセントに配置。向かって左にあるテラスから海が一望できる

画像: 母屋の玄関では、真っ白な胡蝶蘭の鉢植えに出迎えられる。竹でつくられたヴィンテージの自転車や木の根っこ(burl root)をそのまま用いたテーブル、石の壁と木のドアや天井が素朴な雰囲気を醸し出す

母屋の玄関では、真っ白な胡蝶蘭の鉢植えに出迎えられる。竹でつくられたヴィンテージの自転車や木の根っこ(burl root)をそのまま用いたテーブル、石の壁と木のドアや天井が素朴な雰囲気を醸し出す

母屋を設計したレーモンド夫妻はライトが日本の帝国ホテルなどを設計した際にともに来日し、その後日本に数年住んでいた。そのためか彼らの設計には日本的な要素が数多く見られる。この家にも襖のような木製の引き戸など、至るところに和のテイストが感じられる。そのことについてローレン氏は、あえてオリジナルのデザインを残したと言う。
「私たちはこの家のすべての要素が大好きです。低い天井や木を使ったデザインは、海を眺める家にぴったりで居心地のよさを与えてくれます。つくり付けの部分が多く、まるで美しい船の中で暮らしているような感覚になります。この家にある一種のゆとりと静けさが好きなのです。石、木、革の自然な色調に心が安らぎます。なので、オリジナルのデザインの本質は変えたくなかったのです」

画像: 海が見渡せるテラスで朝食やランチをとるのがローレン夫妻の定番。自然素材の手編みのプレイスマットに白の陶器類。洗いざらしたようなシャンブレーのテーブルクロスと同系色のナプキンやデイジーの花が爽やかさを添える朝の食卓

海が見渡せるテラスで朝食やランチをとるのがローレン夫妻の定番。自然素材の手編みのプレイスマットに白の陶器類。洗いざらしたようなシャンブレーのテーブルクロスと同系色のナプキンやデイジーの花が爽やかさを添える朝の食卓

さりげなく置かれた小物すべてに物語があるとローレン氏は語る

 その母屋は2階建てで、玄関を入った2階に海が見渡せるテラスのあるリビングルームにダイニングルームやキッチン、階段を下りた1 階に二つのベッドルームと、TVを見たり夫婦で寛ぐシッティングルーム(sitting room)や庭につながるマッドルーム(mudroom/土間のようなスペース)がある。それぞれの室内には自然の石造りの重厚な暖炉や和のテイストが見られるが、そこにモダニズムを代表するデザイナーの家具を組み合わせて全体を調和させ、シックなインテリア空間をつくり出している。そしてどの部屋も旅の思い出の品々、家族の写真など、色も形も趣も異なる多くの小物で彩られている。しかし、そういった小物は"装飾品"ではないとローレン氏は語る。
「家は私たちが暮らすための場所であって、飾り立てる場所ではありません。私は一つのスタイルで統一するのではなく、いろいろなものを多岐にわたってミックスするのが好きなのです。好きなものには小物一つひとつにも思い出があり、それぞれが物語を語ってくれます。そうして家は住まう人が安らぐ場所になるのです」

マッドルームに飾られたバリ土産のバスケット

画像: TVを見たりおしゃべりしたり、一家団欒を楽しむシッティングルーム。壁には、今は成人した3 人の子どもたちの幼い頃やローレン夫妻の写真が飾られている。すべてモントークやイーストハンプトンなど、ハンプトンズで過ごした夏の思い出を写したもので、子どもたちの写真はほとんどリッキー夫人が撮影したもの。ローレン氏が大切にする、ストーリーが宿るインテリア

TVを見たりおしゃべりしたり、一家団欒を楽しむシッティングルーム。壁には、今は成人した3 人の子どもたちの幼い頃やローレン夫妻の写真が飾られている。すべてモントークやイーストハンプトンなど、ハンプトンズで過ごした夏の思い出を写したもので、子どもたちの写真はほとんどリッキー夫人が撮影したもの。ローレン氏が大切にする、ストーリーが宿るインテリア

