パリ・オートクチュール・コレクションに参加するユイマナカザトが始めた「TYPE-1」という新しい衣服のサービス。縫製をせず、自由にカスタマイズができるというその衣服に、デザイナーの中里唯馬はどのようなビジョンを描いているのか

BY MASANOBU MATSUMOTO

 2016年、日本のファッションブランドとして12年ぶりにパリ・オートクチュール・ファッションウィークに公式参加したユイマナカザト。以来、その特別な場所でデザイナーの中里唯馬が提案してきたのは、一貫して“針と糸を使わない衣服”だった。たとえば、ホログラムの小さなパーツをユニット化しパズルのように組み合わせた可変的なドレス。水に濡れると収縮する特殊な布地を使い、服の形をコントロールする独自技術「バイオ・スモッキング」を駆使したコレクションを発表したこともあった。

 3月17日にローンチされた新ライン「TYPE-1」は、こうした“針と糸を使わない衣服”の実用版と言える。シンプルなオーガニックコットンのニットと、襟や袖、裾部分につけられるレースやニットのカスタマイズ用パーツ。それらを縫製ではなくドット状の金具で繋ぎ留め、一着の服を作り上げる。この金具が肌に直接当たらないように、日常生活に耐え得るように、また誰でも簡単に分解・組み立てができるように、約6年間、改良を加えてきたという。実際、慣れれば30分ほどで1着の服が完成し、着用時のストレスも感じさせない。

画像: 「TYPE-1」のボディと装飾パーツ。ボディのサイズは3種類。購入者が自由に選んでカスタマイズできる。長いレースを裾部分に取り付ければワンピースに。オンラインサイトでオーダー後、ユイマナカザトのデザインチームが制作し、2週間ほどで完成品が手元に届く

「TYPE-1」のボディと装飾パーツ。ボディのサイズは3種類。購入者が自由に選んでカスタマイズできる。長いレースを裾部分に取り付ければワンピースに。オンラインサイトでオーダー後、ユイマナカザトのデザインチームが制作し、2週間ほどで完成品が手元に届く

画像: ニット¥176,000※ ボディと装飾パーツを合わせた価格 ボディは3Dニッティングマシン編み上げたオーガニックコットンのニット。襟元、袖、丈部分の装飾パーツは、着物に使われる桐生産の絹糸を手編みしてできている

ニット¥176,000※ ボディと装飾パーツを合わせた価格
ボディは3Dニッティングマシン編み上げたオーガニックコットンのニット。襟元、袖、丈部分の装飾パーツは、着物に使われる桐生産の絹糸を手編みしてできている

 ユイマナカザトのオンラインストアでは完成品のほか、装飾パーツのみの販売も行う。デザインを変えながら、傷んだ部分を交換しながら着続けることができ、そうやって長く着たボディをブランドに送れば、新しい装飾パーツにアップサイクルも可能だ。“針と糸を使わない衣服”は、環境汚染や廃棄物の問題など、ファッション産業全体が抱える課題解決につながる“ソリューション・ワードローブ”とも言えるだろう。ただ、中里は別の視点で、衣服の本質や可能性を考えながら、そこに理想的な衣服のかたちを模索してきたのだという。

 針で糸を通し、布と布をしっかりと固定する縫製は服飾における根本的なテクニックである。そのルーツは古く、大英博物館には約2万年前のものとされる、動物の骨でできた針が展示されている。その写真を見せながら、中里は「動物の皮を張り合わせ身にまとったのでしょう。それが衣服づくりの原型ならば、当時から今もその方法は大きく変わっていません。それだけ完成度の高い技術とも言えます」と語る。「ただ、ぴったりと布地を縫い合せられた衣服は、その反面、簡単にかたちを変えにくいという側面もあります」。それが衣服を長く着る際のボトルネックになっているのでは、というのだ。

 社会的なニーズ、作り手の責任のあり方、求められるデザインは時代とともに変化する。また人自体も変化しながら生きるものだ。体型だけでなく価値観も含め、生きている間にいろいろなものが変わっていく。それに既存の服は対応できていない。
「衣服の起源からこの先、理想的な服というものがどうなっていくのかを想像したとき、もし針と糸をアップデートでき、無限にかたちを変えられるようになったら、もっとより良い衣服が生まれるかもしれないと考えたのです」

画像: モデル、ローレン・ワッサーを起用した2021春夏クチュール・コレクションのキービジュアル

モデル、ローレン・ワッサーを起用した2021春夏クチュール・コレクションのキービジュアル

「TYPE-1」という名称には、“一点もの”という意味も込められている。
「オートクチュールの定義はさまざまですが、着る人のために一点ものの服を作るというのが、その真髄だと私は思っています。かつては限られた人へのサービスだったものを、どうしたら多くの人に届けられるのかーーそれも「TYPE-1」開発の原動力になっています」

 映像で発表された2021年春夏シーズンのクチュール・コレクションでも、モデルのローレン・ワッサーが「TYPE-1」を着用して登場した。オンラインでコミュニケーションを重ね、一緒に作り上げた彼女のための1着である。金具には彼女のアイコンカラーであるゴールドを選び、首元の金具部分には同じくゴールドの刺繍飾りを施した。それをワッサーはとても喜んだ。服を捨てるか、取っておくかは所有者にしかできない。その選択に“一点もの”という価値は、大きく左右する。「お母さんが作ってくれたニットもそうですよね。大人になって着られないかもしれないけれども、取っておきたい何かが宿っている。糸を解いて手袋に編み直したくなるかどうか。単なるマス・カスタマイゼーションではなく、そういった衣服の豊かさをこのプロダクトから感じ取ってもらえれば嬉しい」

画像: ニット¥68,000 ※ ボディと装飾パーツを合わせた価格 ブラックのボディに、北フランスのビンテージ編み機で制作したレースの装飾を加えたバージョン PHOTOGRAPHS: COURTESY OF YUIMA NAKAZATO

ニット¥68,000 ※ ボディと装飾パーツを合わせた価格
ブラックのボディに、北フランスのビンテージ編み機で制作したレースの装飾を加えたバージョン
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF YUIMA NAKAZATO

 デザイナーは、できるだけ着る人と近い距離にいるのがいいと中里は話す。「SNSで繋がっているというのではなく、販売員や美容師のように、物理的に着用者と近い距離でコミュニケーションできた方がいい。たとえば、美容師の方は顧客の髪質や頭の形、求めているデザインを瞬時に察知して、一点ものの髪型を提案する。デザイナーもそのくらいの立ち位置になっていければいいな、と」。デザインのバリエーションを増やすとともに、将来的にはリアルな店舗を設け、顧客と会話しコーヒーを一杯飲んでいる間に、一着を作り上げられたり、アレンジできるようなかたちを目指す。オートクチュールをより身近に、より多くの人に一点ものを。そこに中里は衣服の未来を見ている。

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問い合わせ先
YUIMA NAKAZATO
contact@yuimanakazato.com
公式サイト

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