「ジル サンダー」の共同クリエイティブ・ディレクターを務めるルーシー&ルーク・メイヤー夫婦が愛するものをつまびらかに

BY LINDSAY TALBOT, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

 ルーシー(39歳)&ルーク・メイヤー(45歳)はフィレンツェのポリモーダ・ファッションスクールで出会った。ルークはカナダのバンクーバー出身、当時はニューヨーク州立ファッション工科大学からの交換留学生だった。スイスのツェルマット出身のルーシーはファッション・マーケティングを学んでいた。夏休みのドライブ旅行をきっかけに、翌年からつき合いはじめたふたりは2007年に結婚。

画像: ルーク「オリヴィエ・ケルヴェルヌ撮影の私たち(2020年12月)。ルーシーはジル サンダー、私はOAMCとジル サンダーを着用。コム デ ギャル ソンやシュプリームの服もよく着ています」 © OLIVIER KERVERN

ルーク「オリヴィエ・ケルヴェルヌ撮影の私たち(2020年12月)。ルーシーはジル サンダー、私はOAMCとジル サンダーを着用。コム デ ギャル ソンやシュプリームの服もよく着ています」
© OLIVIER KERVERN

 ふたりは2017年からジル サンダーの共同クリエイティブ・ディレクターを務めている。現在のファッション界では夫婦がタッグを組むのは珍しい。ルークはシュプリームのクリエイティブ・ディレクターを8年務めた後、2014年にメンズウェアブランドOAMCを共同設立。ルーシーはマーク・ジェイコブス時代のルイ・ヴィトン、バレンシアガを経てディオールでデザインに携わった。

 ミラノに拠点を置くジル サンダーは、時代の変化の中で紆余曲折を乗り越えてきた。創業者のジル・サンダーは1968年にドイツのハンブルクに自身の名を冠したブランドを立ち上げたが、’99年にプラダグループに経営権を売却。続く14年間、サンダーは三度も同ブランドを去る決断をしている。ラフ・シモンズ(2005~2012)をはじめ、デザイナーの交代を何度か経て現在に至る。サンダーが80〜90年代に確立した“妥協のないミニマリズムのパイオニア”というアイデンティティは、メイヤー夫妻にも受け継がれている。「子どもの頃、母がよくジル サンダーの服を着ていました。それに影響を受けてファッションやデザインを学びたいと思ったのです」とルーシー。清教徒を思わせるシンプルなシャツドレスや端正なブレザーなどのブランドのシグネチャーをベースに、ふたりは心地よいコクーン風ケープや床まで届くマクラメ編み、クチュール級の素材と手仕事による装飾を加え、独自のモダンな感覚をプラスした。ルークは言う。「私たちが追求するのはミニマリズムではなく純粋な美なのです」

画像: COURTESY OF JIL SANDER

COURTESY OF JIL SANDER

ルーシー「2020-21年秋冬コレクションのお気に入りのルック。ダブルのウールパンツにレモン色のシルクモヘアのケープ。ふんわり巻きつくシルエットが手編みブランケットの温もりと心地よさを感じさせる」

画像1: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「故郷で両親が営むレストラン『Zum See』のトルテッローニ、セージバターソース。オープンしたのは36年前。マッターホルンのふもとの小さな集落にあり、ツェルマットの町が一望できる。自家菜園で穫れた食材を使い、パスタもジャムも自家製」

画像: ANDREW PIELAGE

ANDREW PIELAGE

ルーク「数年前、母と訪れた、優れた音響効果で有名なフランク・ロイド・ライト設計のキャバレー劇場。アリゾナ州スコッツデールの建築スタジオ、タリアセン・ウエスト内にあるライトの最高傑作のひとつ。南西部の砂漠が力強いエネルギーを発している」

画像2: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーク「2018年春夏コレクションのキャンペーンで映像ショートフィルムを手がけたヴィム・ヴェンダースが作った紙ヒコーキ。私たちが望んだのは本物のアーティストとのコラボレーション。ジル サンダーで仕事を始める際、自分たちの考えをはっきり伝えたんだ。歴史あるジル サンダーだが前進と進化が必要だ。そのためのプロジェクトを目指したいと」