画像: 松の茂みの中に突然現れる真っ青なプール

松の茂みの中に突然現れる真っ青なプール

 敷地内でひときわ目を引くのは母屋の隣のゲストハウス。藤の蔓や蔦が家の外壁から屋根までを覆い、きれいにトリミングされた芝生の庭の片隅に、野の草花や自生の植物に囲まれて佇む。ローレン氏は「小さな魅惑のコテージ」と表現し、「部屋の天窓から差し込む光と、石造りの暖炉の自然な美しさと質感が気に入っている」そうだ。

画像: かつての馬屋を改装したゲストハウスの内部。粗削りな石の暖炉など、素朴なオリジナルの雰囲気は残している。アメリカでは珍しい柳のように枝垂(しだ)れた胡蝶蘭は、日本に行ったときに見かけて気に入り、以来住まいの至るところに鉢植えを置くようになった。外壁と屋根は藤や蔦で覆われ、周りは木々で鬱蒼としているが、室内は天窓からの光で明るく温かみが感じられる

かつての馬屋を改装したゲストハウスの内部。粗削りな石の暖炉など、素朴なオリジナルの雰囲気は残している。アメリカでは珍しい柳のように枝垂(しだ)れた胡蝶蘭は、日本に行ったときに見かけて気に入り、以来住まいの至るところに鉢植えを置くようになった。外壁と屋根は藤や蔦で覆われ、周りは木々で鬱蒼としているが、室内は天窓からの光で明るく温かみが感じられる

画像: 芝生の庭の一隅に、木々や植物の緑に溶け込むように立つゲストハウス。ローレン氏は「小さな魅惑のコテージ」と表現する

芝生の庭の一隅に、木々や植物の緑に溶け込むように立つゲストハウス。ローレン氏は「小さな魅惑のコテージ」と表現する

藤や蔦で覆われたゲストハウス。庭は常に"緑"が青々と茂っている。枯れる木々は好きではないそうだ

ゲストハウスの脇には季節の花が咲き乱れる小さなフラワーガーデンが

画像: ガレージを改装した映画鑑賞用のスクリーニングルーム。ゆったりとしたソファーに、ポップコーンの機械も用意されている。ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの『カサブランカ』(1942年)やケーリー・グラントとグレース・ケリーの『泥棒成金』(1955年)に加え、『ロッキー』や『バットマン』もローレン氏のお気に入り

ガレージを改装した映画鑑賞用のスクリーニングルーム。ゆったりとしたソファーに、ポップコーンの機械も用意されている。ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの『カサブランカ』(1942年)やケーリー・グラントとグレース・ケリーの『泥棒成金』(1955年)に加え、『ロッキー』や『バットマン』もローレン氏のお気に入り

 モントークの魅力を尋ねると、答えは「the ocean, the air, the quality of the light(海、空気、陽の輝き)」。これら3つの魅力はまた、ローレン氏のクリエーションの源泉にもなっている。
「メンズ、レディス、キッズ、そしてホームと、コレクションの多くはモントークでの私たちの暮らしぶりからインスピレーションを得ています。自由で気ままでカジュアルな生活。カットオフのジーンズに洗いざらしのTシャツ、白に白を重ねたり、コットンやレース、さまざまな青の色調はこの地の海の色と空の色を映し出しています」

リッキー&ラルフ・ローレン夫妻。1977年、モントークにて
RICKY AND RALPH LAUREN ON THE BEACH IN THE HAMPTONS, NY. (LES GOLDBERG, 1977)

 モントークはローレン一家にとって夏の避暑地だが、空気が澄んでくる秋口にデッキに腰を下ろして海を眺めるのもローレン氏の楽しみの一つで、お気に入りはクリフの上から海に沈む夕日を眺めること。そして家族水いらずで過ごせる場所だからこそ、家族との多くの思い出がつくられる場所でもある。
「子どもたちがまだ小さかった頃、夏の間はずっとモントークで過ごしていました。ここは自然にあふれています。アジサシが浜辺を走り、カモメが空に向かって飛び立つのを見るのが大好きでした。私たちにとってここは、裸足で過ごす特別な避暑地なのです」

ホームコレクション40周年を記念して今年9 月にRizzoli社から出版された『Ralph Lauren A WAY OF LIVING』。ラルフ・ローレン氏のスタイルとデザインへのアプローチに焦点をあてた一冊

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