画像3: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「パリの自宅アパルトマンの鏡に映る暖炉の上の棚。菊やストックなどを活けた花瓶はアスティエ・ド・ヴィラットのもの。いつもパリに着いたら、まず花を探しに出かけるの。このアパルトマンに漂う雰囲気は本当に素晴らしい。建物は古典的なオスマン様式だけど、4年前とした部屋のリフォームで明るく広々になった」

画像4: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「2018年の夏休みに訪れたドロミテ山脈。右の方に写っているのがルークと私。ふたりとも自然のなかにいるのが大好き。ドロミテには不思議なエネルギーが満ちていて、故郷を少し思い出させるわね。ツェルマットはもっと青々としていて、これほどアグレッシブな印象はないけれど」

画像5: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「何年もかけて集めたコレクションの一部。緑と茶の大理石の器はスリランカ、左のお椀は日本で購入。ほかの3点はパリの陶芸スタジオで作った自作の陶器。デリケートなものだけれど日常使いしている」

画像: COURTESY OF SHANIQWA JARVIS AND BAQUE CREATIVE PRESS

COURTESY OF SHANIQWA JARVIS AND BAQUE CREATIVE PRESS

ルーク「私たちの親友シャニクワ・ジャービスの写真集。出版を手がけたのは同じく親友のアンジェロ・バク。旅先で会った人々や風景など、彼女のユニークな視点とアプローチが見てとれる。人をリラックスさせる術を心得ている彼女だからこそ、被写体の心を捉えることができるんだ」

画像6: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「ミラノの自宅の近所にあるエレナ・パルメジャーニの『シスターズ・アンティークス』で買ったゴールドのインド製イヤリング。この店は美しいアンティークジュエリーが充実。このイヤリングはフォルムが面白く、大きい割にとても軽いのよ」

画像7: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「2019年春夏コレクションに登場した厚底サンダル。2018年に四度ほど日本を訪れ、東京や地方の小さな店で見た“下駄”にインスピレーションを得て生まれたもの。デザインがシンプルでピュアなうえに、未加工の天然木で作られていることにも惹かれた。13cmほどの厚底だが、ソールの幅がワイドで、実際かなり歩きやすい」

画像: NOAH DAVIS, “UNTITLED,” 2015 © THE ESTATE OF NOAH DAVIS, COURTESY THE ESTATE OF NOAH DAVIS AND DAVID ZWIRNER

NOAH DAVIS, “UNTITLED,” 2015 © THE ESTATE OF NOAH DAVIS, COURTESY THE ESTATE OF NOAH DAVIS AND DAVID ZWIRNER

ルーク「大好きなノア・デイヴィスの絵画。パリに住んでいた頃、ノアと彼の父、兄のカリルと一晩じゅう語り明かし、最高の時間を過ごした。それまで経験したことがないほど刺激的な日々を今も鮮明に覚えている」

画像: RICH KANE PHOTOGRAPHY/ALAMY

RICH KANE PHOTOGRAPHY/ALAMY

ルーク「バスケットボール選手のアレン・アイバーソンは、ジョージタウン大学での同窓生。高々と突き上げる腕には感情があふれ、試合のたびに感動した。在学中、私がDJをしたパーティによく来てくれた。私の音楽を気に入ってくれていたならうれしい」

画像8: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーク「10歳の私。リモコンカーの組み立てに夢中の、機械いじりが好きな少年だったらしい。ファッションに囲まれて育ったわけではないが、スケートボードやスノーボード、音楽が流行していた。ティーンエイジャーになると、デザインの社会的意義に興味を持ったんだ。――あるスケートブランドのロゴはこんなにクールなのに、なぜほかはパッとしないのか? なぜブランディングは有効なのか? などね」

画像9: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーク「ドロミテをハイキング中、木彫り職人の店で見つけた“小さな天使”。ほかにも素晴らしい作品が並んでいた。ルーシーの両親もスイスの自宅の玄関扉に似たものを掛けている。まるで守護天使のようにみえる」

画像10: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「マンハッタンのチャイナタウンにある『マジックジュエリー』で撮ったふたりのオーラ写真。ひとりで行くと私のオーラはいつも赤。はじめてふたりで行って撮ったら、こんな青と紫のグラデーションに」

画像11: COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

COURTESY OF LUCIE AND LUKE MEIER

ルーシー「ツェルマットの自宅の庭で花を摘む4歳の私。長い冬が終わり、クロッカスの花が咲き始めるこの時期が大好きだったのよ」

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